苦くて甘い、ムゲンループを~とあるもとフリーターのキセキ~
俺はいま、人生最大の感動に打ち震えていた。
俺の手になるチョコレートファウンテンは、その頂点からブラウンの美しい色合いをはじきつつ、とうとうとチョコソースを流し続けている。
その流速は、もう三十分間変わっていない。
いまこれには、一切の動力を働かせていないにもかかわらず。
ほんとうに、こんなことが。すごい、すごい、すごすぎる。
なぜって、今この目の前で完成したのは、人類永遠の夢といわれた『あれ』――
そう、永久機関なのだから!
なぜ俺がこんなものを作ってしまったのか。かいつまんで話そう。
ほんの少し前まで、俺はしがないフリーターだった。
だが頼りになる親友が、海外で俺のためにと会社を設立してくれた。
チョコレートファウンテンとそこに流すチョコソースをトータルで設計・開発・販売・レンタルもする会社の社長となって、直々に迎えに来てくれたのだ。
チョコレートを三度の飯より愛する俺は、二つ返事で奴の手をとり、やがて自分でも、チョコレートファウンテンを設計するようになったのだ。
いろいろと失敗もあった。チョコレートファウンテンが大爆発したこともあった。なんだか異界からよくわかんないものを召喚しかけたこともあった。
それでもわが親友は俺を見捨てることなく、いつもあたたかく支え続けてくれた。
お前は世紀の天才だ。俺にはちゃんとわかってる。何があっても俺だけは、絶対ぜったいに、お前の味方だ……そう言って、ときに厳しく、ときに優しく、俺をひっぱってってくれた。
その献身の結果は、奇跡以上の奇跡として現れてくれた。
無限チョコレートファウンテン。
いくつかのループを組み合わせ、既定の手順でチョコソースを流し始めれば、あとは動力を必要としない。
それどころか、汲んでも汲んでもチョコソースが減らないのだ!
やった。ついにやった。これであいつに報いてやれる。大会社の社長として、俺には見せない苦労をしながら、俺を支え続けてくれたあいつに、ちょっとだけでも楽をさせてやれる。
さっそく俺は駆け出した。あいつを捕まえて報告だ。
あいつも無類のチョコ好き仲間。絶対絶対、喜んでもらえる!!
だが、その時だった。
つるり、足が滑った。
バランスを崩した俺は、まっさかさまに無限チョコレートファウンテンの中へ!
「うわあああ……あ?」
ぷにぷに、ぺちぺちと頬を叩く感触に目覚めれば、そこは俺のオフィス、俺のデスクだった。
目の前にはわがいとしの三毛猫ミーコ。俺を見下ろし「にゃあ」とあまーいモーニングコールをくださるや、優美な仕草で立ち去ってゆかれる。
ああ、これぞこの世の天使。これぞ最高の目覚め。俺は今日も幸せだ。
そんな夢のようなシチュエーションだが、だからこそ気が付いた。
どうやらさっきまで俺は、夢を見ていたらしい。
内容はよく、思い出せないけれど。
まあいい、それよりも今は、研究の続きだ。
今俺が寝食を惜しんで開発しているものには、それだけの価値がある。
新機軸、夢のチョコレートファウンテン。一言でいうならば、無限チョコレートファウンテンなのだから。