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後の黒歴史。

 九鬼丸はてな。


 その名字を知った時は「かっけえ!」ってなったし、下の名前を知った時は「ユニーク!」と驚いたものだ。


 名前も個性的、外見も人より優れた九鬼丸さんは、学生として見てもかなり特殊な生活をしている。


 なんと彼女、大人気ファッション誌で読者モデルをやっており、界隈では結構な有名人らしいのだ。


 俺はあまりファッション関連に詳しくないのでピンと来ないのだが、彼女のサインを貰うためにこのクラスを訪れる生徒がいるほどなので、やっぱりすごい人なのだろう。


 モデルの仕事を優先して学校を休むことも多い彼女だが、今日はどうやら都合がついたらしい。



「いやー、昨日はちょっと夜遅くまで友達と遊んでいてさ、寝坊しそうになっちゃったよ」


「夜遊びはいかんぞ夜遊びは」


「あはは、そんなんじゃないよ。八坂くんはなんかしてたの? 昨日」


「ふっ、気になるのなら教えてやろう……」


「あ、そんなでもないから別にいいです」


「そんな」


「あはは」



 んもう! 顔の良い女の子にそんないい笑顔で会話されてたら勘違いしちゃうでしょ!


 九鬼丸さんの場合は誰にでもこんな感じなので、勘違いしてしまった男子生徒の数も偉いことになっていそうだ。


 と、ふいに天音があっと声を上げた。



「……しまった。スマホ、家に置きっぱなし。兼続、スマホを貸して貰えるかしら?」


「わかった。明日までには返して」


「1分で返すわよ……」



 天音は一日に何回か、家族と連絡を取るようにしている。


 天音の母親は大手お菓子メーカー”シノノメ製菓”の社長で、父親はその秘書だ。


 何かとお忙しいお二人は仕事で家に帰って来られない日も多く、なかなか天音の様子を見てやることができない。


 だから東雲さん一家は定期的に連絡を取り合って、お互い元気に過ごせているかを確認するのが毎日の日課。


 しかし今日の天音はスマホを忘れてしまったらしい。


 今から取りに戻るわけにも行かず、このままではいつもの朝の連絡ができない。


 ならば貸してやるのも友人の努めと、俺は黒いスマホのロックを解除して天音にパス。


 天音はそれを受け取ると、



「ありがとう、兼つ……!? ぷふっ!? ふ、ふふふふっ!」



 いきなり口元を抑えて笑い出しやがった。



「な、なんだよ人のスマホを見るやいなや!?」


「だ、だって、あなたこれ、待ち受け画面が、ふふふ! 無理! あはははは!」



 待ち受け画面?


 待ち受け画面がどうしたというのだ。


 そこに表示されているのはUNO内での俺――カネツグの姿で撮っためっちゃカッコいい自撮りスクショ画像だぞ?


 あまりのカッコよさに震え上がりはしても笑うところなんてないはず――!



「な、なにこのキメ顔! 変なポーズ! じ、自分のアバターの自撮りスクショを待ち受け画面にするって、あ、あは、あはははは!」


「変なポーズ!?」


「あ、あなたちょくちょくスマホの画面を見てにやけていることあるから! 何を見てるのかなっていつも思ってて! たぶん奈緒ちゃんの画像なんだなって思ってて! シスコン拗らせすぎって思ってたんだけど!」


「シスコン拗らせすぎ!?」


「まさかこんな、じ、自分のアバターって! あはははははははっ! ひ、ひぃ、お、お腹痛い……! 滅ぶ……滅んじゃう……!」



 あの真顔のクソバカこと東雲天音さんをそこまで爆笑させてしまうほどアカンかったんですか、俺のスマホの待ち受け画面。


 机に突っ伏し悶絶している天音を見ていたら、なんだかすごい恥ずかしい画像を見られたんじゃないかって気分になってきた。



「か、返して! スマホ返して! 待ち受け変更するから! 合計5GBある画像フォルダ内のアバター自撮りも削除するから!」


「ひ、ひー……そ、その前に連絡しちゃう、から、ちょっと待って……えーと、私のSNSアカウントでログインして、あれ、パスワードなんだったかしら。うふ、うひひ、無理、思い出し笑いが……!」



 こっちは一刻も早く画像を消去したいのに!


 俺の心の傷がさらに広がる前に!


 と、九鬼丸さんが天音の笑いっぷりを見て話に割り込んできた。



「そんなに面白いの? 八坂くんのスマホの待ち受け画面」


「み、見ます? ひ、ひひひひひ、お腹痛っ……」


「やめてぇぇぇぇぇぇ他の人に拡散しないでぇぇぇぇぇぇ!!」



 俺の懇願も虚しく、天音は九鬼丸さんにスマホの画面を見せてしまう。


 なんてことしやがると、俺は頭を抱えた。


 めっちゃ顔の良いクラスメイトの女の子にまで爆笑されたら立ち直れなくなりますよ俺?



「…………これ、カネつ……ッ!?」



 しかし、九鬼丸さんの反応は、俺の想定と違っていた。


 なんというか、変なリアクション。


 スマホの画面を見たまま笑顔を引きつらせ息を呑み、それから青い顔をしてだらだらと汗を流し始める。


 化粧がちょっぴり崩れ始めていた。


 体調でも悪いのかと心配になり、俺はフリーズしている彼女の肩をつんつんとつついた。



「……九鬼丸さん?」


「へっ!? あっ、はい、なんれしゅガッ痛ぁ――――!? 舌噛んだ――――!?」


「痛そう。……大丈夫か?」


「いつつ、だ、大丈夫だよ。あ、あはは」



 口ではそう言っているが、やっぱり様子がおかしい。


 天音も心配そうに彼女を見ている。



「私が変なモノを見せたせいかしら? ごめんなさい」


「変なモノ言うな!」


「あ、いや、画像自体はマジで笑えるヤツだったから大丈夫」


「笑えるヤツ言うな!」


「あはは、ちょっと別なこと考えちゃってさ。……八坂くん、下の名前ってなんだっけ?」


「半年くらい同じクラスにいるのに覚えてらっしゃらない!?」



 俺、影が薄いのだろうか……?


 まあ影の薄さはアサシンとしてはメリットと、無理やり自分を納得させておく。



「兼続だよ、八坂兼続。母さんの好きな戦国武将にあやかった名前だ」


「そ,そう、かねつぐ。……うん、ありがと」


「ほ、本当に大丈夫か?」



 彼女とは今年の4月に同じクラスになったばかりなので長い付き合いというわけでもないのだが、そんな俺から見ても今の九鬼丸さんは”らしくない”感じだった。


 スマイルを絶やさず、人懐っこく、みんなに愛嬌を振りまく人気者――そんな彼女が笑顔を忘れて取り乱している。



「……九鬼丸さん、体調が悪いのなら保健室に連れていきましょうか?」


「い、いや大丈夫! ありがとう! あ、でもちょっとお化粧が崩れちゃった! 直してくるね!」



 心配する天音の言葉にささっとお礼を言うと、九鬼丸さんは足早に教室を出ていった。


 ……俺の自撮りスクショ、そんなにヤバかったのだろうか……?

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