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九鬼丸さんと東雲さん。

 まったく釣れない釣りコンテンツに苦戦し、海と向き合うこと一週間とちょっと。


 遅くまでUNOにログインしているせいで、最近はだいぶ寝不足気味だ。


 その日、私は普段より二時間ほど遅く自分の部屋で目を覚ます。


 スマホの時計を見て、また八坂家の朝食を作るのを忘れたと、枕に顔をうずめて一分ほど後悔。


 それから両親にいつもの連絡をするためにメールアプリを起動させようとして――そこでスマホの異常に気がついた。


 仮想世界での私、”アカツキ”は友達が少ない。


 では現実での私、”東雲天音”はどうかというと、やはり友達と呼べるほど仲の良い相手は兼続と奈緒ちゃんくらいだ。


 クラスメイトなんかと、放課後や休みの日に一緒に遊びに行ったことなど、一度もない。


 ……断っておくが、面倒な人間関係に巻き込まれるのが嫌だから、あえてそうしているのだ、ぼっちというわけではないんだから。


 ともかく、そんなわけで私のスマホに届くメッセージは家族か八坂家からのもの、あるいは学校からの連絡事項、あとは迷惑メールくらいである。


 しかし、夏休み後半のある日、私のスマホにはそれ以外の人物からのメールが届いていた。異常事態である。


 差出人は”九鬼丸はてな”、つまりはクラスメイト。


 メールアドレスを教えたかなと首をひねった後、緊急時の連絡網として教師とクラスメイトはこのアドレスを知っているんだと思い出す。


 ならクラスメイトから届いたこのメールは、学校からの緊急連絡?


 ……でも学校から何かあるなら教師のアドレスから一斉送信されるはずだし。


 考えていても仕方がないので、メールを開いてみる。


 タイトルは無題のまま、本文はたったの四文字。



《あいたい》



 相対……? あ、痛い……? ……”会いたい”、かしら?


 伝えたいことは理解できたが、その真意はわからない。


 私はそのメールに返信する。



《東雲です》

《会いたい、ということでいいんでしょうか?》

《可能ですが、できれば理由を教えてもらいたいです》



 五分と経たず、返事が返って来た。



《相談が、あるんです》

《たぶん、あなたに話をするのが一番だと思った》



 相談?


 私に?


 そういうのは私以外の誰かにした方が良いと思う。


 兼続なら、役に立つかはともかく話はしっかり聞いてくれるだろうし。


 ……でも、わざわざ私を指名してくれたのだ、一応は聞いてあげようと思った。



《わかりました》

《日時と場所を決めましょう。いつ、会いますか?》


《できれば早い方がいいです。可能なら今日にでも。良いですか?》


《わかりました。では今日の、午後1時でどうでしょうか?》


《大丈夫。場所はそちらの指定にあわせます》



 場所を指定しろ、と。


 困った。


 こういう時、どこで会えばいいのだろう?


 同年代の相手との待ち合わせなんてしたことがない。


 レストラン? いや、食事に行くわけでもないし。


 ゲームセンター? 遊びに行ってどうする。


 ショッピングモール……だから買い物したいわけでもなく……。


 5分ほど考えた後、私が導き出した結論は。



《学校の図書室でどうでしょうか?》



 そう、学校の図書室。


 うちの学校は、夏休み中でも平日なら図書室が開いている。


 調べ物をしたい学生のためにそうなっているんだとか。


 図書室なら静かに話せるだろうし、お互い通い慣れた学校だから迷うこともない。


 我ながらベストなチョイスだと自画自賛。


 提案に対し、答えはすぐに返ってくる。



《わかりました。午後1時、学校の図書室で待っています》



 こうして、私は九鬼丸さんと会うことになった。


 学校に行くのだから学生服姿で、人に会うのだから身だしなみもしっかり整えて。


 クラスメイトと待ち合わせなんて初めての経験だ。


 ちょっぴりワクワクしながら登校し、私は約束の時間の30分前に図書室に辿り着く。


 そっと中を覗くと、もうすでに九鬼丸さんが来ていた。


 彼女以外に人の姿はない、貸切状態。


 九鬼丸さんは読書スペースの机に座り、物憂げな表情でぼーっと窓の外を眺めている。


 その姿はとても様になっており、まるで青春映画のワンシーンのよう。


 さすが、ファッション雑誌で読者モデルをやっているだけのことはある美少女っぷり。


 私とは違う世界の住民だ。


 そんな彼女が私に相談とは、本当になんなのだろう?


 まあ、聞けばわかる。


 私はあえて靴音を立てながら、彼女に近づく。


 九鬼丸さんは靴音でこちらに気づくと、どこか弱々しい笑顔で私を歓迎した。



「こんにちは、東雲さん。ごめんね、夏休み中なのにわざわざ来てもらっちゃって」


「構いません、忙しいわけでもありませんし」



 私は落ち着けた声で答えつつ、彼女の反対側に着席する。


 向かい合って、さて。



「さっそくですが、相談とは? 私で力になれるかはわからないけど……」


「あ、待って、その前に確認」


「え?」



 九鬼丸さんは私のセリフを遮った後、少しだけ逡巡してから、こう問うてきた。



「東雲さんって、”アカツキ”だよね?」


「っ!?」



 なんで、彼女が、仮想世界での私の名前を知っているの……?

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