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疑惑。

 最近になって、俺の周りは急激に変化し始めている。


 それはアカツキと仲直りしたことだったり、R0の攻略が順調なことだったり。


 何より一番の変化は、仲間が増えたことだ。


 この三年間、俺はずっと”エニグマ”と二人きりで行動してきた。


 それが今では、仲直りしたアカツキに、ようやく一緒に遊べるようになったペスカ、そして掲示板での募集から仲間に加わったアルファルド……エニグマあらため”エンネア”も含めて、なんと四人のパーティメンバーがいる。


 みんな、俺と違って変人ばかりだけれど、文句なしにいい奴らだ。


 そう、文句なし、だった。


 俺の目の前では、海沿いのカフェテラスで四人の女性アバターが楽しげに談笑している。



「むぐむぐ……、ところでネアさんさー、釣りってできるー?」



 アバターの空腹状態を回復させるためにパスタ系の料理アイテムを口に運びつつ、何気なしに問うペスカ。



「釣り? やったことないかなぁ。なになに、急にどして?」



 ストローでミルクティーをちゅーちゅー吸いつつ、首を傾げるエンネア。



「次の証の入手に釣り系コンテンツの攻略が必要みたいなの」



 おにぎりを食べ終えたアカツキは、口元を布巾で拭ってから疑問に答える。



「私たち、誰も、釣り、やったことない。いま、アカツキが、挑戦中では、あるけど、結果は、クソ微妙」



 アルはひまわりの種をかじるハムスターの如くサンドイッチを咀嚼しながら、エンネアがログインして来なかった間の状況を報告。


 可愛い女の子たちがお食事休憩ついでに、和気あいあいとゲームの話をしているだけの光景。


 その光景に、俺は深刻な顔をせざるを得ない。


 一刻も早く問題を解決するため、おにぎりを食べ終えた俺は席を立つ。



「悪い、ちょっと用事を思い出した。少し一人で行動する」


「ほーい。いってらツグ兄」


「あいあい。気をつけてね、カネツグ」


「いってらっしゃい。何かあればすぐに連絡するように」


「お土産、よろしく」



 四人に見送られ、その場を離れた。


 さて、これからどこへ行くべきだろう?


 俺たちのパーティが抱える問題を解決するにはどうすれば?


 ……まずは誰かに相談するべきだ。


 できれば男性がいい。


 俺はフレンドリストを開く。


 この一覧にある名前で男は一人。


 和装美人な女性アバターを操る男性プレイヤー、カレン。


 正直、あんなに女性っぽい仕草をするアバターの中身が男だと言われても信じ難いところはある。


 しかしあまりそういう冗談を言うタイプには見えないバサラの姉御が彼を弟と呼び、カレン自身もそれを肯定しているので、やはり真実なのだろう。


 だからあいつを男と見込んで、相談だ。


 フレンドリストからカレンの現在位置を確認。


 前に会った時と同じく西京にいるらしい。


 俺はグランマーレのリスポーン地点から、西京タワー前までファストトラベル機能を使って一気にワープ。


 カレンがいるはずの座標を目指し、相変わらず治安の悪そうな西京の街を歩いて――居た。


 人通りの少ない路地裏で、やけに色っぽい雰囲気を纏いながらぼーっと立っている和装の美女。


 俺は彼女、じゃなくて彼に声をかけた。



「おーい、カレンー」



 カレンはゆるゆるとこちらを見ると、退屈そうだった表情をくるりと笑顔に切り替え、バサラの姉御曰く”エセ京都弁”ではんなりと俺を歓迎してくれる。



「あらカネツグちゃん。いらっしゃい、よお来たなぁ。今日はどしたん?」


「ちょっと相談があってな。たぶん、お前にしか相談できないんだ」


「んふふ、ウチにしかできない相談ねぇ? いやらしいのはアカンよ?」


「断じて違います。……相談っていうのは、俺の仲間のことなんだ」


「仲間? 確か、金ピカの鎧の子と、青いライダースーツの子、それと白いコートの子やったね?」


「あともう一人、お前が会ったことのない仲間がいるんだ。エニグマ……いまはエンネアっていうんだけどな」



 俺はそのエニグマがアバターの外見と名前を変更し、無性別の機人から可愛らしいロボ少女の”エンネア”となったことをカレンに話す。



「あらまぁ、無性別アバターが女の子に。良かったやないの、お仲間に女の子が増えて」


「……いや、それが問題なんだ」


「そうなん?」


「ああ」



 そう、今まではエンネアがエニグマだったから何の問題もなかったのだ。


 しかし、エニグマはエンネアとなった。


 無性別の機人系アバターから、女性の機人系アバターに。



「エニグマがエンネアとなったことで、俺以外のパーティメンバーが全員女性アバターとなってしまった。このままでは、このままでは俺は……」



 両手で顔を抑え、もうどうすればいいのかわからないのだと、俺は悲痛な声でカレンに訴える。



「自分以外のパーティメンバーを女の子で固めるむっつりスケベだと周囲に思われてしまう――――ッ!」



 俺の抱えた悩み、パーティが抱える問題を聞いて、カレンはにっこりと笑う。



「めっっっちゃどうでもええわぁ……」


「そんな!?」


「だって、男性アバターが一人に女性アバターが複数ゆうパーティ、それなりにお見かけしますし?」


「まあわりと見かけるけどさぁ。なんかそういうの、男性アバター側にこう、下心がある感じがしないか?」


「別に? むしろそんなん気にしとる方がスケベっぽい思うで?」


「うっ! ……しょ、しょうがないでしょそう言われても気になるんだから!」



 俺はそう必死に訴えるのだが、カレンはくすくす楽しそうに笑うのみ。



「や、やっぱ相談相手を間違えたのか……!?」


「んふふ、まあウチも男やさかい、ちょっぴりならその気持ち、わからんでもないかもなぁ」


「っ!! でしょ!?」


「しかしなぁ、それで困っとる言われても、ウチにできるのはアドバイスくらいやで?」


「アドバイス?」


「パーティメンバー、入れ替えたらええやん? もしくはエンネアちゃんに元のアバターに戻ってもらうとか」


「いや、そんな理由で仲間をパーティから追い出したくはない。エンネアも……本人に思うところがあって今まで使ってたアバターを変更したんだろう、それを俺の都合で戻せだなんてわがままを言うつもりもない」


「律儀やねぇ、カネツグちゃん。そういうとこ嫌いやないけど……なら、ウチにどうしてほしいん? 男アバターにして仲間に加われ、なんて言われても困ってまうよ?」


「お前も女性アバターを使いたくてそうしてるんだろ? それを変えろとは言えないよ」


「……男が女の子のアバターつこうとるの、変だと思ったりしないん?」


「別に? それよりも、ここからが相談の本題なんだが……カレン、俺のパーティに入ってくれそうな男性アバターの知り合いとかいないだろうか!?」



 現在、俺のパーティは男が一人に女が四人という男女比のバランスを欠いた状態になっている。


 ならばここに男性メンバーを加えて男性二人に女性四人にすれば、少なくとも俺一人にスケベ野郎の視線が集中することはなくなるのだ。


 中身が男のカレンなら、このゲームをやっている男性の知り合いも多いだろう。


 なので誰か紹介してもらえないだろうかと、そう考えてここに来た。


 しかしカレンは難しい顔をする。



「うーん、ウチもあんまりお友達が多い方やないからなぁ。紹介して言われても」


「……だ、ダメかな?」


「……男性アバターの仲間がほしいんなら、一人だけ思いつきはするけどなぁ」


「マジで!? 紹介して! ぜひ!」



 周囲からのスケベ疑惑を回避するため、俺は必死にカレンに懇願した。


 カレンはしかしなぁとしばらく悩ましそうにしていたが、俺の想いが通じたのか、やがてわがままな我が子を見るかのように困った風な微笑みを浮かべる。



「しゃーないなぁ。そんじゃ紹介したげるよ」


「ありがとうカレン!」


「ただ、その子が仲間になってくれるかはわからんよ? あと、その子にはちょっとした問題があるんやけど――」



 と、カレンがその問題とやらを口にする前に。



「あの、カレンさん? お取り込み中でしょうか?」



 後ろから、声が聞こえた。

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