サメ映画じゃ日常茶飯事。
アルたちの凶行の直後、海面から飛び出してきたのはサメだった。
それもおびただしい数の、空間をサメ色に染め上げてしまうほどの量のサメ。
サメたちは海辺にいた釣り人に次々と襲いかかる。
鋭い牙に食いちぎられるプレイヤー、どんどん増える死体。
なんだかモンスターパニック映画の――サメ映画のワンシーンみたいなことになっていた。
「なんかえらいことになってるんだけど!?」
「……これは、怒らせたね、サメ神を」
「サメ神!?」
「業界に伝わる伝説だよ。”海、穢されし時、サメ神は目覚め、眷属と共に悪しき者らを食らうであろう”という……」
「そんなのあるの!?」
「いまウチが考えた」
「適当なこと言いやがって!? ……い、いや、でも確かに」
次々と海中からサメが飛び出し、手当り次第にプレイヤーを食らっていく様は、海が怒り狂っているかのようにも見えた。
例えば、プレイヤーが神殿を破壊すると、ブチギレた神の眷属が大量発生し襲いかかってくるようになる、とか、UNOではそういう特殊な条件で発生するイベントがいくつか存在している。
目の前のサメサメパニックは、海に対し破壊的な行為を行ったことで発生したイベントなのではないだろうか。
さて、そのイベントの引き金を引いた頼もしき俺の仲間たちだが、
「うわっ、うわっ!? 危なっ!?」
「……チッ、軟骨どもが」
二人は迫りくるサメたちからどうにか逃げ延び、わたわたとこっちに向かって避難してきた。
しぶとい。
「い、いやぁびっくりしたね! いっぱいでてくるんだもん、サメ!」
「でてきた元凶、たぶんきみたちだからね?」
「特殊イベント、発生の、スイッチ、踏んだ、か。面倒。さっさと、どうにか、しろよな、他のプレイヤー、どもめ」
「責任を取る気が微塵もねえなこいつ……」
「とにかく、ボクたちは水辺から離れられたからひとまず安心かな」
アルとエンネアはすっかり気を抜き、やれやれとその場に座り込む。
しかし、ペスカが、凶悪な悪霊を目視している霊能力者のような雰囲気でこう言うのだ。
「……甘い、甘いよ、二人とも。船の上にあがったからもう襲われないぜ! とか思っているサメ映画の登場人物並みに甘い」
「なんでもサメ映画で例えるな」
「サメはね、どこまでも追ってくるんだよ」
ペスカの視線の先、俺は浜辺をちらりと見る。
サメが歩いていた。
いや、歩くというか、ヒレを手足のように動かして這っているだけだが、しかしやたらと機敏な動きで、サメたちは陸の上を我が物顔で動き回る。
「陸で動けるのか!?」
「サメだもん、陸でも動けるよ」
と、陸を這うサメの一体が顎を開くと、喉の奥から火炎弾を発射。
火炎弾は俺たちの真横を通り抜け、背後の森に着弾する。
爆風が牙の島を赤く染めた。
「火を吐いたんですけどあいつ!?」
「サメだもん、火くらい吐くよ」
下半身がタコみたいになっているサメが、触手で捕獲した釣り人を口へと運んでいる。
「触手が生えてるヤツいるんですけど!?」
「サメだもん、触手くらいあるよ」
突如として海面に発生した竜巻を利用し、サメが空を飛んでいる。
「空を飛んでるんですけど!?」
「サメだもん、空くらい飛ぶよ」
他にも、実に奇怪な能力を持つサメが次々と出現。
いちいち驚く俺に対し、妹は「サメだもん」の一言で極めて冷静に物事を片付けていく。
……この子、サメ映画の見過ぎじゃない?
「……あ、本命が来たみたい」
「本命って!?」
「ボスだよボス。サメの」
ペスカが指差した先には、サメを周囲にばらまく巨大竜巻。
その竜巻の中心に、巨大な魚影が見えた。
ふと、竜巻が消失する。
同時、魚影の主がその姿を表す。
そこにいたのは、ひたすらに巨大な、サメだった。
と、近くにいた見知らぬ釣り人が叫ぶ。
「あ、あれは……エクサロドン! 竜巻に乗ってでてきやがったか!」
え? あれが探してたヤツ?
超巨大サメの名を聞いて、アルが俺をつんつんとつつく。
「……作戦、通り」
「さっきまで完全に想定外って顔をしてましたよアナタ?」
ともかく、完全に想定外だが、俺たちは目標のバケモノと遭遇することに成功した。




