RPGの後半で仲間になるヤツが万能すぎてもうあいつ一人でいいんじゃないかなってなる現象。
グランマーレを出てしばらく歩くと、人気のない砂浜がある。
砂の上や浅瀬には海辺に適応したエネミーがうろついており、迂闊に足を踏み入れれば一瞬で連中のエサにされてしまうという、危険な場所だ。
俺たち六人がいるのは、その砂浜を見下ろせる高台。
アカツキが、せーさんに実技テストの内容を伝える。
「この砂浜で敵を倒してきてください。種類は特に指定しません」
「戦うにあたり、禁止事項などはありますか?」
「いいえ。自分の得意な戦い方でどうぞ」
「わかりました。それでは、見ていてください」
せーさんは軽やかに跳んで、砂浜に降り立つ。
俺は不安になりながら、その背中を見送った。
「だ、大丈夫かなぁ、せーさん。アカツキ、さすがにここでソロは厳しすぎないか?」
この砂浜の敵の強さは、俺やアカツキがソロで真正面から戦うと少し苦戦するくらいのレベルだ。
確かにここの敵を一体でも単独で倒せたのなら、せーさんの実力は十分と言えるのだろうが。
「あまりに温いテストでは実力を測れないでしょう? 大丈夫よ、いざ危なくなったらアルに狙撃で援護させるから」
アカツキの言葉通り、アルが狙撃銃を構えていつでもせーさんを助けられるよう準備をしている。
その光景が、俺を余計に不安にさせた。
「アルに狙撃させたらせーさんの背中に誤射しそうで怖いんだよな……」
「……その可能性があるのは否定できないわね」
「アルっちならやらかすと思うね、ウチは」
「右に同じかな」
俺たちの感想を聞いて、アルが銃口をこちらに向けてくる。
「この距離なら、人型サイズの相手にも、ヘッドショット、決められる」
「「「ごめんなさい」」」
まったくと、アルはぶつぶつ言いながらも、再び砂浜の方を見て狙撃体勢をとった。
俺たちもあらためて砂浜の方を見る。
せーさんはエネミーがわらわらとさまよう砂浜を、無人の野を行くように淡々と歩いていく。
「弱めのエネミーを探しているのかしら? 敵の強さを見極める力も重要ではあるけれど」
「この砂浜で一番のザコっていうと……スナヒトデあたりか。斬っても再生するから切断系の攻撃がメインのカタナ使いだとちょっと面倒な相手なんだよな」
「あなたがスナヒトデに苦戦しているところ、見たことないわよ?」
「そりゃあ弱点部位にクリティカル食らわせて一撃で仕留めてるし。一撃で倒せば再生しないんだ」
「……やっぱり狙いが恐ろしいほど正確よね、あなた」
「フッ、攻撃の正確さならそうそう負けないぜ。っと、せーさんが敵に絡まれたな。アレは……」
俺たちの視線の先でせーさんが相対しているのは、巨大なカニだ。
「うわ、デッドシザー・クラブか。殻が硬すぎて関節以外には刃が通らないんだよな。あいつもカタナ使いの天敵だ」
基本的に、物理防御力が高いエネミーを相手取るのに、カタナという武器は相性が悪い。
素の攻撃力が低めのカタナでは敵の防御を貫くのが難しいのだ。
一応、あの手のエネミーは装甲の隙間となる関節部位が弱点扱いとなっており、そこを的確に狙えるのならカタナで倒せないこともないが、それには高い技量が要求される。
なので、アカツキの大剣やアルの大型狙撃銃のような高威力の武器で甲殻をぶち抜くか、あるいは防御力で軽減できない炎や雷などの属性攻撃を使うかして倒すのが一般的。
しかしせーさんはそういった攻撃手段を持っているように見えない。
巨大カニにハサミを向けられた彼は、腰のカタナに手を伸ばす。
「カタナで行くつもりみたいね」
「倒せないこともないが……だいぶキツいだろうなぁ」
マジで大丈夫だろうか、と、戦いが始まるその瞬間まで、俺はせーさんを心配していた。
結論から言うと、杞憂。
俺の視界から、せーさんの姿が消失した。
どこへ行ったと俺がまばたきをしている間に、彼はデッドシザークラブの背後にいつの間にか移動している。
時代劇のお侍の如く、血を払うようにカタナを振ってから、納刀。
直後、デッドシザークラブがバラバラになってその場に崩れ落ちた。
見れば、巨大なカニは全身の関節部を的確に切断されている。
死骸はそのままカニ鍋の具にできそうだ。
「……驚いたわね。あの一瞬で、あんなに的確に関節部を攻撃するなんて」
アカツキの言葉通り、一瞬でカニを解体したせーさんの技量は驚くべきものだ。
そしてなによりカッコいい、驚くほどカッコいい。
居合斬りで斬った敵がカタナを鞘に納めると同時に死ぬとか、俺ですら未だ習得できていない素敵ムーブ。
惚れ惚れすると同時、ちょっぴり嫉妬してしまう。
「す、すげえなせーさん。ともかく、これで実技テストは合格だな」
「そうね。あれだけの技量なら文句はないわ。アル、あなたは?」
「どこぞの、イカスミより、頼りになる」
「そういうこと言うと泣くぞテメェ!?」
アカツキとアルもせーさんを認めた。
これで彼がパーティに加わることに反対する者は――、
「……あれ? ツグ兄、なんだかせーさん、他の敵と戦い始めてるんだけど?」
「え?」
ペスカの言葉で砂浜を見れば、せーさんが別の敵を神速の抜刀術で刺し身にしていた。
なんでそんなことを……あっ!
「アカツキ! お前そういえば”砂浜で敵を倒してきてください”としか言ってないよな!?」
「ええ。それが?」
「一体だけでもソロで倒せれば良い、って伝え忘れてるよな!?」
「……あっ!」
「ばか! ばか! うっかり! せーさん何体の敵を倒せばいいかわからず手当り次第に攻撃しかけてるんだ!」
「さ、さすがにここの敵を一人で倒し続けるのは厳しいわね。もうテストは終わりと伝えないと……」
俺たちがそんなことを言っている間にも、せーさんは縦横無尽に駆け回り次々と敵を刺し身に変え……って、
「せーさんめちゃくちゃ強いんだけど!?」
俺やアカツキでもそこそこ苦戦する敵が、どんどん斬殺されていく。
アルが狙撃で援護しているわけでもない。
あれは間違いなくせーさん一人の力。
その戦いぶりは、見ていると前衛アタッカーとして自信を失いそうになるほど。
「……す、すごいわね、彼」
アカツキの声もちょっと震えていた。
と、せーさんの頭上で鳥型のエネミーが羽ばたく。
この辺に出現する飛行可能な敵だ、名前はシーキャット。
近接攻撃での撃破は困難極まる相手。
あれはさすがにどうしようもないだろう、と思ったら、せーさんは宙を指でなぞる動き。
メニューウィンドウを操作しているらしい。
直後、その手からカタナが消えた。
代わりにせーさんが手に取るのは、インベントリから取り出したのであろう弓と矢。
弓道には詳しくないが、きっとそれが正しいフォームなのだろうと素人でもわかってしまうほどの凛とした構えで、せーさんは頭上に狙いをつけ、矢を放つ。
胴体を矢に貫かれたシーキャットが、甲高い断末魔と共に地面に落下していく。
あのすばしっこい鳥を矢で狙撃するとは、
「……あれ、私より、狙撃、うまいんじゃ」
そう口にするアルは、シーキャットへの狙撃を成功させたことはない。
シーキャットを撃ち落とした直後、砂浜に潜っていたらしいエネミーがせーさんの周囲に出現した。
種類はさまざま、10体以上のエネミー。
さすがに多勢に無勢かと思われたが、せーさんは慌てることなく、しかし迅速にメニューウィンドウを操作。
インベントリから取り出されたのは人型をした紙切れ。
あれは確か、ある種のミニオンを――式神系のミニオンを召喚するために必要なアイテムだ。
青い炎のエフェクトと共に紙が焼失。
それと同時、複数体のミニオンがせーさんの周囲にずずずっと出現する。
額には角、手には大太刀、和風の鎧を着たその人型は、”鬼”と呼ぶのがしっくりくる見た目をしていた。
せーさんが薙ぐように手を振るうと、その鬼たちは一斉に目の前のエネミーに襲いかかる。
斬る、殴る、噛み付くと、荒々しい戦い方。
エネミーはあっという間に掃討され、鬼の軍勢は勝ち鬨代わりに雄々しく咆哮する。
「ミニオン召喚スキルまで取ってるんだ、あの人……」
俺の隣で、エンネアが冷や汗を流していた。
その後もカタナと弓と鬼を使い分けて戦い続けるせーさん。
気づけば、砂浜の敵がいなくなっていた。
せーさんは周りに標的がいなくなったことを確認すると、使役する鬼たちを送還指示で消した後、何事もなかったかのように俺たちのところへ戻ってくる。
そして、呆然としている俺たちに、彼は不安そうな顔で問う。
「あ、あの、とりあえず敵を倒してきましたが……どうでしょうか?」
どうも何も、もうあいつ一人でいいんじゃないかなってレベルで、この場の誰よりも強いと思います、あなた。




