カネツグさんの人生相談会。
「私は長女です。家の跡継ぎとなるべき子供。だから私は、家を継ぐのに相応しい子となれるよう、周囲に期待されながら、大切に育てられました」
なにぶん俺は気楽な一般人なので、跡継ぎとか言われてもいまいちピンと来ないのだが、やはり良家となると重要なことなのだろうか。
「私自身、その期待に応えるのが嫌ではありませんでした。期待に応えれば喜んでもらえる。期待に応えれば褒めてもらえる。それが嬉しかった。だから私は、周囲の期待に間違いなく応えられるような”私”であり続けようとしました。たとえそれが、気分転換のための遊びの場であろうとも」
「その心構えでゲームやってたら気分転換とか無理じゃないですか……?」
「そうかもしれません。こちらの世界でも、あまり気の休まる時はありませんでしたから。……話を戻します。そう、私は周囲の期待に応える良い子だった。けれど、一度だけ、間違ったことがあるんです」
「間違った?」
「何年か前、おじいさまに問われたのです。”やりたいことはないのか”と。おじいさまは家の現当主、優しくも厳しい人。そんな方にそう問われたのだから、私は期待されているであろう答えを返しました。”家を継ぐのが私のやるべきことである”と。そうしたら、おじいさまはなぜか悲しそうな顔をするのです」
悲しませたのだから、あの答えは間違いだったと、せーさんは言う。
「けれど、何が間違いだったのかがわかりませんでした。私は家を継ぐために生まれ、家を継ぐために育てられた。おじいさまが私に期待している役目は一つ。それに沿った答えだったはず。けれど、間違いだった。ならば正解はなんだったのか? ……カネツグさんの言葉で、それがわかった気がするのです」
俺、そんなヘビーな悩みの答えを導き出せるようなこと言ってました……?
「相手の立場で考えるべきだったのです。例えば、私に孫がいたとして。私は彼に”なにかやりたいことはないか”と問います。孫は”家を継ぐのが私のやるべきことである”と答えます。その時、私は悲しいと思う。やりたいこと、興味のあること、一杯あるだろうに、私の期待に応えようと模範的な答えを返すことしかできない子供の姿を見たら、悲しいと思う。……私の答えを聞いた時、おじいさまも、同じ気持ちになったのではないでしょうか?」
「俺にはなんとも言えませんよ? そのおじいさまのことを知りませんし」
「……そうでしたね。孫の私から見て、おじいさまは少し厳しく、けれど、とっても優しい人です。両親に負けず劣らず、私のことを愛してくれている人。だからあの時の質問は……”やりたいことはないか”という問いかけは、きっと模範的すぎた私を心配しての言葉だった。その言葉に、私はみんなの期待に応えるための模範解答ではなく、私自身の本音で答えるべきだった」
相変わらず顔色は悪いままだけれど、どこか明るい表情で、せーさんは言葉を紡いでいた。
「わかりました、理解できました。自分勝手に期待に応えようとするだけではダメだったんですね。大切なのは、相手と向き合うこと。相手の本当の思いを汲み取ること。カネツグさんのおかげで、それに気づくことができました」
「そこまで深い意味を込めて喋ってませんからね俺!?」
「またまた、ご謙遜を」
「謙遜の擬人化に言われとうない!」
無理するなと伝えただけなのに、せーさんはなんだか人生相談で答えを見つけたみたいになってしまっていた。
これが一を聞いて十を知るというヤツだろうか? やはり天才……。
「……まあ、せーさんの役に立てたのなら良かったです」
「ふふふ、本当に、とてもためになるお話をして頂けました。ありがとうございます」
「やめてくださいこっ恥ずかしい。……何の話だっけ、そうだ、気楽にやろうって話。色々と納得してくれたのなら、約束してください。もう体調を崩すまで頑張ったりするのはやめるって」
「はい、約束します。もう無理して期待に応えようとはしません。皆さんに心配をかけないよう、気楽にこの世界を楽しむことにします。……あの、だから」
「?」
「……私、気楽に遊ぶようになったら、今までよりもダメになってしまうかもしれません。そうなっても、見捨てないでくださいね? パーティから追い出したり、しないでくださいね?」
せーさんは、小動物のように怯えながら、うるんだ瞳で懇願してきた。
愛らしいと、思わず胸を高鳴らせてしまうほど。
でもちょっと待って。
確かに、せーさんのアバターは中性的な顔をしている。
中の人の仕草のせいか、どちらかというと女の子に見えるくらいだ。
しかしアバターの性別的には男性、俺に膝枕されているのは男である。
中の人は女の子だけど、男だ。
ややこしい。
その男性アバターの姿にドキッとするのは、どうなんでしょう?
中の人が女ならセーフ?
でも女性アバターを使っているけど中身は男のカレンにドキドキさせられたこともあるし……、なんだかこの世界が全力で俺の性癖を狂わせようとしてきている!?
いかん、落ち着け、俺の好みのタイプは黒髪の美人で――せーさんやカレンがドンピシャじゃねえか!?
考えすぎるとドツボにハマりそうだった。
だから、自分に言い聞かせる。
余計なことを考えるな、無になれ、無に。
無理やりに心を落ち着かせた上で、俺はいつものようにカッコいい感じでせーさんに答えた。
「フッ、仲間をそう簡単に見捨てたりはしませんよ……!」
それを聞いて安心したのか、せーさんは柔らかく微笑む。
「ありがとうございます、カネツグさん。……それでは、さっそくで申し訳ないのですけれど」
「なんです?」
「徹夜で泳いで、少し、疲れました。ログアウトして、休んでいいですか?」
「おう休め休め! ごゆっくり! 疲れがとれたらまたおいでって感じで!」
「ふふ、わかりました。それでは、おやすみなさい……」
せーさんが宙をなぞる。
メニューウィンドウでログアウト処理を済ませると、彼女のアバターは光の粒子となって世界から消えた。
膝の上が軽くなったので、俺はやれやれと立ち上がる。
まったく、世話のかかるせーさんだぜ。
というかマジで変人しかいないなうちのパーティ。
俺の真人間っぷりを見習って……なんだ?
なんだか視線を感じると、俺は背後を振り返る。
男たちがいた。
女物の可憐な衣装を身に纏い、顔に華やかな化粧を施した、とても女性的な格好の男たちが、こちらにアツい視線を向けているのだ。
「……ちょっとあのコ、オトコノコのアバター同士で膝枕なんて」
「……顔もカワイイし、素質があるわね」
「なんかすげえ誤解されていませんか俺!?」




