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伝説になりそうなフィッシャーマン。

 かくして、俺たちのパーティはせーさんを加えて六人に。


 この六人というのはパーティの上限人数で、これ以上にメンバーを増やすことは出来ない。


 パーティはひとまず完成した、と言えるだろう。


 前衛アタッカーが俺とアカツキ。


 後方支援がエンネアとアル、ペスカ。


 そして遠近両対応のせーさん。


 一見するとバランスが良さそうに見えるが、しかし魔法系スキルでの攻撃ができるのはペスカのみ、回復系のスキルを覚えている者は一人もいない。


 物理アタッカーが多すぎるというか……俺も少し戦い方を考える必要がありそうだ。


 ともかく、六人になったところで、あらためて目的を共有するための作戦会議。


 俺たちはいつものカフェテラスで、いつもより一回り大きいテーブルを囲む。



「せーさんにはまだ話してなかったと思うけど……俺たちの今の目的は釣り系コンテンツで三つ目の証を持っているらしいバケモノを釣り上げることだ」


「証というと、このワールドをクリアするために必要なアイテム、でしたよね?」


「そうそう。……そういえば聞き忘れてた。せーさん、うち本気で一億円を狙っているわけじゃないのんびりパーティなんだけどその辺は大丈夫?」


「あ、はい。私は賞金目的ではなく、気分転換でこのゲームを遊んでいますので」


「ならよかった。そういうわけで、現在はアカツキが釣りを頑張り、俺たちはまあ適当に活動しているって状況」



 目的自体は三つ目の証の入手だが、そのための釣りに関しては完全にアカツキに任せっきりだ。


 なぜかといえば、レベル上げのため。


 パーティ全員で釣りをしていると、その間はエネミーを狩ることができず、レベルが上げにくくなってしまう。


 UNOにおいてレベル……というよりそれで上昇させられる”ステータス”は、何をするにしても重要になる数値であり、レベル上げを疎かには出来ないのだ。


 ちなみに経験値は獲得するとパーティを組んでいるメンバー全員に分配される方式。


 例えば、俺がいま600の経験値を持つ敵を倒したとすると、それが6分の1された100の経験値としてパーティメンバー6人に配られる。


 つまり俺たちが敵を倒せばアカツキのレベルも上がる、だから釣りで動けない彼女のレベル上げも兼ねて、他のメンバーは戦闘系コンテンツで経験値を稼いでいるのだ。


 わりとサボってダラダラしていたりもするのだが。


 余談だが、実は釣りで魚を釣り上げる、アイテムクラフトで何かを作るなど、戦闘以外の行動でも経験値を取得することは可能だ。


 ただしそれで入手できる経験値量は、例えば釣りの場合、釣り上げた魚の大きさや珍しさなどで増減する仕組み。


 大物をぽんぽん釣り上げられるくらいに釣り系コンテンツをやりこんでいるプレイヤーでもない限り、基本的に戦闘の方がレベル上げ効率が良いのである。


 閑話休題。


 というわけで、俺はせーさんに問う。



「せーさんはどっちがいいです? アカツキと一緒に釣りをするか、戦闘でレベル上げか。他にやりたいことがあるならそっちを優先しても良いけど」


「皆さんとしては、私がどちらをやった方が良いのでしょう?」


「どちらをやってもらいたいかと言われると……どっちかなぁ? さすがにアカツキ一人じゃ釣りの効率も悪そうだし、釣り?」


「わかりました、では釣りを担当します」


「いいんですか? せーさん、戦闘メインでやってると思ったんだけど」


「求められればなんでもやりましょう。釣りは……やったことはありませんが、やってみせます」



 せーさんはぐっと小さく拳を握り、やる気をアピール。


 もっと気楽に構えてくれていいんだけど、とは思いつつ、



「それじゃ、アカツキとせーさんが釣り、他が自由行動……できればレベル上げとかをやる、でいいかな?」


「私はそれで良いわ」


「異議なーし!」


「右に同じだよ」


「すきに、しろ。……ミス、問題ないです」


「はい! がんばります!」



 俺が確認すると、仲間たちはそれぞれに問題無しと答えた。


 こうして今日の活動内容が決定したわけだが、さて、その後。


 俺は狩りには向かわず、釣りをするアカツキとせーさんの様子を後ろから観察していた。


 隣ではエンネアがEタブレットの画面を見ながら、狩りに向かったペスカとアルに指示をだしている。



「ペスカちゃん、その辺の敵は雷属性の攻撃に弱いからキミの魔法で簡単に倒せると思うよ。アルはいつもどおり援護射撃でよろしく! ……ねぇ、カネツグ、キミはエネミーを倒しに行かないの?」


「少しはアカツキの様子を見ておこうと思ってな。……ここ一週間ほど、ずっと釣りをしているのに成果のほとんどが空き缶だぞ? どうやったらそんなことにと心配にもなる」


「確かに、恐ろしいまでの空き缶率だよね……」


「あとはせーさんのことも気になるし。いきなりコミュニケーション能力に問題のあるぼっちのアカツキさんと二人きりはキツいだろう?」


「聞こえているわよカネツグ! 誰がぼっちよ! 滅べ!」



 アカツキの怒声を聞き流しつつ、俺は釣りをする二人の仲間の姿を見比べる。


 まずアカツキの方だが……、やたらと釣り竿を上下にがちゃがちゃ動かしているのが気になった。


 竿を動かすことで釣り糸の先についているエサを操り、魚に”活きの良いエサ”と思わせて食いつかせるのが釣りのコツ、と、親切な釣り人プレイヤーにアドバイスを受けてからそうしているらしい。


 テレビで見た釣り番組でもそんな話をやっていた気がするので、たぶん竿を動かすところまでは間違いではないのだろう。


 しかし、あの竿さばきだと水中のエサは気色悪い動きをする謎の物体と化しているのでは?


 魚はそんな物体には近づかず、その代わりに激しい上下運動によって釣り針がその辺に漂っていたゴミに引っかかり、



「……来た! 釣れた! ってまた空き缶!?」



 と、なる。


 がっくり肩を落とすアカツキの背中を見て、エンネアがかわいそうなものを見る目をしていた。



「……アカツキ、釣りに向いてなさそうだね」


「まあ、今のところはな」


「え?」



 俺の言葉に、エンネアは首を傾げる。



「今のところっていうと……釣りマスタリーが上昇すれば状況は変わるってこと? どうかなぁ?」


「いや、釣りマスタリーよりもプレイヤースキルの方がな」



 親切な釣り人プレイヤーに聞いた話だが、UNOで釣りをするなら、釣りマスタリーのスキルを成長させるのも確かに重要。


 釣りマスタリーが育っていれば大物や珍しい魚が食いつきやすくなるし、釣り糸が切れにくくなるなどの恩恵もある。


 しかしそれ以上に重要なのは、釣り竿を操る技術や、良い釣り場を見極める目といったプレイヤーの技術――釣りのプレイヤースキルらしいのだ。


 極端な話、プレイヤースキルが高ければ釣りマスタリーがなくてもレアな巨大魚を釣り上げることは可能、とのこと。


 逆に言うと、釣りマスタリーが高くてもプレイヤースキルがダメならまともに魚を釣ることはできないらしい。


 ……外のワールドなら簡単に大物が釣れるすごい課金釣り竿やすごい課金エサが使用可能で、それならプレイヤースキルも釣りマスタリーも関係ないらしいのだが、その辺は置いておく。


 ともかく、UNOの釣りにおいてはプレイヤースキル、”釣り自体の上手さ”が第一。


 それを前提とした場合、



「確かにアカツキの釣りに関するプレイヤースキルは死んでいる。今のところは」


「いまのところ?」


「そうだ。……昔な、あいつと一緒に子供向けの美術教室に通っていたことがあるんだよ。一緒にはじめて、先に先生に絵がうまいと褒められたのは俺だった。けれど最終的にコンクールで賞を取ったのはあいつの方」


「カネツグが絵を描けるということに驚いているよ」


「失礼な! 今でもちょっとだけなら人より上手に描けるんだからね! ……いやそうじゃなかった。それ以外にも、学校の授業で先に成績が良かったのは俺、最終的に成績が良いのはあいつ。ずっとそうだ」


「つまり、どういうこと?」


「あいつ、何事も飲み込みが遅いんだがな、努力を続けて最終的には人より上手になるんだよ。なんていうんだっけ、た、たい、たいわん……」


「大器晩成、かな?」


「それ! 大器晩成型なんだ、あいつ。だから今は酷くとも、そのうち釣りのコツを掴めば人並み以上にこなせるようになるはず。そう、だいたい半年から一年後くらいには!」


「結構な時間がかかるね……」


「大器晩成な子ですから。そんなわけで、アカツキもいずれはちゃんと魚を釣れるようになる。幼馴染の俺が保証しよう」



 だからアカツキの方は長い目で見守ってあげましょう。


 むしろ問題は、せーさんの方だった。


 アカツキからちょっと離れた地点で釣りをするせーさん。


 彼女は釣り竿を繊細に、細やかに動かしてる。


 その丁寧な操作で操られたエサは、よほど魚の食欲を刺激するらしい。


 竿がぴくんとしなる。



「――――はっ!」



 直後、せーさんは勢いよく竿を引き、当たり前のように魚を釣り上げた。


 彼女の横には魚で溢れたバケツがすでに五つほど置いてある。



「エンネアさんエンネアさん。釣り、うますぎませんか、あの人?」


「恐ろしいほどにうまいと思うよ」



 釣りはやったことがないと、せーさんは言っていた。


 恐らくその言葉に嘘はないのだろう。


 実際、釣りを初めてから30分ほどの間は、せーさんもそれほど釣れてはいなかった。


 しかしその30分間でなにかコツを掴んだのか、以降はご覧の通りの爆釣伝説せーさん。


 驚くほど飲み込みが早い。


 天才かこの人?



「戦闘も強くて釣りもうまいとはなぁ……すごい人を仲間にしてしまった」


「アカツキが釣りに慣れる前に、せーさんが例のバケモノを釣り上げちゃいそうだねぇ」


「……くっ」



 そんな俺達の会話が耳に入ったのか、アカツキがライバル意識をむき出しでせーさんを睨む。



「……?」



 視線に気がついたせーさんは、よくわかっていない様子でにっこりと微笑みを返す。



「こ、これは……! 釣りバトル勃発か……!?」


「勝負になるかなぁ……?」



 結論から言うと、勝負になっていないレベルでアカツキの大敗だった。


 バトル勃発から数時間後、アカツキの周りには大量の空き缶が散乱してゴミ捨て場みたいになっており、一方でせーさんは魚がみっちりと詰まったバケツに囲まれている。


 アカツキは頭を抱え、海に向かって叫んだ。



「なんでよ――――ッ!?」



 頑張れアカツキ! たぶんそのうちお前もせーさんくらいうまくなるはずだ!


 そんなにいつまでも釣りをやるかは知らんけど!


 一方、せーさんは悲しそうな顔をして俺に言う。



「ご期待に添えず、申し訳ありません、カネツグさん。件の標的を釣ることができませんでした」


「初心者が初日で釣る気だったの!?」


「……? そのつもりで、私に釣りをやらせたのですよね?」


「そんなに重く考えなくて良いから! 釣れたらいいなくらいでのんびりいこう!?」


「そうですか?」



 こっちはこっちでいきなり目標が高すぎる。


 無理難題を押しつけるつもりはないので気楽にやってね……?

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