アイデンティティーのクライシス。
試し撃ちがしたいというアルが目指した先は、ナイトベール周辺の荒野である。
障害物の少ない開けたフィールドは、銃火器をぶっ放すのにちょうどいい。
常に夜で薄暗いという環境が少し気になるくらいか。
さて、アルが新たに手に入れたガトリングガン”トライバレル・ヘルケルベロス”。
その性能は火力特化砲の名に恥じぬものだった。
「……ふっ」
アルが走り、敵の暴走ドロイドの射撃攻撃を前転で回避、そのまましゃがみ姿勢でヘルケルベロスを構える。
回転する三つ首の銃身が、鉄の咆哮と共に弾丸を吐き出す。
一秒間に数十発、猛烈な勢いで発射される弾丸。
その一発一発が直撃するたび、敵の暴走ドロイドの身体には抉り取られたような穴が空いていく。
敵の上半身が原型を留めぬ無残な姿に変えられるまで、三秒とかからない。
さらに、アルはヘルケルベロスの銃口を横方向へスライド。
彼女が狙った先には他のザコ敵がうろついていたのだが、そいつらも一瞬で骸へと変わった。
並の敵なら秒殺。
恐ろしいほどの高火力。
ただその火力の代償として、ヘルケルベロスの弾は狙った方向に飛びにくいらしい。
中距離からしっかり敵を狙って撃ったとして、発射された弾丸の半分ほどは敵に当たらずあらぬ方へと飛んでいく。
アルはヘルケルベロスの抱えるその欠点を即座に把握した。
そこから彼女が導き出した戦術は、敵に近づいて撃つ、である。
荒野を駆け回り、敵に接近し、目を瞑っていても弾が当たるような距離になったら引き金を引く。
遠距離攻撃という銃の長所の一つを半ばポイ捨てした戦術で、アルは次々と敵を葬っていた。
俺はその動きを遠くから見ていて、こう思うのだ。
「なんであの子、スナイパーやってたの……?」
俺から見て、アルの動きはかなり良い。
敵の銃口に捉えられないよう動き回り、攻撃が来たら前転や側転で回避。
時には相手の死角へ飛び込み、危なければ後ろに下がり。
アバターの操作技術が高く、状況判断も的確だ。
彼女の欠点である射撃の下手さも、敵に接近してしまえば関係ない。
どう考えても、遙か後方から狙撃するスナイパーより、動き回りながら射撃戦を行うガンナーの方が、彼女にあっている。
本当に、なんでスナイパーやってたの?
と、一通り周辺の敵を屍へと変えたアルが、てくてくと戻ってくる。
頬を上気させ、うっとりとした表情を浮かべ、ほう、と恍惚のため息。
「これ、すごい、爽快感……!」
「はたから見ててもすごい楽しんでいるのはわかりましたけどね? それはそうとなんでスナイパーやってたのキミ?」
「……へ?」
「……へ? じゃあないよ! お前の適正、明らかに機動射撃戦向けだよ! 狙撃よりこっちの方が向いてるよ! なのになぜ狙撃を……?」
「……さっきも、言った。敵に、近づくの、怖いから、やだ」
「そういえば言ってたな……いやそれにしたってガンナー向きだよお前。動きがよくて驚いた」
「逃げ回るのは、苦手じゃない。……けど、接近戦、したくないから、これからも、基本は、スナイパー。ガトリングは、自衛用」
「も、勿体ねぇ……!」
「なんとでも、言え」
「ま、まあ本人がそうしたいのならこれ以上は言いませんけどね? ……しかし、いよいよ俺の立場がヤバいな」
「立場?」
「バカ火力アタッカーのアカツキだろ、俺より強そうな高速クリティカルアタッカーのせーさんだろ、バイク込みの機動力が半端ないペスカ、そして機動射撃戦ができちゃうお前。……もう前衛アタッカーとして俺の立場がないんだ……!」
単純な火力ならアカツキがいる。
素早く動き敵の弱点を攻撃する高速クリティカルアタッカーとしてせーさんが仲間に加わった。
機動力の高さならスクアロJ9に乗ってる時のペスカに勝てない。
おまけに、実はアルが射撃も立ち回りもいい感じと来た。
俺の居場所がなくなっている気がする……!
頭を抱え苦悩する俺。
そんな俺の肩を、アルは優しくぽんと叩き、穏やかな笑顔を浮かべながら唇を動かす。
「無能」
「ひでぇ!?」
「まあ、ゲームでは、よくいる。どの分野でも、誰かの下位互換になる、微妙なキャラ」
「よくいますけどねそういうキャラ!? こ、このままだとリストラされる!? パーティから外される!?」
「……それは、ないだろう、けど。そんな、お前に、一つ、言っておく」
「これ以上に精神攻撃をされたら俺は泣くぞ?」
「いや、真面目な、話。……うちのパーティで、小細工を弄するのは、お前だけ」
「小細工……?」
「フラッシュ・グレネードとか、ああいう、妨害行動の、こと。基本、うちのパーティ、全員、攻撃しか、考えていない。お前が、敵を、妨害しなきゃ、負けてた場面、意外と、多いと、思う」
確かに、アカツキ、ペスカ、アル、せーさんはアタッカー型。
エンネアはサポート型だが後方指揮がメインだ、咄嗟に前線でフラッシュ・グレネードを炸裂させ敵を撹乱、みたいなことはできない。
「なるほど、言われてみれば俺の長所は前線での妨害戦術かもしれない」
「だろ」
「……そうか、そういう戦い方でみんなをサポートしていくのも手か」
アルの言葉で俺は気づきを得た。
今後は、もっと周りを見ながら動いてみよう。
「ありがとうアル! お前のおかげでパーティを追い出されずに済みそうだ!」
「ありがたく、思え。……まあ、何があっても、お前が、パーティから、追い出されること、ないと、思う、けど」
「えっ?」
聞き返すと、アルはにやっと笑う。
「ダメ人間を、放って、おけない、女ばっかって、ことだよ、イカスミ」
「誰がダメ人間だ失れ……またイカスミって言いやがったなこの野郎!?」




