バーサク状態のオタクは怖い。
色々と誤解を解くのが大変だった。
ともかく、時間は流れて午前10時。
牙の島を散策していたら、フレンドのログインを知らせる通知が来た。
アルとエンネア、それとペスカだ。ほぼ同タイミング。
俺は通信機を利用し、三人に話しかける。
「起きとるかー?」
『あはは、起きてるからログインしたんだよ。おはよう』
『おはっすツグ兄ー! 朝ごはんすっぽかしやがってー!』
『……おは』
「おう、おはよう三人とも。……そういえば朝飯を食べてなかったな。まあ後で良いか。ところで、さっそくですが俺、牙の島にいます」
『えっ!? もう渡ったの!?』
『行動はや兄じゃん』
「色々あってな。まあーのどかな島ですわ、勇者の腕を食うようなヤバい敵がいるとは思えんくらいに」
牙の島は、グランマーレとは違うタイプのリゾート地、って感じの場所だった。
金持ちのプライベートビーチとかありそう。
「それと、すでに釣りをやってるプレイヤーがそこそこいる。急がないと本日分のエクサロドンを釣られちまうかもな」
『そっかー。それじゃ急がないとね。ボクもそっち向かうよ。アルとペスカちゃんは?』
『すぐ行くすぐ行く! ウチが来るのを心して待ってな!』
ぷつんと、ペスカは通信終了。
『私も、すぐ、向かう。ふふふ、秘策が、ある』
「秘策?」
『その時に、なったら、教える。ふふふふふ。通信終了、またあとで』
不気味な笑い声を最期に、アルは通信を切る。
なんか変なことやらかしそうで不安になった。
「大丈夫かな……」
『ダメそうだったら止めればいいのさ。あ、いま船に乗ったよ。こっからしばらく暇だからなんか話そうぜー』
「いいぞ。それではこの前、俺が見つけたイカしたTシャツの話を……」
『興味ない』
「泣くぞ?」
『あはは。そうそう、そういえばボクのバイトの話なんだけどさ』
「バイト……モデルの仕事か」
『うん。そこの人たちで飲み会? みたいなのに行ったの、つきあいで』
「お酒は二十歳になってからだぞ!」
『わかってるって、ずっとウーロン茶を飲んでたよ。……で、まあその中にちょっと偉いおじさんがいるのさ。編集長的な』
「モデルの仕事って女性向け雑誌のだろ? 編集長がおじさんなのか?」
『うん。まあたいした仕事はしてないらしいけど。実務を担当しているのは女の人ばっかり。編集長は……いざ何かあった時に責任を押し付けるための、なんていうかな、スケープゴート要員?』
「かわいそう」
『その編集長がボクのスマホの待ち受け画面を見て言ったのです。”あ、それ知ってる。アレでしょ、ガンドムってやつ”と』
「ガンドムっていうと、あれか、昔っからシリーズが続いているロボットアニメ。え、お前のスマホの待ち受け画面、ロボットアニメ?」
意外というか、なんというか。
現実のエンネア……九鬼丸はてなは、女の子って感じの女の子だ。
犬とか猫とかかわいいものが好きそうだし、SNSでキラキラした料理の画像をアップしていそう。
反面、オタク文化とか、それこそロボットアニメなんかに興味があるようには見えない。
『おいおいカネツグゥ、ボクのアバターはなんだい?』
「機人系?」
『ボクの愛用するミニオンは?』
「……ドロイド系」
『そ。いわゆるメカとかロボ系統。なんでそれを使っているかと言えば、好きだからさ。ボクはロボットとかメカとか、そういうの大好きなんだ』
「意外だな……」
『あはは、よく言われるよ。どこまで話したっけ? ああ、編集長に待ち受け見られたところか。うん、それで編集長が”自分もガンドムを知ってる”って言ってたんだけどさ……アホかッ!』
「ひぃ!?」
突如、エンネアの口調が荒っぽくなった。
『ボクが待ち受けに設定していたのはガンドムじゃなくガンドムTVシリーズ第十作目の軌道戦人ガンドム000ファーストシーズンの第24話に出てくるモビルストライカー”ブレイズカスタムⅡ”カッコ最終決戦仕様カッコトジだっつーの! 劇中で一度しか使用されなかった”超高出力光波サーベル・ムラクモ”を装備しているブレイズカスタムⅡって時点で一発でわかんだろ目ン玉が腐ってんのかテメー!? だいたいガンドムは白メインに赤、青、黄色のカラーリング! ブレイズカスタムⅡは黒メインに白と赤の配色! 頭部デザインもガンドムはツインアイなのに対してブレイズカスタムⅡは単眼カメラとツインアイ、加えてカメラ保護のバイザーを装備していてまったく別! どうやっても間違えないでしょうがよォー!』
「落ち着けエンネア! 早口すぎて聞き取れない!」
『っていうか編集長さぁ年齢的にガンドムTVシリーズ四作目”軌道戦人VVVガンドム”から続く平成シリーズをリアルタイムで視聴できた世代じゃないかよぉなんでそんな平成ガンドム直撃世代がガンドムとブレイズカスタムⅡを見間違えるんだよぉっつか何がはらたつって無知なのは仕方ないとしてもさぁまるで自分それ詳しいんスよみたいなノリで人の推しモビを間違えてるところなんだよねどこの世界でもにわかは嫌われるって常識だろうがよぉ! けど相手の方が立場的に上だからブチ切れるわけにもいかないししょうがないから”トモダチがイタズラで勝手に設定したヤツだからよくわかんないっすよー”でやんわりと誤魔化したんだけどさぁマジあの野郎は許しがたい決戦兵器バグレシアのノコギリブレードに刻まれて死にてえのかアァンって感じでギロチンだギロチンにかけろ――――ッ!』
以降、話が長くなったので省略。
要約すると、エンネアの好きなロボの名前を雑誌の編集長がにわか知識で間違えた、ブチギレたかったけど立場とか雰囲気とかあるから我慢した、めっちゃストレス溜まった、とのこと。
『――――――はぁー、はぁー……あー愚痴ったらスッキリした。まあそういうわけでね、カネツグもにわか知識をオタクの前で披露すると怒らせるから注意してねって話』
「はい」
『……なんでそんなに怯えた感じなの?』
「バーサク状態のガチギレオタクに呪文みたいな専門用語を混じえた愚痴を数十分も聞かされたらこうもなろう」
『あれ、ボクそんなに喋ってた? ごめんね、愚痴につきあわせちゃって』
「いや、それでストレス解消できたのなら何よりですけどね……」
俺は絶対にエンネアを怒らせないようにしよう……。
『あ、船がそろそろ牙の島に着くみたい。上陸したらすぐ合流するよ、適当なとこで待っててねー』
「おう、一応、船着き場近くの浜辺にいるからな」
『あいあーい』
そんなこんなで、エンネアと合流。
ちょっと遅れてアルとペスカもやって来た……のだが。
アルが、なにやら巨大なタルをインベントリから取り出し、桟橋に並べていってるのですけれど……?




