サメ女特攻伝説。
遥か彼方を走っていた将軍さまが、いきなりレースから離脱した。
ツグ兄がうまいことやったのだろう。
これで障害は排除された。
あとはウチの実力が全て。
……プレッシャーがすごいよぉ。
胃が痛いよぉ。
ハンドルを握る手が緩みそうになるも、
「――ふふふふふ! どうやら優勝はわたくしたちのどちらかになりそうですわねぇ!」
漫画みたいなお嬢様口調が聞こえてきた。
ちらりと視線を横に向ければ、ルカの野郎がウチと並走している。
「シンノスケがリタイアした今! このレースにおいて最もゴールに近いのはわたくしたち二人! すなわち勝つのはわたくしかあなた!」
そう、今のウチたちは生き残っている他の選手をぶっちぎって、暫定1位アンド2位。
これから後ろのマシンが追いついてくることもないだろう。
だから勝つのはウチか、隣のぐるぐる金髪女。
……負ける?
ウチが?
このロールケーキの擬人化に?
冗談。
「優勝争いだぁ? ないない! 勝つのはウチに決まってるの!」
「減らず口を! くだらないおしゃべりが過ぎました! そろそろ本気で参りましょう、デルフィン!」
ルカが愛車・デルフィン47を加速させた。
エンジンパーツの耐久値がゴリゴリ削れてそうな速度だ。
レース中、最初っからあのスピードで走っていたら、あっという間にマシンがぶっ壊れているだろう。
ラストスパート。
腹立たしいことに、ウチのスクアロJ9とアイツのデルフィン47はデザインから設計までやたらと似通っている。
最後の直線でライバルをぶっちぎるための、エンジン破損上等リミ解最終加速モードを積んでるところまでおんなじだ。
だからあのバカみたいな加速にも、ウチのスクアロJ9ならついていける。
「――やるよスクアロ! ちょっと痛いけど我慢してね!」
リミッター解除、最高最速で突っ走れ!
スクアロが、前を走るロールケーキ女のマシンに食いつこうと、限界を超えて加速した!
景色が後方へどんどんすっ飛んでいく。
もう周りなんか見えやしない。
同じ世界にいるのは、もはやルカの野郎とその愛車だけ。
スピードは同等。
しかし、最終加速をかけるタイミングが一歩早かった分、あっちはウチより少しだけ先を走っている。
ここからゴールまでの距離は?
エンジンパーツの耐久がなくなるまであと何秒?
『BDRもとうとうクライマックス! 先頭を走るのは青いライディングビークル・デルフィン47! それを追うのも青いライディングビークル・スクアロJ9! 他の選手はまとめて置き去り! 優勝はこの青い奴らのどちらかか! 今日こそ完走者が現れるのかァ!』
ああもう、うるさいな実況!
こっちは集中してんのに!
……そしてヤバい、ルカのバイクのエンジンは、恐らくゴールまで持つだろう。
だからもうゴールまで減速することはない。
今はお互い最高速度で走っている。
スピードが同じでは、二台の距離が縮まることはない。
このままではルカを抜かせない。
このままだとウチの負け――いや、ウチらの負け。
……みんなで色々と頑張ったのにさ。
負けたくないなぁ。
負けたくないよ。
だから、しょうがない。
奥の手のさらに奥、最終手段を使うとしよう。
ごめんね、と、心の中で愛車に謝って。
「……聞こえているかわかんないけど、ルカさぁ、魔法系スキルには手を出してるかい?」
「なにかおっしゃいましたかしら!?」
「あ、聞こえてた。じゃ、言っておくよ。アンタにこれ以上の手がないのなら、やっぱこの勝負はウチの勝ち!」
左手をハンドルから離す。
片手運転になり少しだけスクアロの進路が乱れたが、すぐに修正。
「よし、っと。そんじゃ行きますか、スキル発動、ライトニング・アクセル!」
その言葉で、ウチは魔法を起動させる。
左手がビリビリと帯電し始めた。
握手をしたら相手を感電死させてしまいそうだ。
雷の力をたっぷりと充電したその左手で、ウチは再びハンドルを握る。
次の瞬間、紫電がマシン全体を駆け巡った。
その雷がエンジン出力を強制的にブーストさせる。
スクアロJ9が、無茶苦茶に加速した。
「じゃあね、河豚さん!」
「んなッ!?」
驚愕しているルカを置いてけぼりにし、ウチらはコースを一直線に駆け抜ける。
『なんとなんとなんとぉ!? ここに来てスクアロJ9が再加速! とんでもねえスピード! デルフィン47がどんどん置いていかれているゥー!』
ライトニング・アクセルは、メカ系のビークルやミニオンなんかに雷の力を充填し、その性能を飛躍的に上昇させる魔法系スキルだ。
無理矢理に性能を引き出すせいでマシンへの負荷が大きく、対象の耐久値が恐ろしい勢いでゴリゴリ削れていくという諸刃の剣。
これを使ったあとのマシンは間違いなく走行不能な状態にまでぶっ壊れてしまうので、普段は使わないマジモンの奥の手。
でも今日くらいはいいさ。
みんなで頑張って勝とうとしてるんだ、ウチが出し渋ったせいで負けるなんてイヤ。
で、いざ本当の最高最速で走ると、なかなかスッキリする。
頬を切り裂くような暴風すらも心地よい。
最高の気分だ。
その最高の気分のまま、ウチらは獲物に食らいつこうとするサメのように、一気にゴールへと迫っていき――、
『そのまま――ゴォォォォォォォォル! 完走! 優勝! したのは! なんとBDR初参加の青いサメ・スクアロォ、ジェェェェェェナァァァイィィンッ!』
マジでうるさいなこの実況!?
あ、っていうかやば、ブレーキパーツが壊れてる、止まらない。
ハンドルも曲がらないし。
この速度で壁に激突したら死――――




