なんでもある100円ショップの如きお店。
俺たち四人はバサラの姉御が経営するプレイヤーショップ”ぱらいそ”にやって来た。
いくらバサラの姉御が何でも作る人だと言っても、さすがに釣り竿までは作らないんじゃないか? と、俺は店に辿り着いた後でそのことに気がついたのだが、
「あるよ、釣り竿」
「あるの!?」
姉御は当然のように店の奥から釣り竿を持ってきた。
「マジでなんでも作るんですね姉御……」
「まあね。にしても、今日は大人数だねカネツグ」
「仲間です。まあ俺と後ろの二人は冷やかしについてきただけですけど」
「構わないさ、冷やかしの客にも物を買わせるのが良い商売人だよ。えっと、フォーハンドとは少しだけ顔を合わせたね、廃坑道の前で」
「その名前で呼ばないで! アカツキです!」
「あいよ、アカツキね。よろしく。んでそっちの二人は」
「ペスカっす! ツグ兄の妹っす! よろしゃーっす!」
「……アル。よろしく」
「おう、よろしく! 見たところ、レーサーにスナイパーかい?」
装備をざっと見て、姉御は二人のプレイスタイルを看破した。
「メカ系のパーツとか狙撃銃も作ってるから、欲しい物があったら言いな。サービスしとくよ?」
「うっす! 恐縮っす姉御!」
「なんで兄妹揃ってそんな舎弟キャラなんだい……?」
それは姉御の姉御力が高すぎるのが悪いとしか言えない。
「じゃ、俺たちは店の中を見てるよ」
「わかったわ」
アカツキが釣り竿を選んでいる間、俺たちはそれぞれに店の中を見て回ることにした。
以前は銃火器しか並んでいなかった店内だが、いまは色んな商品がバランスよく陳列されている。
アルは銃火器、ペスカはメカ系のパーツ、そして俺は例によってカタナの売り場へ。
相変わらず、姉御の作った武器はそこそこの性能をしており、そして値段はまあまあ安い。
それと、二色刀と名付けられたカタナがいくつか売られていた。
どうやら俺に送った四色刀を改良したものらしい。
ギミックで付与できる属性の数が絞られているが、そのおかげか耐久値は四色刀を上回っている。
値段も同程度の性能の属性武器と比べればだいぶ手頃で、物理に強いアンデッド系なんかに苦戦しがちな低レベル帯プレイヤーにはありがたい一品だろう。
わりと売れそう。
クラフト系プレイヤーも色々と考えながらアイテム作っているんだなぁ、なんてことを考えていたら、ふいに京都弁で話しかけられた。
「――相変わらず姉さんの店はうつくしゅうないなぁ。そう思うやろ、カネツグちゃん?」
「え?」
声の方を向けば、いつの間にやら隣に一人の女性アバターが立っていた。
すらりとした手足、長い黒髪には花の飾りのかんざし。
華やかな着物は着崩して、白い肩をはだけさせる、少し色っぽい立ち姿。
花魁という単語が思い浮かんだが、花魁は右手に鍛冶用のハンマーなんて持っていないよな……。
槌を手にした和装の美女は、俺の顔を見て狐みたいににやぁと笑う。
「ごちゃごちゃしとってゴミ屋敷みたい。もっと売りもん厳選して、きれいに並べた方がきれいやん?」
「俺はこういう雰囲気も嫌いじゃないですけど……っていうか誰?」
「あら? そういや自己紹介しとらんかったわぁ。ウチは――」
「何しに来たんだい、カレン?」
カレン、と、本人に先んじてそのプレイヤーネームを口にしたのは、いつの間にか俺たちの後ろに立っていたバサラの姉御だった。
「イヤやわぁ、姉さん、ウチのセリフを取らんといてな?」
「それが嫌ならいちいちアタシの店で客を口説こうとするんじゃないよ」
「うふふ、ちょっと世間話をしとっただけやん? リアルと同じで心が狭いなぁ、姉さんは」
「よーし喧嘩を売りたいんだね? 買うよ? 支払いは金槌でな?」
対峙している二人とも笑顔だが、その目が笑っていない。
交差する視線に火花が見える。
怖いんですけど!
このまま目の前で殴り合いを始められても困るので、俺は慌てて二人の間に割って入る。
「え、えーと! こちらのはんなりさん姉御のお知り合いで!?」
「まあね。こっちの世界での関係は同業者、商売敵さ」
「うふふ、姉さんと一緒だなんて、そんなとんでもない。片っ端からクラフト系スキル習得して変な複合アイテムばっか作っとる奇天烈発明家さまに比べたら、ウチなんてただの刀鍛冶やし?」
「誰が奇天烈発明家だって?」
ごめん姉御、四色刀という分類的にはおもしろ武器であろうカタナを受け取った身からすると、カレンさんの言葉を否定できません。
「ギミックのある武器の格好良さがわからないヤツはこれだから」
「うふふ、質実剛健なんて言葉は知らなさそうな姉さんの崇高な設計思想、ウチみたいな凡人には理解できんわぁ。……そうそう、そんでなぁ? 姉さんの”おもちゃ屋”にお客さんが入っていくの見えたから来てみたんです。そしたら噂のカネツグちゃんがおるやないの。うれしいわぁ、会ってみたかったんよ」
「噂の?」
「姉さんがよう言うとるんよ、変じ……面白いお人やって」
「いま変人って言いかけませんでした!?」
「気のせい気のせい。そんでカネツグちゃん、お人好しすぎて姉さんの産業廃棄物を押しつけられたらしいやん?」
「産業廃棄物じゃないよ、試作品だ。……失敗寄りではあるけれど」
「やっぱ失敗作なの四色刀!?」
目を逸らす姉御。
いやまあ、四色刀、個人的にわりと気に入ってるからいいんですけど。
「カネツグちゃん、そんな産廃でも使いこなせるくらいお強いんやってね。おかげで良い宣伝になってるって姉さん言うとったよ。そんなカネツグちゃんの腕を見込んでお願いがひとつ」
「お願い?」
「そ。ちょい待ち」
カレンさんは宙を指でなぞり、メニューウィンドウを操作。
するとその手に一振りのカタナが出現する。
黒塗りの鞘に収まった、いかにも日本刀という感じのカタナ。
「これな、”死式刀・蛇鴉”言うてな、ウチが作った武器です」
「アタシの四色刀の名前に被せやがって」
「うふふ、偶然やって。……で、カネツグちゃんにはこれで戦って、ウチの宣伝をして欲しいんよ」




