本格的に釣りを始めようと思うと道具代がなかなか高くつく。
夏休み中なのに登校したり、妹の交友関係にちょっと詳しくなったりしたその日の午後、俺はいつものようにUNOにログイン。
フレンドリストを確認すると、仲間たちはどうやら西京に集まっているらしい。
俺もリスポーン地点間のファストトラベル機能を利用し西京へ。
道端でお喋りしていた仲間たちと合流する。
「おはこんば。きみたちこんな真っ昼間からネトゲかね」
「おはこんば、人のことを言えないじゃんツグ兄」
「……何なのかしら、その妙な挨拶?」
「ペスカと俺たちの間で通じるいい挨拶はないかと話し合ったんだ。そこでおはようとこんにちわとこんばんわを組み合わせ”おはこんば”はどうかとなった。どうだ、いいだろう、アカツキ?」
「私は使用を遠慮させてもらうわ。変だし」
「えー? 良いと思うんだけどなおはこんば。なあ、アル?」
「ダサすぎ。へそで、茶が沸く」
大不評じゃんおはこんば。
仕方ない、これに関してはまた別の挨拶を考えることにしよう。
それはそうと、と、俺はこの場にいないもう一人の仲間について三人に問う。
「エニグマはまだ来てないのか。なんか聞いてない?」
「特には。そもそも、何かあるのなら、彼はもっとも仲の良いあなたに連絡すると思うわよ」
「それもそうか。ま、あいつはログインしない日もあるしな。来たら合流するとしよう」
俺はひとまずエニグマのことを横に置き、仲間たちに提案する。
「というわけで、釣りに行こう」
三つ目の証は海で釣れるバケモノが所持しているらしい、というのが、奈緒が貰ってきた情報だ。
すでにこの場の全員が共有している情報なので、”釣りに行こう”というそれだけ聞いたら突拍子のない俺の提案に反論は飛んでこない。
ただ、問題がないわけでもなく、アカツキがその点に関して聞いてくる。
「釣りをする、と言っても、どこで? 狙っている獲物がどこで釣れるかわからなければ動きようがないわ」
「フッ、そんなことわかっているとも。俺に良い考えがある」
「考え?」
「これから人に聞いて大物とか釣れそうな場所を調査します!」
「普通の行動! 良い考えというほどのものでもないじゃない!?」
「変に奇抜な手を使うよりも普通が一番なんですよこういうのは! はい他に質問ある人ー!?」
と、続いてアルがぬるっと手を挙げた。
「そもそも、釣り、できるの?」
「俺はやったことない。アカツキ?」
「私もないわ。ペスカちゃんは?」
「仮想世界でも水辺はちょっとねー……アルっち?」
「無理。やり方、知らない」
「……そもそも、釣りコンテンツ関連の道具とかスキルを持ってる人ー?」
誰も手を挙げない。
たぶん、エニグマも釣りをやったことはないと思う。
誰も出来ないじゃん、釣り。
「…………やったことないものはしゃーない! これからやり方を学べばいいんです! すでに釣り慣れているプレイヤーには大きく遅れを取るが、まあそんなにガチでやってるわけでもないしな俺たち!」
「やるからには勝つつもりで行くって言ってるでしょ、カネツグ」
「そうは言ってもなぁ。俺たち釣り初心者五人でどうやって釣りガチ勢より先に件のバケモノを釣るっていうんだよ、アカツキ?」
「BDRの時と同じよ。適正のあるメンバーを募集しましょう」
「あ、その手があったか」
BDRに勝つためレーサーとスナイパーを仲間にしたように、釣りが得意なプレイヤーをパーティに加えれば、問題の一つは解決する。
「ところで釣りが得意な知り合いとかいるんですかアカツキさん?」
「私にはいないわ。ペスカちゃん?」
「いなーい。アルっちー?」
「私に、人脈を、期待するな。カネツグ?」
「皆に同じ。……掲示板で募集するか」
スナイパー募集でアルが来たように、掲示板に釣り人の募集を書き込んでおけば誰かが来るだろう。
そう思ってメニューから掲示板を呼び出すも、
「……結構、釣り人募集の書き込みが多いな」
考えてみれば当然で、昨日のペスカの情報漏洩によって証入手に釣りが必須らしいことは多くのプレイヤーが知ることとなった。
その中には釣り系コンテンツに詳しくない者たちも多くおり、彼らは俺たちと同じことを考えて釣り人系プレイヤーを仲間に加えようとするだろう。
そうなれば掲示板にはアングラー募集の書き込みが溢れる。
……ちょっとまずい事態だ。
「この大量の募集の中から、わざわざ俺たちの仲間に加わろうって物好きがいるだろうか……?」
「大丈夫でしょう。一つ目と二つ目の証を最速で入手したのよ、私たち? 仲間に加わろうと思う人も多いはず」
「そうかなぁ? ……ま、募集するだけしておくか」
募集してみるだけならタダである。
俺は掲示板に釣り人募集と書き込んでから、メニューを閉じた。
「あとは募集に誰かが乗ってくるのを待つだけだな。それまで何をしていよう……?」
「どうせやることがないのなら、私も釣りをやってみたいわ」
「釣り関連のスキルを覚えられるほど記憶枠の余裕あるのか?」
「別に、スキルを習得しなくても釣り自体はできるでしょう?」
確かに、カタナを武器として使うのにカタナマスタリーが必須ではないように、釣りをするのに釣り系のスキルが必要というわけでもない。
大物がかかりやすくなったりとか、釣り糸が切れにくくなったりするといった、釣り系スキルを覚えることで得られるゲーム的な補正がなくなるだけだ。
……アカツキはゲーム的な補正無しで釣りとかできるほど器用ではないと思うのだが、黙っておこう。
「ペスカちゃんはどうする? 釣り、やってみない?」
「私は見学だけしてるよ。釣り竿ごと海に引きずり込まれたりしたら嫌だし」
ペスカの水辺に対する苦手意識は、仮想世界でも変わらないらしい。
……そのわりには水辺で人がどんどん食われるサメ映画が好きだし、海や川が嫌いなわけでもないんだよな。
本当は水の中が好きだからこそ、水泳部に所属し泳ぎの練習をしているのだ。
俺が言えることではないのかもしれないが、頑張れよ、我が妹。
「……アルはやるかしら? 釣り」
「……私は、釣りより、効率の良い手段、考える」
「釣りより効率の良い手段?」
「UNOの自由度なら、たぶん、あるはず。大物、バンバン取れる、裏ワザ、とか」
「あるかしら……? カネツグはどうするの?」
「俺もあんまり釣りには興味ないしな。武器の修理費とかで釣り竿を買う余裕もないし、やめとく」
「そう。……結局、釣りをやろうと思っているのは私だけなのね」
アカツキはちょっと不満げだった。
そう言われても本当にお金に余裕がないのだ、いつ壊れるかわからない四色刀の修理費のことを考えると。
ペスカもBDRで壊れた愛車の修理費が必要だし、アルは狙撃銃の弾代が馬鹿にならないと言っていた。
……あれ?
「そういえばアカツキ、お前もそんなにお金に余裕はないんじゃ……」
少し前、全財産を突っ込んで買ったバイクが一瞬でスクラップになって一文無しになっていたはず。
問われると、アカツキは得意げに笑う。
「最近になって身につけた、ちょっとした金策術があるのよ、私にも」
「金策?」
「ギャンブル」
「金策術って言っていいのかなぁそれ!? ……まあお金あるのならいいか。それじゃ、まずは釣具を買いに行こう。釣り竿がなければ釣りはできないしな」
「そうね。どこで買おうかしら……」
NPCの店で買うと値切ってもまあまあ高いしなあ。
値段のことを考えたとき、ふと俺の脳裏をよぎったのは、ここ西京の裏路地にあるプレイヤーショップの店名だ。
「……ぱらいそ、行ってみるか」




