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勝利の栄光を俺たちに!

「どうなったレース結果!?」



 ナイトベールのリスポーン地点――巨大なサイコロを頭上に掲げたギャンブルの女神像前で復活した俺は、ちょうど近くに居たアカツキにレース結果を聞く。


 彼女は街頭モニターを顎で差し、



「勝ったわよ、ペスカちゃん」



 と、ちょっとうわずった声で結果だけを簡潔に伝えてきた。


 見れば、街頭モニターには壁に突っ込んで爆発炎上中のスクアロJ9が――、



「いや勝ったのアレ!? 事故現場の中継映像にしか見えないんだけど!?」


「ゴールしたけどそのまま壁に突っ込んじゃったのよ。間違いなくHP0ね。けど運転手が生存中にゴールしたからセーフ」


「ウィニングランどころじゃないな……」



 なんて締まらない結末だ……。


 いや、勝ったのなら良いんだけど、なんて話をしていたら、ちょうどペスカもリスポーン地点で復活してきた。


 彼女は俺の姿を見つけるやいなや、こっちの胸に飛び込んでくる。



「オメガいってぇぇぇ! ラストめっちゃ事故ったぁ! けど勝ったよツグ兄! がしっ!」


「がしっ! よっしゃあああ! 偉いぞなお……じゃなくてペスカ! さすがは俺の妹! よーしよしよしよし!」


「ふへへどうよすごいっしょって首の下を撫でられてもウチは懐柔されなおぉうおぉぉぉぉこれ思ったより気持ちひぃぃくせになるぅぅぅぅ」


「猫なの……?」



 一歩を引いたところで兄妹のふれあいを眺めているアカツキ。


 ……クールぶってるが、UNOの感情表現機能は彼女の感動をしっかりと読み取り、アバターの瞳をわずかに潤ませている。


 本当は大喜びしたいところを、自らのキャラじゃないと必死に押さえつけているのだろう。


 んもう、素直じゃないんだから。


 一方で、めっちゃ素直なヤツが駆け寄ってきた。



「かねつぐぅ! ぺすかちゃーん!」



 感動の涙を流す顔の絵文字をモニターに表示したエニグマが、両手を広げてタックルみたいな勢いで俺たち兄妹に抱きついてくる。



「ぐぇ!?」


「ぐぇ!?」



 俺とペスカはラリアットを食らったみたいになり、HPにほんのりダメージを受けた。



「やったよ勝ったよマジですごいよ! えらい! 超えらい! ボク、みんなのこと大好き!」


「わかったから離せ首がしまってるしまってる」


「ぐぇぇぇぇー……」



 俺とペスカのHPがじわじわ削られていくが、また死亡する前に解放してもらえた。



「げほっ、げほっ。……ああ、なんとか勝てたぜ。お前の作戦勝ちでもある」


「あはは、ボクは大したことやってないよ。みんなの頑張りのおかげさ」


「……そう、私も頑張った、ので、褒めろ、お前ら」



 この場に最後の仲間、アルファルドも加わった。


 ……あれ?



「アル、いままでどこにいたんだ? アカツキが最初に死んで、次にアルが死んで、その後に俺が死んだわけだから……、順番的に俺より先にここで復活してたはずだよな?」



 いまリスポーン地点とは逆方向から歩いてきたような。


 そういえばとアカツキが続く。



「……アルが復活するところ、見てないわ。ずっとリスポーン地点にいたんだけど」


「……? 私、別に、くたばって、ない」



 アルが可愛らしく小首を傾げた。


 ……話が噛み合ってないような?



「アル、外野狩りに襲われたんだよな? それでエニグマに最期のメッセージを送ってから通話を切って……」


「襲われは、した。だから、通話を切った後、一心不乱に土下座して、命乞い。そして、見逃して、もらった」


「えっ」



 アルはこの場にいない外野狩りたちを小馬鹿にするような笑みを浮かべる。



「へっ、あまちゃんども、が。可愛い外見にしておくと、こういう時に、便利。ちっちゃい女の子に、命乞いされたら、良心の呵責に耐えられず、見逃さざるをえない」


「悪質」


「ねえ、ボクさ、キミが通信を切った後、雰囲気で泣きそうになってたんだけど?」


「……涙腺、鍛えてこい、ブラウン管」


「ブラウン管!?」


「……ミス。心配してくれて、ありがとう、エニグマ」


「ひっぱたいてもいいかな!?」



 アルはキャーっとわざとらしい悲鳴を上げながら、てってこ逃げていく。


 なんというか、図太いというか、ある意味では頼りになるというか。


 死んでなくてよかった、とだけ思っておこう。


 そんなこんなで五人でわいわい話していたら、慌てた様子のNPCが話しかけてきた。



「あ、いたいた! ペスカさん! 市長がお待ちです! ついてきてください!」


「ふえ? 市長がウチに何の御用?」


「何って、優勝賞品の授与ですよ。それとも辞退しますか?」


「あ、そっか、証。ツグ兄、ちょっと行ってくるわ!」


「おう、いってら」



 NPCに連れられ、ペスカはセントラルタワーの方へと向かった。


 残された俺たちはとりあえず場所を移そうとしたのだが、その直前、アカツキがあっと声を上げた。



「明日! 学校の登校日!」


「登校日……? あっ」



 現在、俺たちの通う高校は夏休みの真っ最中。


 しかし夏休みには登校日というものがある。


 休みの期間の間に挟まれる、学校に登校しなければならない日のことだ。


 それが明日。


 すっかり忘れていた。



「は、早めにログアウトして寝る準備しないとな……」


「そうね、遅刻したくはないし……」


「それなら今日は解散にする? お祝いは後日ってことにしてさ。……っていうかそうだ、ボクの学校も登校日じゃん明日」


「マジかよ。仕方ない、今日はここまでだな。もうちょっと勝利の喜びに浸っていたいんだがなぁ……」



 せっかく勝ったのにこんな形で解散とは。


 つくづく締まらない。



「あいあい。じゃ、ボクは落ちるよ。ペスカちゃんによろしくねー」


「私も先にログアウトするわ。また明日ね、カネツグ、アル」


「おう、またなー」



 エニグマとアカツキの姿が消えた。


 後には俺とアルだけが残される。



「……イカ、じゃなくて、カネツグ。ログアウト、しないの?」


「またイカスミ言おうとしたでしょ!? ……俺はペスカを待ってやらないとな、兄として。アルはこの後、どうするんだ?」


「私は、もうしばらく、ゲーム内にいる」


「そっか」



 ……会話が途切れた。


 沈黙が続く。


 ちょっぴり気まずい。


 な、なんか話題を。



「……カネツグ」


「うん?」


「少し、話、聞いてほしい」

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