釣り竿スナイパー。
UNOの釣りは、水があるところならどこでもできる。
川や海は勿論、町中の噴水や水路、なんならマンホールの蓋を開けて下水道に釣り糸を垂らすことだって可能だ。
しかし、俺たちの釣ろうとしている獲物は海にいるらしい人を喰うようなバケモノ。
町中の水場で釣れるわけもない。
目指すは海だ。
俺たちは西京からグランマーレへファストトラベル。
それからグランマーレの港へと移動する。
ペスカが掲示板に情報漏洩させた影響か、港には釣り糸を垂らすプレイヤーの姿が多い。
ほとんどは証狙いだろう。
この人数が相手だと先にターゲットを釣るのは無理そうだなと、俺は気楽に構えているのだが、
「ライバルがこんなにたくさん……! のんびりしてはいられないわね!」
負けず嫌いのアカツキさんは新しく買った釣り竿を片手に、慌てて釣り人の集団に加わった。
糸の先に錘と釣り針、それとエサをとりつける。
勢いよく竿を振りかぶり、キャスティング!
……なぜかこっちに錘が飛んできた!?
見学していた俺の額に直撃!
「痛ァ!?」
「あれ!? ご、ごめんなさい!」
「痛ぅー……い、いや、初心者ならそういうこともあるよな。どんまい! 頑張れ!」
「え、えぇ。今度こそ……!」
真剣な顔で、アカツキは再び竿を振るう。
俺の隣のペスカの額に錘が着弾した。
「痛ー!?」
「あれー!? ご、ごめんなさいペスカちゃん!」
「あいたた……しょ、しょうがないよ、ツキ姉、釣りははじめてだもんね。どんまいどんまい! 頑張って!」
「も、勿論! 次こそは……!」
強敵に対峙し、大剣を構えている時と同じ、まさに戦闘中のような顔つきで、アカツキは極限まで集中。
三度、竿を振るった。
ペスカの隣のアルの額に錘が着弾する。
「あうっ!?」
「なんでよぉ!? ご、ごめんなさいアル!」
「ド下手くそがエサを海に投げ入れることすらできねえのか金魚すくいからやり直せイノピカ。……ミス、大丈夫です、頑張ってください」
「だからイノピカってなに!? ……い、いえ、そうじゃないわね。ええ、頑張るわ。次こそ成功させてみせるんだから!」
四度目、一周してまた俺の額に錘が飛んできた。
「わざとやってません!?」
「わざとで的確に仲間の額を狙撃できる腕があったら苦労しないわよ! なんで狙い通りに飛ばないのよぉ……!」
泣きそうな顔で五度目のキャスティング。
ペスカの額に……このあとしばらく同じことが繰り返されるので省略する。
30分ほどして、ようやく海に釣り糸を垂らすことができたアカツキ。
「ど、どう!? できたわよこの通り!」
「わーすごーい」
パチパチパチと死んだ目で拍手する俺たち三人、そのHPは錘による狙撃によってレッドゾーンまで減少していた。
「あの、これ、回復薬、使います?」
「あ、どうも」
一部始終を見守っていた通りすがりの釣り人が回復アイテムをくれた。
やさしい。
俺たちは回復薬――小瓶の中の液体をちまちま飲みながら、釣りをするアカツキの背中を眺めている。
周りの釣り人が次々と魚を釣り上げる一方、金色の騎士の釣り竿はピクリとも動かない。
10分経過。
相変わらず釣れていない。
30分経過。
見ているのに飽きたらしく、アルはふらりとどこかへ行ってしまった。
1時間経過。
俺はあまりに暇だったので通りすがりの釣り人さんと世間話をしていた。
「このゲームの釣りって初心者だとあんなに釣れないものなんですか?」
「いやー釣りスキルなしでも5分くらい釣りしてれば何かはかかるよ? ゲームだからね、現実の釣りよりも釣れやすくなっているんだ。周りに釣り糸を垂らすライバルが多いとは言え、あそこまで何も釣れないのはもはや奇跡だよ」
奇跡レベルで何も釣れないアカツキさんだったが、奇跡はその後も2時間ほど続いた。
釣りを始めた時は日も高かったのだが、時間経過ですでに夕日は水平線の彼方へ沈みかかっている。
ペスカはすやすやと寝息を立てており、釣り人たちは夜の釣りに備えて準備をする時間帯らしくほとんど退去済み。
港をうろつく猫型NPCと俺くらいしか見る者がいない状況でも、アカツキは執念深く釣り竿を握り続ける。
「……アカツキー、そろそろ一旦ログアウトして夕飯を食べないかー?」
「待って! なんだかそろそろ釣れる気がするの! 海がそう言っているわ!」
ぐるぐるした目でおかしなことを言い始めるアカツキ。
いざとなったらぶん殴って正気に戻すかと、俺が拳を握ったその時。
アカツキの竿が、ぐいーっと海に引っ張られた。
「おぉ?」
「……! きた、きた、来てるわ!」
それだけでアカツキは歓喜の声をあげた。
しかしまだだ、釣りは魚を釣り上げるところまでが勝負。
釣り人さん曰く、魚を釣り上げる段階で重要なのは竿を引くタイミング、そして巨大な獲物の重量にも負けないSTRだという。
アカツキは大振りな大剣を確実に当てていけるくらい攻撃のタイミングを計るのは得意、STRに関しては言うまでもない。
つまり、魚がかかりさえすれば、あとはアカツキの得意分野。
1分としないうちに、アカツキは獲物を釣り上げることに成功した。
「とった――――ッ!!」
喜びの声を上げながら、釣れたものが何かを確認するアカツキ。
釣り針には、錆びついてボロボロの空き缶が引っかかっていた。
「なんでよ――――ッ!」
何時間も粘った挙げ句のその結果に、アカツキはその場に崩れ落ちる。
哀れすぎてなにも言えなかった。
良い子の皆さん、海にゴミを捨てないようにしましょう。
こういう悲しい目にあう人が増えないように。




