第十話
「ガァァアアア!!」
雄叫びを上げた魔物は全身を大きく広げ黒い炎を吹き出した。
「魔物を倒すとあのデカイ奴がさらに強くなっていってる気がするんだか……」
『あぁ……』
ショーゴは魔力を一点集中し変化した魔物に強烈な雷撃を落とした。
しかし雷撃はその魔物の頭上で消滅した。
「やっぱり魔法が効かない……どうしたら……」
『使ったことのない魔法とかはないのか!?』
「使ったことのない魔法……」
集まってくる魔物を蹴散らせながら叫んだ。今まで使っていた魔法で倒せないなら、それ以外を試してみるしかない。
『とにかく何でもやってみろ! 他の人間も魔物を倒せている、そなたはあの魔物に専念しろ!』
ショーゴは思い付く限りの魔法を発動させた。だがどれもその魔物には効かない。
結界を張って動きを封じようにも無効化されてしまう。
黒い炎に呑まれた者、魔物に攻撃される者。周りの者たちが傷付いていくのを目の当たりにする度に焦りの色が見えてくる。
ショーゴの魔法では無理なのか……どうすれば倒せるのだ……。
『もう限界か……』
我の言葉が聞こえたのか、ショーゴはビクッとし考え込んだ。
胸の辺りを握り締め呟いた。
「後一つだけ試させてくれ……」
周りの人間たちが必死に魔物に攻撃魔法を浴びせている横で、ショーゴは集中していた。
『ショーゴ?』
「最初から知っていて、知らない魔法があるんだ……」
『?』
知っていて、知らない魔法? 何だそれは?
ショーゴは胸の辺りを握り締めたまま集中した。すると握り締めた辺りが光だした?
金色の煌めく光がショーゴの手から溢れ出して来ていた。金色の光はショーゴの手から零れ落ち、身体全体を包みさらに広がっていった。
金色の光に包まれた者は傷が治って行った。皆、その様に呆然としている。
光はさらに一層広がり、黒い炎をも消滅させながら例の魔物まで届いた。
例の魔物まで届いた光はショーゴから魔物に全てが移り、魔物の全てを包んだ。
魔物は苦しそうに唸り声を上げながら踠いている。しかし、光は纏わりついて離れない。
「グワァァアア!!」
魔物は耳が裂けそうな程の唸り声を上げ、周りにいる人間たちを吹き飛ばした。
光は小さな粒になりキラキラと煌めき、それに付着するかの如く、その魔物の身体が崩れ始めた。
魔物の身体が光と共に崩れ落ちていく。
その光は小さくなっていき、ボロボロと崩れ落ちる魔物の身体とともに消滅し、そして全て消えた。
その魔物が消滅したと同時に、残っていた数匹の魔物たちも崩れ落ち消滅していったのだった。
残された人間たちは呆然とその光景を眺めていた。
我もその内の一人であったが……。
『ショーゴ、あの魔法は一体……』
ショーゴは魔力を使い果たしたからか、気が抜けたからなのか、その場にへたり込んだ。
「あれは……何だかよく分からない魔法なんだ。魔法を知る前から知っていたようで、でも魔法かどうかも分からない、魔法だとしても発動方法もどんな魔法かも全く分からなくて、ただ俺の中にずっとあったのだけは知ってたんだ……だから、今回それをふと思い出して試してみた。発動出来るか不安だったけどな」
そう言いながら苦笑していた。
「無事発動出来て良かったよ」
ショーゴは倒れ込み空を仰いだ。その顔は清々しい顔付きだった。
呆然としていた人間たちは魔物がいなくなったことにゆっくりと頭が追い付き、歓声を上げた。
動ける何人かの人間がショーゴの周りに駆け寄り、口々にお礼を言った。
ショーゴは戸惑いながらも、人間たちに感謝され嬉しそうにしていた。
ぜひとも王と謁見を、と促され、休息のため王宮の一室へと連れて行かれた。
魔獣は王宮へ入ることは許されていない、と、一人の魔導士が申し訳なさそうに言った。
ショーゴはそれならば自分も行かない、と反抗していたが、どうしても、と食い下がる魔導士とのやり取りはキリがなかったため、ショーゴを宥めた。
『我は大丈夫だ。ここで待つ』
「分かった……すぐ戻る」
それがショーゴとの最後の会話となった。
謁見を終えて王宮にいるはずのショーゴの気配が突然消えた。
『ショーゴ!! ショーゴ!!』
我は叫んだ。
ショーゴが消えた。どういうことだ!?
何があったのだ。全く気配がない、
我は王宮に駆け付けたが、やはり中に入ることは許されず、魔導士たちに聞いても知らないとしか答えない。
それどころか、ショーゴは急に消えた、どこにやったのだ、と逆に詰め寄られた。
我は王宮を出た。
一体どういうことだ……ショーゴ……どこに行ったのだ。
気配がない……遠くにあるでもなく、微かにも感じず、全く気配を感じない。それはもうこの世界にいない、ということ。
ショーゴ……
我は再び独りとなった。




