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クレイジーアングラーフラットサン。

 ヘルケルベロスの試し撃ちにつきあっていたら、あっという間に時間が流れていった。


 仮想世界の空がオレンジ色に染まり始めたので、俺たちはひとまずグランマーレに戻り、アカツキたちと合流する。


 なお本日の釣りの成果はアカツキが空き缶大量、せーさんがレア物や大物を含む魚を百匹以上。


 後者には通りすがりの釣り人プレイヤーも驚いており、釣り専門のギルドに勧誘したいとまで言っていた。


 ハイスペックな人間はどこも欲しがるのだ。


 なのになぜせーさんはパーティに恵まれなかったのか? これがわからない。


 まあ彼女の言う通り、いまいち縁がなかったのだろうと、適当に納得しておいた。


 さて、ペスカとエンネアを除いた俺たち四人は、休憩がてらいつものカフェテラスで談笑中。


 釣りがいまいちうまく行ってないアカツキは、ちょっぴり落ち込み気味だった。



「なんで……空き缶ばっかり……」


「あの、よろしいでしょうか?」


「なにかしら、せーさん?」


「アカツキさんは、少し、竿を動かすペースが早すぎるのだと思います。もう少し、こう、落ち着いて、えと、こんな感じで、ふわふわと、へにょってして、こう、えーと……」



 せーさん人に教えるのが下手すぎでは……?



「……なるほど、なんとなくわかったわ。こう、ふわふわって感じね?」


「そう、ふわふわって感じです。そうすれば、その、エサが、ほら、うにょんってなって、魚が、パクって」


「エサの動きをもう少しマイルドにってことね? わかってきたかも」



 なんでわかりあえているの……?


 俺は釣りチャレンジコンビの不思議な会話に割り込めず、ただただ困惑しっぱなし。


 そんな俺に、アルがふと話しかけてくる。



「……カネツグ、いま、掲示板、見てたんだけど」


「ん? どうした?」


「……さっき、三つ目の証、獲得したプレイヤー、現れた、って」


「ふーん……えっ!?」


「つまり、例のバケモノ、釣り上げたヤツ、現れた、らしい」


「マジかよ」



 と、アルと俺との会話を聞いていたアカツキが食いついてくる。



「私たちが先を越されたっていうの!?」


「そう、なる。……ただ、相手は、”フラットサン”だった、らしい」


「ふ、フラットサンだって!?」


「知っているのカネツグ!?」


「いや知らね」


「知らないなら、黙っとけ、イカスミ」


「泣くぞ?」


「……フラットサンって、いうのは、このゲームの、釣り人系プレイヤーの、頂点。釣り系コンテンツの、ラスボスである、三海王……”リバイアサン”、”クトゥルー”、”ヒトガタ”の、全てを、このゲームで、最初に釣り上げた、という、”伝説の釣り人”、らしい。異名は、”クレイジーアングラー”」


「まったく知らない世界の話だ……」



 釣り系コンテンツにラスボスがいたことすら知りませんでした。



「私も、いま、掲示板を、あさって、得た、情報。……ともかく、その、フラットサンが、三つ目の証のバケモノを……”エクサロドン”、を、釣り上げた」


「やっぱガチの釣り人には勝てないか……」


「けど、おかげで、色々と、わかった」


「……まあ、確かに」



 三つ目の証は釣りで何かを釣り上げて入手する……俺たちが持っていた情報はそれだけだ。


 具体的に何を釣ればいいのか? それがどこで釣れるのか? といったことに関してはまるでわかっておらず、とりあえずで釣り糸を垂らしていた。


 しかし、フラットサンのおかげでその辺がハッキリした。


 釣るべき獲物、三つ目の証を持つバケモノの名は”エクサロドン”。


 それがどこにいるのかは、続くアルの言葉によって俺たちに伝えられる。



「エクサロドン、は、”牙の島”という、場所で、釣れた、らしい。名前の通り、海の上の孤島。三つ目の、証の、入手を、目指すなら……」


「すぐに行きましょう、その牙の島に!」



 アルのセリフを遮って、アカツキが声高に主張した。



「先を越されたというのなら、のんびりしてはいられないわ! 私たちも一刻も早くエクサロドンを釣り上げないと……!」


「落ち着け負けず嫌い。アル、エクサロドンってヤツは、たぶん一日一匹の獲物だろう?」


「だと、思う。エクサロドンが、釣れるのは、一日一匹までの、可能性が、高い」



 UNOに実装されているボスの多くは、一日に討伐できる数が決まっている。


 例えば、”キングスライム”というボスの場合、一日のうちに五回倒されるとその日のうちは復活しなくなり、再び戦うには次の日を待たなければならない。


 一人あたりではなく一日あたりというのがミソで、一人が五回連続で倒そうと、五人のプレイヤーが一回ずつ倒そうと、復活しなくなるのは同じ。


 そのため強力なアイテムをドロップするボスなんかはプレイヤー間で討伐競争になったりする。


 ところで、俺が掲示板で見かけた情報によると、カサイBSL最深部にいたスーパー触手ちゃんは1日1回の討伐数制限がついているらしい。


 また、BDRは1日1回しか開催されていない。


 どうやら証の入手チャンスはゲーム全体で1日1回までになっているらしく、それなら証を持つエクサロドンも釣り上げるチャンスが1日1回しかないのでは? と、そう考えたのだが、ドンピシャ。


 アルは、フラットサンがエクサロドンを釣り上げたのは「さっき」と言っていた。


 つまり今日はもう打ち止め、明日になるまで他のプレイヤーにエクサロドンを釣り上げるチャンスは回ってこないのだ。


 だから焦っても仕方がない。


 俺がそう諭すと、アカツキはぐぬぬと悔しそうにしつつもひとまず落ち着く。



「それにそろそろ夜になるだろ? 夜は船が運行していないからな、自力で船を調達できるプレイヤーじゃないと海を渡れない。牙の島とやらに行こうと思っても無理だ」


「……そうだったわね。明日を待つしかない、か」


「ついでに空き缶しか釣れない人じゃエクサロドンとやらを釣れるかわからないし……」


「うぐっ」


「ま、せーさんがいるからなんとかなるかもしれないけどな。せーさん釣りめっちゃうまいし!」



 俺が話を振ると、せーさんはとんでもないと謙遜する。



「私など、他の釣り人さんたちに比べたらまだまだで……」


「んなこといってー。釣り人さんたちも驚いてましたよ、ウチの釣りギルドに欲しい人材だって」


「そ、そんなことは。……けれど、私は期待されているのですね、皆さんに」



 自らに言い聞かせるように呟いて、せーさんはぎゅっと拳を握る。


 だからそんなに気負わなくてもいい、と言っておくべきだろうか?


 ……いや、やる気に水を指すのもな。


 せーさんに対しては口を閉じておくとして、俺は仲間たちに確認する。



「それじゃあ明日、牙の島に渡ってエクサロドンを狙ってみよう。それでいいか?」


「それでいいわ」


「問題、ない」


「わかりました」


「オッケー、ペスカには俺が話しておこう。エンネアには……」


「私が彼女のアドレスを知っているわ。連絡しておく」


「任せた、アカツキ。それじゃ今日は明日の準備をするとして……」



 準備を整えた後、その日は疲れを残さないようにと、早めに解散ということになった。

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