エニグマの謎(解明編)。
ボクは――九鬼丸はてなは、フレンドに全てを話そうと決意した。
導いてくれたのは東雲さんだ。
彼女に相談してよかった。
おかげで色々と吹っ切れた。
一週間ぶりにUNOにログイン。
二人きりで話したいことがあると、カネツグにメッセージを送る。
待ち合わせ場所は、ほとんど人のこない浜辺だ。
時刻は夕暮れ時。
水平線の彼方へ沈む夕日をぼーっと眺めながら、友達を待った。
波と風が、オレンジ色の世界で静かに音を奏で続ける。
その音の中に、ふと人の声が混じった。
「エニグマァァァァァァァァァッ」
彼が来た、と、振り返る。
タックルをかまされた。
「げほぉ!?」
地面の上に押し倒されながら、ボクはすでに彼を怒らせてしまったのかと泣きそうになったが、
「うわぁぁぁんよかったよぉぉぉえにぐまぁぁぁぁ! 事故とかにあっでなくてぇぇぇ! 心配したんだぞぉぉぉ!」
彼はボクの無事を確認し、喜びのあまり抱きついて来ただけらしい。
泣くほど心配してくれていたのが嬉しくもあり、泣くほど心配させてしまい申し訳なくもある。
ボクは彼の頭をぽんぽんと撫でた。
「あはは、よしよし。ごめんね、ちょっと色々あってさ」
「んもぉぉぉほんとにさぁぁぁなんか連絡くらいいれろよなぁぁぁ!」
そのまま、彼が落ち着くまで一分ほど。
泣き止むと彼はスッと立ち上がり、いつもどおりに格好をつけた。
「フッ、見苦しいところを見せてしまったな」
「いまさら格好つけるのは無理があると思うよ……?」
「ぐっ!? ……いやまあ、俺のことはどうでもいい。それよりも、話ってなんだ?」
きた。
彼の問いかけに、ボクはすぐに答えようとして……けれど、何も話せない。
もし、全てを話して、彼と決裂してしまったら。
そう考えると、怖くなって声が出せなかった。
夕日が沈んで、世界が暗くなっていく。
数分間、もしかしたら数十分間、ボクは沈黙し続けた。
けれどカネツグは、そんなボクの言葉を何も言わずに待っていてくれる。
……ああもう、相変わらず優しいなあこいつ。
だから、信じることにしたんだ。
「……あのさ、ずっと黙っていたことがあるんだ。ちょっと長くなるけど、聞いてくれる?」
「フッ。隠しごとはなしだぜ、マイフレンド」
カネツグはいつもの調子でいてくれた。
だから、思ったよりも話しやすかった。
東雲さんに話したのとまったく同じ話を、カネツグに語って聞かせる。
ボクの正体、UNOを初めた理由から、この一週間ずっとログインできなかった理由まで。
カネツグは黙って全てを聞いてくれた。
すべてを告白した後、ボクはあらためて彼に伝える。
「――ボクの正体は九鬼丸はてな。キミの同級生、前の席の女です」
言った。
全てを吐き出した。
あとは彼に審判を委ねる。
カネツグは、呆然とした表情で呟く。
「三年間も正体を隠すとかなんかカッコいいな……俺もやろうかな……!」
東雲さんの予想、当たってた。
怒ってはいなさそう。
だけれど、念のため、ボクは彼に確認する。
「……あの、カネツグ。怒って、ない?」
「おこ……? なんで……?」
「その、ボク、騙すつもりはなかったとはいえ、リアルの性別を言いそびれたままで、結果的にキミを欺き続けたわけだから……」
「別に、騙されたとは思っていないぞ? 本来の性別を隠すなんてFDVR以前のオンラインゲームから続く伝統みたいなものと母さんも言ってたし。お前は何もおかしいことはしていない」
「……それで、いいの?」
「ああ。お前が男だろうと女だろうと、中身が変わっていないのなら、俺のフレンドなのは変わらない。……さすがに中身が別人になりましたとか言われると困るけどな! どうしよう、その場合ははじめましてエニグマ二号さんとか言えばいいんかな!?」
「あはは、誰だよぅエニグマ二号さんって」
「そりゃお前、二号は二号だよ。一号よりなんかパワーアップしてるんだよ、きっと」
「何かって?」
「ビームとか撃てるんじゃないかなたぶん……?」
いつの間にか、ボクたちはいつもと変わらぬ馬鹿話をしていた。
カネツグがノリで適当なことを言い、ボクが適当にツッコミをいれる。
適当で気楽な、いつも通りのフレンド同士の会話。
ボクの正体は、私たちの関係に何の影響も与えなかった。
夜空の下、ボクたちはどこまでもいつも通り。
良かった、カネツグがフレンドで。
良かった、フレンドのことを信じて。
「……っと、暗くなってきたな。他に話すことはないか?」
「うん、大丈夫」
「なら、そろそろ街に戻ってみんなと合流しよう」
「あいあい!」
ボクたちは浜辺に足跡を残しながら歩き始める。
その途中、ふとカネツグが小声で呟く。
「……俺も、お前に感謝してる」
「え?」
「三年前、アカツキと決裂した直後のクソ荒れていた時期の俺と友達になってくれただろう? お前がいてくれたおかげで、俺は多少はマシなヤツに戻れたわけだし、それが最終的にアカツキとの和解にも繋がった。だから、ありがとな」
「……あはは、良いってことよ、マイフレンド!」
「そうか。そうだなマイフレンド!」
お互い親指を突き立てて、カネツグは歯を見せて笑い、ボクはモニター顔に笑顔のマークを表示して笑った。
ああ、本当に、こいつと一緒にいると楽しいなぁ。
この関係を捨てずに済んで良かった。
ボクたちをどこかで見ているであろうアカツキさんには、あとでお礼を言わないと。
相談に乗ってくれてありがとう、って。
……思えば、人に何かを相談したことなんてなかった。
もしかして、そういう話ができるような関係も、友達と言うのだろうか?
だとしたら、ボクが勝手に思っているだけかもしれないけれど――彼女も、東雲天音も、ボクの大切な友達だ。




