エニグマの謎。
アカツキが釣りを始めた日から一週間が経過した。
この間、アカツキが釣ったものをは以下の通り。
錆びた空き缶、203。
海藻、87。
長靴、7。
人骨、1。
邪神の眷属、1。
なお、邪神の眷属というタコのバケモノみたいなエネミーは、釣り上げられると同時に戦闘を仕掛けてきたのでみんなで撃破した。
……早い話、お目当ての獲物どころか魚すらもろくに釣れなかったということだ。
さんざんな結果にアカツキは肩を落としつつ、今日も諦め悪く海に釣り糸を垂らしている。
一方、俺たちはアカツキの背中を眺めていてもしょうがないので、この一週間であちこち回って狩りをしていた。
金策の他、カレンに貰った新武器”死式刀・蛇鴉”と、バサラの姉御の”四色刀”による二刀流を練習する意味もある。
ペスカは雷属性の魔法、アルは狙撃で、慣れない戦い方に挑戦する俺の援護。
二刀流をやってみてわかったが、武器が二つあると隙なく攻撃を繰り出せてなかなか楽しい。
俺の場合は左右の武器の特性が大きく違うので、斬撃が通る敵には蛇鴉を、属性攻撃が効く相手には四色刀を、といった具合に、相手の弱点に応じて利き手に持つ武器を切り替えるのも良い感じ。
……ちなみに、武器としての使い勝手は蛇鴉の方が上だった。
単純に、基本性能で勝っている点が大きい。
属性攻撃が効かない相手だと四色刀はだいぶ辛くなる。
この感想を正直に姉御とカレンに伝えるべきかは……またギスギスされるのも怖いのでちょっと考えさせてもらおう。
とにかく、そんな感じでこの一週間は大きな進展もなく、少々の収穫と共に時が過ぎ去っていった。
そう、一週間。
釣りをしているアカツキを除いた俺たち三人は、グランマーレのカフェテラスで休憩していた。
そこで俺はアルとペスカに、抱え込んでいた不安を吐き出す。
「エニグマがログインしてこない……」
我がフレンド、エニグマ。
あいつがこの一週間、一度もUNOにログインして来ないのだ。
あんまり興味なさそうにしているアルは置いておいて、ペスカがそういえばと人差し指を唇に当てる。
「確かに、最近はグマさんのこと見てないね」
「あいつ、毎日ログインして来るってわけではないんだけど、それでも一週間も来なかったのはこの三年間ではじめてなんだ。心配だ……なんかあったんじゃないだろうか……」
「……一週間、ログインしない程度、騒ぐほどのことでも、ないと、思うぞ、イカスミ」
「頭ではわかってはいるんだけどさぁ、やっぱり心配なんだよぉ。事故とかあってたらどうしよう……リアルの連絡先を交換しとけばよかったなぁ……」
「そういえばグマさんって何をしている人なの?」
「高校生とは言ってた。……考えてみればそれ以外のこと何も知らないな」
あいつと俺は三年のつきあいがあるが、リアルの情報に関しては話す機会もなかったのでお互いさっぱりである。
しかし連絡先も知らないと、今みたいな状況で心配することしかできなくなってしまう。
「次にアイツが来たら連絡先を聞いておこう……教えてくれたらだけど」
「長い付き合いのフレンド相手でも、現実世界での情報は教えたくはないって人もいるだろうからねぇ。しかしリアルの方のグマさんかぁ、どんな人なんだろ」
「普通の高校生男子じゃないか? 俺みたいな」
「お兄ちゃん変人よりだから普通を自称しちゃダメだと思う」
「そんな!? こんな一般的高校生男子なのに!?」
「自覚しよ、色々と? それはともかく、私はグマさん意外と良いところの息子さんなんじゃないかと思うね。そっちの方がおもしろいし」
「良いところって?」
「……総理大臣の息子?」
「それはさすがにないと思う……」
まあ悪いやつじゃないし、”ヤクザの組長の子供”とかでもないだろう。
と、会話を聞いていたアルが、不思議そうな顔をして口を挟んでくる。
「あいつ、女じゃ、ないの?」
「え?」
「え?」
「私、あいつ、女だと、思ってた。なんとなく。けど、お前ら、男だって、前提で、話してるし」
「いやそりゃあいつ男だし――いや、言われてみれば、そうか。男かどうかもわからないんだよな、あいつ」
エニグマとリアルの性別について話したことはない。
アバターも性別のない機人系だし……と言っても、アバターの性別とリアルの性別が必ず一致するわけでもないが。
「……でもこのゲームのプレイヤーの8割は男性って話だし、確率で言えば男じゃないか?」
「まあ、確率で言えば、そっちの方が、高確率。けれど、もし、女、だったら?」
アルに問われて、ふと考えてみる。
もしエニグマが女の子だったら?
「――別にどうとかいうこともないかな。男だと思ったから仲良くしていたわけじゃなく、一緒に居て楽しかったから組んでいたんだ。性別がどっちだったにしろ、あいつは俺のフレンドだよ」
「なるほど」
アルはうんうんと頷き、
「……良い子すぎて、面白くない、答え。女だったら、ラッキー、ホテルに連れ込んで、ヤったるぜ、くらいの、ヤバさを、見せてほしい」
「俺を何だと思っているのかねきみは? っていうかペスカのいるところでホテルがどうのとかヤるとか言わないで教育に悪いから」
「いやツグ兄、今の中学生はラブホとか普通に知ってるよ? 少女漫画において教師と教え子がラブホ行く確率は7割を軽く越えてるぜ―?」
「どうなってるの少女漫画の倫理観!? っていうかラブホとか言うんじゃありません嫁入り前の娘っ子がッ!」
「おいおい女子に幻想を抱きすぎだぜツグ兄よぉ」
「ある調査に、よると、15歳までに、彼氏に、処女を、ぶち抜かれる、日本人女子の、割合は、全体の5割に、のぼる。高校生なら、二人に、一人は、ヤってます」
「やめろォ! もしペスカに彼氏が出来たらとか考えたら”死体、処理、硫酸、入手方法”でネット検索かけざるを得なくなるぅぅぅ!」
「ツグ兄、実は私、アルっちとおつきあいしてるの」
「アルてめぇ裏切ったな!?」
「落ち着け」
「アルっちすっごくテクニシャンで熱い一夜を過ごしたわ」
「アルてめぇ!!?」
「落ち着け、カタナを、抜くな、こっち、向けるな」
「実はお腹に子供もいるの! 元気な三つ子よ!」
「アルてめぇ!!!!???」
「だから落ち着けって言ってんだろこのイカスミが! コンブも、バカを、挑発するな!」
「だからコンブってなんなのさ!?」
「コンブ!? 子持ち昆布!? アルてめぇまさか昆布にまで魔の手を!? 我が妹というものがありながら! 許せんッ!」
「いい加減、撃つぞ、お前ら」
「あ、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
ごっつい狙撃銃の銃口を向けられ、俺たちは瞬時に土下座の体勢へと移行する。
土下座しつつ、再び少し考えてみた。
もしエニグマが女の子だったら?
その時は……やっぱりどうもしないな、うん。
あいつの正体がなんであろうと、あいつは俺のフレンドだ。




