いじめられっこパーティにはばかる。
「話?」
「つまらない、自分語り。聞いてて、退屈だったら、寝ろ」
「おやすみ」
「……せめて、出だしくらい、聞けや」
「冗談です冗談ですクソデカい狙撃銃を頭に突きつけないで」
「まったく……」
アルは銃を収めると、輝く街灯の光をそのどんよりした右目に映しながら、ぽつぽつと語り始めた。
「リアルの、話、だけど。私、昔から、背が高かった。クラスの誰よりも、男子よりも、高身長。だから、いつも、デカ女って、からかわれていた。仲良くなった子にも、仲の悪かった相手にも」
え? きみ中身も女の子だったの? という感想は置いておくとして、身長か。
確かに、子供の頃は背の高さに敏感だった気がする。
背の小さい子は弱そうに見えてからかわれやすかったし、逆に背の高い子は強そうに見えて逆らいにくかった。
あくまでこれは男子の話だ。
小学生時代、クラスメイトの様子を見ていた感じでは、女子の場合は背が低いと可愛い、背が高いとすらっとしていて綺麗、みたいな感じで、どっちにしろポジティブに捉えられていた気がする。
ただ、あまりにも背が高すぎると、それは変な個性として受け取られ、馬鹿にされてしまうのだろう。
「すごく、ムカついた。ムカついたから、反撃した。攻撃力が低かったから、言葉で。めちゃくちゃに、罵倒してやった。相手が泣くまで。すごく、スッキリした。背のことを言われるたびに、相手を言葉で撃退してきた。ずっと、そうしていて、気づいたら、友達なんて、いなかった」
そりゃあ、泣くまで罵倒してくる相手と仲良くなろうなんて変人はいないだろう。
高身長というアルのコンプレックスに迂闊に触れた相手が悪いのだとしても、敵対的な態度を取られれば、そりゃあ人は離れていく。
「一人になって、すごく、落ち着いた。けれど……」
アルは顔をうつむかせる。
「少し、寂しくなった。ずっと、寂しかった。ずっと、誰かと、一緒に、遊びたかった。仮想世界でなら、そういう、みんなと仲良くできる、私になれるんじゃないかって、そう思って、ゲームを始めた」
「リアルとこっちでぜんぜんキャラが違う、って人もわりといるらしいしな」
「私も、そうなる、つもりだった。でも、ムリだった。染み付いたクセで、言葉が勝手に、悪意に、変換される。アバターを、小さくて可愛い姿に、したところで、中身は私のまま」
「文字チャットで会話する昔のオンラインゲームと違って、こっちは自分の言葉と身振り手振りで交流するわけだからな。そりゃ別人を演じきるのは難しいさ」
「そう。だから、こっちでも、私は、一人ぼっち。それが、虚しくなって、ゲームを、止めようと、思った。止める前に、どっかの適当なパーティに入って、引っ掻き回して、無茶苦茶にして、それから終わりにしようって。楽しそうな、陽キャラと、この世界に対する、嫌がらせ」
「ほんのり陰湿! っていうかその無茶苦茶にしてやるつもりで入ったパーティって……」
「そう、お前……ミス、あなたたちの、ところ」
「なんでよりにもよって!?」
「適当に掲示板を、見てたら、ちょうど、スナイパー募集、見かけたし」
「完全に偶然なんスね……」
「あと、カネツグって、なにかと、掲示板で、見かけた名前だった、から。有名人。やや、ムカついた。だから、標的にした。パーティに、潜り込むため、連絡をとって、あとは、ここまで、あなたも、知っての通り」
まさかそんな嫌がらせ目的だったとは。
……あれ、それにしては?
「それにしては、言うほど嫌がらせされてないような?」
「私の、口の悪さなら、いるだけで、嫌がらせになる、はずだった。けど、ここの連中、あんまり、気にしなかった」
「そりゃあ、初対面の時に”口が悪いのを治したいとは思っている”って言ってただろ? そう思っているのなら、根は悪いヤツじゃないんだろうってわかるからな」
口から悪意を吐いてしまうのが悪いことだと理解できていて、しかもそれを改善したいとも思っているのなら、それはもう良いヤツだと思う。
仲間に加えても良いと思えるくらいには。
毒舌キャラだから口が悪いのを許容しろ、とか言われていたら違った判断を下していただろう。
「……あれは、仲間になるための、方便というか、半分は、本音でも、あるけど」
「半分でも本音なんだろう? やっぱ根本が良いヤツなんだよ、お前」
「…………はじめてだ。良いヤツなんて、言われたの」
アルは、いまいちぎこちない、下手くそな笑顔を俺に向けて、唇を小さく動かした。
「……ありがとう」
「いま自然に感謝の言葉が出たな。改善されてるってことさ、口の悪さ」
いま俺ちょっとかっこいいこと言ったのでは?
と、アルは顔をうつむかせる。
「……よく、恥ずかしげもなく、そんなセリフを、吐けるな」
「うぇぇぇんペスカぁこの人がお兄ちゃんをいじめるよぉぉってしまった! いま俺しかいねえ! 泣きつけねえ!」
「妹に、逃げるな」
「妹を定期的に吸引しねえと死ぬんだよ兄貴という生物は!!」
「はよ死ね」
「本当に泣くぞ!?」
ちくしょうニヤニヤと笑いやがってこの白ガキめ……!
まあ辛そうな顔をされるよりはいいけど。
「少し、話が、逸れた。そう、ありがとうって、言っておきたかった。別れる前に」
「別れる?」
「えっ?」
「えっ?」
こっちが何を言ってるんだという顔をしたら、向こうも何を言ってるんだみたいな顔をする。
「……え? BDR、勝ったし」
「え? なんでそれが別れるとかそういう話に?」
「え? ……ちょっと待て、いま、整理、する。お前ら……あなたたちは、BDRに勝つために、スナイパーを、募集した。あって、いる?」
「うん」
「だから、BDRに勝ったら、私は、用済み。契約終了、さようなら。パーティを、抜ける。でしょ?」
「え!?」
「え!?」
「……パーティ、抜けるのか!? いや、それがいいなら止めはしないけどさ!」
「……私が、いても、いいの? 言った通り、元は、嫌がらせのため、仲間になったようなヤツ、だし、スナイパーとしては、役に立たない、し」
「俺は長期的に……最低でもR0の攻略が終わるくらいまで一緒に遊べる仲間を募集したつもりだったんだ。目的にあわせて仲間を集めたり追い出したりするの、なんか使い捨ててるみたいでイヤだし」
「普通のプレイヤーは、そうしてる、はず。目的にあわせて、パーティメンバーを、変える」
少し考えてみる。
確かに、物理攻撃の効きにくいアンデッドを狩るのに、物理攻撃しかできないメンバーでパーティを組んで行く、みたいなのは効率が悪い。
そういう時は魔法が使えるプレイヤーを募集してメンバーを交換した方がいいだろう。
アルの意見は、目からウロコというヤツだった。
「俺、ここ三年間はエニグマ以外と組むことなかったから、そういうのよくわかんなくって……」
「それ以前、は?」
「周りが重課金以上の万能戦士ばっかりだったから、パーティメンバーの構成とか考える必要なかったし……」
「環境が、極端すぎる」
当時は、アカツキをはじめとして相性の不利とか課金の力で覆す人ばっかりだったんです、パーティメンバー。
周りがどんな敵でも一人で相手できる一方で、カタナでの物理攻撃しかできなかったあの頃の俺の肩身の狭さ、わかっていただけるでしょうか?
……ともかく、このR0では課金アイテムが使えず万能戦士になるのが難しい。
パーティメンバーを頻繁に入れ替えるのも普通なワールドだ。
その事実に気付かされた上でも、俺はやっぱりアルに抜けてほしくないと思う。
「せっかく縁があって仲間になったんだ。残ってくれた方が、俺は嬉しい。無理にとは言わないけどさ。なんせ一億円を本気で取りに行ってるわけじゃないのんびりパーティだからな。その辺が目的ならご期待には添えませんってなるし」
「一億円自体は、そんなに興味ない。さっきも言った通り、本当は、もう、ゲーム自体、引退するつもり、だったし。だから、お金は、抜ける理由に、ならなくて」
アルはそこで言葉を切った。
目を逸らし、しばらく溜めてから、ぽつりと。
「……そこまで言うなら、もうちょっと、世話してやっても、良い。ありがたく、思え、イカスミ」
口の悪さの改善については、気長に付き合っていくとして。
俺はアルに手を差し出す。
「はいはい。これからもよろしくな、スナイパー」
「……うん」
アルはグローブに包まれた小さい手で、俺の手を握り返してくれた。
「ところで。一億円、興味ないとは、言ったけど、もし取れたら、取り分は、要求する」
「しっかりしてる!?」




