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サメ爆破。

 エクサロドンが地面に落ちると同時、地響きが牙の島を揺らす。


 その様子を、俺とせ―さんは海に浮かびながら眺めていた。


 落下していくエクサロドン、一緒に落ちれば俺とせーさんは落下ダメージでタダでは済まない。


 じゃあどうしようかと咄嗟に考え、俺たちが取った行動は”飛び降りる”だ。


 無論、エクサロドンから飛び降りても、下が地面では落下ダメージを受けてしまう。


 なので、俺たちが落ちようとした先は陸地の反対、海面だ。


 海に落ちれば落下ダメージは受けない。


 咄嗟の退避行動の甲斐あって、俺とせーさんは生還成功。


 そして現在は海をプカプカと浮かんでいる、というわけだ。



「いやー危ない危ない。一緒に落ちたら落下ダメージで死んでたわ」


「そうですね。……ところで、エンネアさんから聞いたのですけど」


「え?」


「カネツグさん、落下耐性スキルを持っていて、落下ダメージを受けにくいのでは?」


「……忘れてた」



 落下ダメージとか気にする必要なかったじゃん。


 まあ、せーさんだけ海に飛び込ませて、俺はそのままというのもなんだか、という感じなので、良しとしよう。


 と、エクサロドンの方では仲間たちが巨大ザメに攻撃を仕掛けている。


 ペスカが雷弾を発射し、アルがガトリングガンで肉を抉っていき、アカツキが両手の大剣を振り回す。


 エンネアのドロイドが何もしていない? と思っていたら、なんとドロイドたちは自らエクサロドンの口内に飛び込んでいく。


 巨大ザメの腹の中に大量のドロイドが収まると、エンネアが何事か叫んでいた。


 たぶん、”オーダー、総員炸裂”といういつものセリフだろう。


 直後、エクサロドンが内側から大爆発。


 そういえば妹が言っていた。


 ”大抵のサメはダイナマイトを食わせりゃ死ぬよ”って。


 かくして、エクサロドンとの戦いはサメ映画的に決着したようだ。


 それを見届けた後、俺の隣でせーさんがくすりと笑った。



「……ふふっ」


「どうしました?」


「いえ、楽しかったんです。今まで、どこのパーティにも長くいられませんでした。だから、仲間と一緒に何かをやり遂げるの、初めての経験です。とても、楽しかった。サメさん、いっぱいでしたし。ふふふふふ」



 ひとしきり笑った後、せーさんはぷかぷか浮かびながら、俺の方を向き直る。



「……本当に、ありがとうございます、カネツグさん。あなたが誘ってくれたおかげで、楽しい経験ができました。あなたのおかげで、私は自分の欠点にも気づけました。あなたの仲間になれて、よかったです」


「それならこっちとしても誘った甲斐があるってもんです」


「それと、さっきのお話ですが」


「話……ああ」



 せーさんが死亡フラグを立てようとしていたので止めたんだった。


 彼女はなにか、俺に話があるらしい。



「エクサロドンが死んだらサメの群れもどっか行ったし……いまなら話しても大丈夫でしょう。海に浮かびながらってのも締まらないけれど」


「ふふっ、確かに、ちょっと変ですけれど。……おじいさまと、少しお話をしてきました」



 おじいさま。


 せーさんのお家の現当主、優しくも厳しいらしい人物。



「かつて私が間違えた答えを、訂正してきたんです。私は、私がやりたいと思っていることを、おじいさまに伝えることができました」


「……どうなりました?」


「おじいさまは、笑ってくれました。やりたいことが見つかって良かったな、と。家はどうとでもなるから、やりたいことをやりなさい、と」



 どうやらせーさんのおじいさまは、家を守ることよりも、孫の幸せを願うような、本当に優しい人のようだ。


 彼女の家の事情を深く知るわけでもないが、うまくいったのなら本当に良かった。


 心の底からそう思う。



「おめでとうございます、色々と」


「ありがとうございます、本当に。……これで、私は私のやりたいことを――夢を、目指すことができます」



 せーさんは、満面の笑顔でその夢を語る。



「そう……”ヒップホップで食べていく”という夢を目指すことが!」


「待って!?」



 思わず止めてしまった。


 俺の大声で、せーさんが不思議そうに首を傾げる。



「ど、どうしました?」


「せーさんの夢って!? えっ!?」


「ヒップホップで食べていく、ですよ?」



 なにもおかしいことなどないかのように、せーさんは言う。


 いや、おかしい。


 そんな剣客アバターを使ってる和風な感じで、曰く良家のお嬢様らしくって、立ち振舞もそれに相応しい淑女のソレで。


 勝手ながら、中の人はきっと今や絶滅危惧種の大和撫子なのだろうと想像していた。


 そんなお方の夢が――ヒップホップで食べていく?


 おかしいでしょ?


 いま俺の頭の中では大和撫子な雰囲気の女性が箱型のラジオを肩に担いでノリッノリですよ?


 っていうかおじいさまも止めろよ。


 なに孫を将来が不安定どころじゃない茨の道に進ませようとしてんの。


 ああもうどこからどう言えば。



「っていうか、せーさんヒップホップとか聞くんですか!? クラシックとか演歌しか聞かなさそうなイメージあるんですけど!?」


「いえ、聞いたことはありませんよ?」


「は?」


「ですが、学友が楽しげに語っている姿を見たのです。”俺、将来はヒップホップで食っていくんだ”と。それだけ楽しく語れる夢なのだから、きっと楽しいことなのでしょう。だから私もやってみたい」


「いや聞いたことすらないジャンルの音楽で食べていけるわけないでしょ!?」


「これから聞きます。それに少しだけなら知識もあるんですよ」


「知識?」


「はい。ヒップホップというのは、”よう、よう”といった歌詞を使うそうですから……つまり、枕草子のような感じですよね?」



 春はあけぼの。”やうやう”白くなりゆく山際。



「全ッッッッッッ然、違うッ! 日本の古典と1970年代アメリカ生まれの音楽でかすってもいない!」


「へぇ、ヒップホップってアメリカ生まれだったんですね。カネツグさんは博識です」


「ヒップホップで食っていこうとしている人間とは思えないセリフが出たな……いやもうダメ! ヒップホップはなし! 他の夢はないんですか!?」



 このまま放っておくとせーさんの将来が不安定になってしまう!


 俺は慌てて軌道を修正させようと彼女に問う。



「ヒップホップ以外ですか? それなら、あれがいいです。ゆーちゅうばー? をやって、投げ銭で食べていく、というのが」


「動画配信者!? 将来が不安定そうな夢の代替品として将来が不安定な夢を持ってくるんじゃあありませんッ! 次!」


「他となると……横綱、になってみたいです。おじいさま、お相撲がお好きですし」


「女の子じゃ無理だよ伝統的にッ! 次!」


「アニメーター! 絵なら描けますから」


「描けるって、どのくらい?」


「小学生の頃、水墨画コンクールで金賞を受賞したことがあります」


「水墨画とアニメ絵は間違いなく別物だよ! っていうかやっぱ将来が不安定だし! 次!」


「それなら――――」



 ……その後も出てくる出てくる、あまり堅実とは言えない感じの将来の夢が。


 それらを本気で目指すというのなら、応援してもいいのだが……皆さま、ヒップホップのくだりでなんとなくお気づきでしょう。


 せーさんが言ってる”夢”とは、人生を賭けて本気で目指しているような”将来の夢”ではなく、なんとなく楽しそうだからやってみたいという”憧れ”に近いものなのだ。


 確かに彼女の”やりたいこと”には違いない。


 しかし、せーさんのおじいさまが彼女に聞いた”やりたいこと”の答えではないと思う。


 ”やりたいこと”はあっても、”夢”までは決まっていないのだ、今のせーさんは。


 その事実に気づいた俺は、ゆっくり落ち着いて、彼女を諭す。



「……せーさん、夢というか、ひとまずは趣味の範囲でやりたいことをやるのがいいと思います」


「趣味の範囲で、というと、ゲームと同じく、ですか?」


「はい。それで自分にあっていると思う趣味を見つけたら、それをおじいさまが言う”やりたいこと”に――将来の夢にしましょう。そうしないとせーさんの人生が迷走する……!」


「……よくわかりませんが、なんとなくカネツグさんの言うことが正しい気もします。わかりました、まずは趣味で色々と始めてみます」


「そうしてください、あと将来についてはご家族と要相談していく感じで」



 これでなんとかなっただろうか。


 良家の跡継ぎとして安定した生活ができるはずの人物が、俺のアドバイスのせいで人生に迷走しておかしなことになったら責任が取り切れない。


 お願いします、せーさんのご家族、彼女をいい感じに導いてやってください。


 ちょっと天然すぎます、この人。


 さて、そんな話をしている間、ずっと水の中にいた俺たち。


 そのせいで、アバターの体が体が冷えてきてしまった。



「……寒くなってきた。とりあえず、陸に上がりますか」


「そうですね」



 ちゃぷちゃぷと泳いで、陸の方へ。


 浜辺では仲間たちが俺たちを待っている。


 と、せーさんがふと言うのだ。



「あ、やりたいこと、ありました。いますぐに」


「なんです?」


「ハイタッチ、というものを、してみたいです。皆さんと」


「すぐに叶いますよ、その夢なら」



 こうして、俺たちは三つ目の証を入手し、またゴールへと近づいた。

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