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エース! ジャック! キング! ジョーカー!(クイーンはいない)。

 火炎放射器を構えたまま、モヒカンキングは語り始める。



「すでにこのR0には一億円を求めて一万人を越えるプレイヤーが入ってきておる! イベントが始まってから一日と経っていないにも関わらずだ! 競争相手すでに一万! 今後もさらに増え続けるだろう! 競争相手が増えれば一億も遠のく! ならばこれ以上、増えないようにすれば良いのだ~!」



 つまり、と、こちらをビシィっと指差して。



「先にこの地でレベルを上げ装備を整えた俺たちが! 新しくやって来た新参どもを狩りリスポーン地点に送り返す!」



 リスポーン地点というのは、戦闘などでHPを全損したプレイヤーが5分後に飛ばされる復帰地点のことだ。


 例えば俺の場合、惑星レグルスのとある町の噴水前が現在のリスポーン地点。


 なので、俺はいまこの場で死ぬとR0から別惑星の町にまで戻されてしまう。


 R0で復活できるようにするには、このワールドにリスポーン地点を移さなければならない。


 リスポーン地点の変更は町中の噴水や銅像などの特定のオブジェクトに触れることで行われる。


 だからまず町に辿り着き、さっさとリスポーン地点の変更を行いたいのだが、



「なるほど、こっちでリスポーン地点登録ができないと撃破されるたび元の星に送り返される。戻ってくるには宇宙船を使わねばならず、宇宙船を降りて最初の街を目指すとまたお前らに遭遇する、と……」


「ぐぅふふふぅ~! 理解が早くて助かるのぉ~! さあ、このR0完全封鎖計画の恐ろしさを知ったところで我が炎の贄となるがよい! そして一億円は諦め、二度とこの地を訪れぬことだ~!」



 モヒカンキングは火炎放射器を青空に向けて引き金を引き、ごうごうと立ち上る炎でこちらを威圧する。


 重力に引かれて落下した炎がモヒカンキングの仲間たちに降り注ぎ、彼らのモヒカンを燃やして阿鼻叫喚の事態を引き起こしているのだが、それはともかく。


 俺は腕を組み不敵に笑う。



「フッ、その計画には穴があるな。お前たちを倒せば、俺たちは最初の町に辿り着ける」


「ぐぅふふふぅ~! 吠えるではないかキサマぁ~! しかしレベル1、アイテムなしの状態で俺たちが倒せるかなぁ~?」


「そっちレベル最大でどんくらい?」


「俺の後ろにいるモヒカンジャックがこの場で最も高いレベル5」



 一番レベルが高いのお前じゃないのかよ、という言葉を飲み込んで。


 敵の戦力だが、プレイヤーが13人。


 レベルは最大でも5。


 相手の装備はどれも見覚えがある。


 低レベル帯プレイヤー向けの無課金装備ばかりで、どれも性能はそれほど高くない。


 具体的に言うと、相手のレベル5がステータスを防御系に全振りしたと仮定して、こちらがレベル1・武器なしの状態でも攻撃を通せる程度の防具。


 武器の方も、当たりどころが悪くない限りは防具なしでも攻撃を2、3発は耐えられる程度の性能。


 攻撃してもダメージが通らず、防御しても問答無用で即死させられるような、ガチガチの課金フル装備を相手にするよりかは、遥かにマシな戦力差だ。


 勝ち目がある。


 思考を終え、俺は再び不敵に笑う。



「残念だったなモヒカンキング。これはこちらが勝てる戦力差だ」


「ほほ~ぅ!?」


「装備なしのレベル1でも攻撃を通せるような防具。そしてそっちは13人、対してお前らが狩ろうとしていたプレイヤーはざっと見ただけで100人以上。100対13の戦いになったら、そっちに勝ち目はない」


「あっ」


「あっ、って!? 気づいてなかったの!?」


「………………ぐぅふふふぅ馬鹿めぇ~! その程度は計算しておるわぁ~! その戦力差があろうとも、こちらは100人を返り討ちにできる猛者ばかりということよぉ~!」



 ほんとかなぁ?


 と、エニグマがツンツンと肩をつついてから耳打ちしてくる。



「いま思い出したけど、グロリアス・フリューゲルって確かわりと大手のギルド。プレイヤーの殆どが重課金以上っていう」


「え、強いのあの集団?」


「さあ? 課金装備ありで戦ったらカネツグたぶん一瞬で蒸発すると思うけど。っていうか昨日、モヒカンキングに一瞬で蒸発させられたばかりだし」


「……そういえばそうでしたね」


「まあ、プレイヤースキル次第? ボクはやれると思うよ」


「お前もそう思うか。あっちはR0のルールに従い課金装備なしの状態、そしてこっちの戦力は100人以上。やれないこともないはずだ」



 と、俺たちの会話を聞いていたモヒカンキングがいやらしく笑う。



「ぐぅふふぅ~、キサマがアテにしている戦力はどこにいるのかなぁ~?」


「そりゃあこの場に……いねぇー!?」



 言われて周囲を見回し気づく。


 今この場に残っているのは、俺とエニグマ、そしてモヒカンキングたちグロリアス・フリューゲルの皆さんだけ。


 いつの間にやら他のプレイヤーたちは逃走したらしい。


 かしこい。


 この時点で2対13……いや、実際は1対13。


 今のエニグマは能力を初期化されており、ミニオン召喚スキルを持っていない。


 ミニオンなしでは戦力外、それが我が友エニグマさんなのである。


 ……最近のFDVRゲーはアバターの感情表現機能がすごい。


 プレイヤーが悲しい気持ちになるとアバターが涙を流したりする。


 その機能がフル稼働し、俺の額からは冷や汗がダラダラと流れ出していた。


 これまずくね?


 逃げようかな? とも思うのだが、



「ぐうふふふぅ~! あれだけ吠えていまさらごめんなさいとは言わせんぞぉ~!」


「ば、ばっかやろ! そんなん言うわけないでしょかっこ悪い!」



 普段ならば三十六計逃げるに如かず、勝てない戦いからは全力で逃走するのが俺である。


 しかし、この場において俺はめっちゃカッコつけながら啖呵を切ってしまった。


 この状況で逃げるのはさすがに恥ずかしすぎるでしょ。


 幸い、R0に到着すると同時に所持品は全て倉庫に送られている。


 いま倒されても奪われるものはなにもない、ただリスポーン地点に送り返されるだけだ。


 やってやる、やってやるさ。



「ご、御託はいいからかかってきなさい返り討ちにしたるわっ!」



 俺は拳を握り、それっぽい構えで戦闘態勢を取った。

TIPS:キング

王様を意味する英単語。

トランプにおいては”13”に相当する絵札である。


数字的にはトランプで最も大きいのだが、遊ぶゲームのルールによっては1(エース)や2の方が大きい数として扱われたりする。

王様なのに2番手、3番手。

ちょっとかわいそう。

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