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たまにいるんですよバグを疑うほどに強いプレイヤー。

 ボクの手にするEタブレットに、信じ難い映像が映し出されていた。


 金色の騎士が、地面に倒れ伏している。



「カネツグ、アカツキさんが撃破された」


『こっちも中継映像で確認した! 信じられんぜまったく! どうする、エニグマ!?』



 慌てるカネツグの声を聞いて、逆に冷静になった。


 ボクがしっかりしないと。


 頑張れ、ボク。


 アカツキさんは決して弱くない。


 STR特化の大雑把な性能でゴリ押しする場合がほとんどなので目立たないが、彼女のプレイヤースキルは意外と高いのだ。


 ステータス的には鈍重なはずのアバターを巧みに操り、扱いにくい大剣の一撃を確実に命中させる技量、加えて半端な攻撃は見切って受け流す反射神経も兼ね備えている。


 カネツグと相打ちになるほどの実力は伊達じゃない。


 だから、彼女を倒した相手が――あの将軍が強すぎるのだ。


 さすがはUNO最上位クラスの有名プレイヤー。


 正直、侮っていた。


 けれどまだ手はある。


 ボクは通信機でアルに指示を出す。



「アル! あの将軍をどうにか撃ち抜いて欲しい! あの実力はペスカちゃんの障害になる!」


『任せろ。……ミス、任せて、ください。と言っても、対人狙撃だから、当たるかわからない、けど』



 彼女の射撃精度の悪さは知っている。


 だが、彼女のいる位置からなら、あの将軍が見えなくなるまでに五回は狙撃を敢行できる。


 数撃ちゃ当たると考えて、狙撃チャンスの多くなる場所を狙撃地点として指定したのだ。


 だから、なんとしても当ててもらわねば。


 ボクの願いが届いたのか、通信機から発砲音が聞こえた後、白馬の上で将軍が上半身を傾がせる姿がEタブレットに映し出された。



「あたった!? 一発で!?」


『……当たった。自分でも、驚いている。けど』



 歯切れの悪いアルの言葉。


 将軍は上半身を傾がせた。


 しかしすぐさま体勢を整え、元通り愛馬を走らせ続ける。



『あいつ、私の狙撃、切り払い、やがった。くそが』


「切り払ったって……狙撃だよ!?」



 弾丸を近接武器で切り払う技術はカネツグも習得しているが、それを成功させるには敵の姿が見えていることが絶対条件だという。


 敵の銃口の向きが見えなければ弾丸の軌道を予想できず、敵が引き金を引く瞬間を見なければ武器を振るうべきタイミングを測れない。


 見えない敵からの射撃――長距離からの狙撃に対応するなんて、それこそ超能力じみた直感を有していない限り不可能と、カネツグは言っていた。


 ……ああもう、そんなエスパー相手にどうしろと!?


 作戦なんて常識的な戦力の相手にしか通じないんだよ!?


 頭が痛くなってくる。


 悪いことは重なるもの。


 突如、アルの悲鳴が耳に刺さった。



『うあっ!? 痛ぅ……!』


「どうしたの、アル!?」


『……敵に、襲われた。数は三人、多勢に、無勢』


「外野狩りか! こんな時に……!」



 BDRを走るに当たり、外野からの攻撃は最大の脅威だ。


 だから、選手を攻撃しようとする外野を攻撃し、その脅威を排除しようと動くプレイヤーも存在している。


 私だってゴール地点の外野を排除しようと、強力な8体のミニオンをそちらに差し向けていたりするし。


 そういう外野狩りに、アルが補足されてしまったらしい。


 彼女は狙撃銃以外の武器を所持しておらず、接近戦には対応できない。


 今からドロイドやカネツグを救出に向かわせても間に合うわけがなく――、



『……エニグマ、あの侍、私じゃ、倒せない。後は任せた』



 それだけ言い残すと、アルは通話を一方的に終了させた。



「アル? アル!? ああ、もうっ! どうしよう……! アカツキさんとアルが退場、ドロイドパーツの在庫が尽きて私もミニオンを召喚不能……!」



 ペスカちゃんはレースに集中している、残る戦力はカネツグのみ。


 カネツグの実力ならばあの侍を倒せるかも。


 いや、無理だ。


 徒歩のカネツグでは、あの白馬のスピードに追いつけない。


 カネツグは射撃武器を持っておらず、接近できなければ攻撃不能。



「カネツグでもあいつは止められない……!」



 絶望が言葉となって口から出た。


 すると、通信機越しにそのセリフを聞いたカネツグが、不敵に笑う。



『フッ。おいおいエニグマ、フレンドを信じろよ』


「……えっ?」


『あの将軍を止めればいいんだろ? 任せろ、策ならある』


「さ、策って、どうやって……!?」


『難しいことじゃない。あの人が美学を優先するプレイヤーならな。将軍は俺が止める。そっちに集中するから他の仕事を頼まれても動けない。だから……』



 と、ペスカちゃんが通信に割り込んできた。



『話はまるっと聞いてたよ! ツキ姉もアルっちも戦闘不能、グマさんもミニオン出せず、ツグ兄は将軍さまとブシドーバトル! となると、もう誰もウチを援護できない、でしょ?』


『そ、そうだね。そうなっちゃう……』



 そう、ここでカネツグを動かせば、いざという時にペスカちゃんを援護する手がなくなる。


 彼女の実力に全てを委ねなければならない。


 ……ここで判断を間違えたら負けてしまう。


 どうする?


 どうすれば、



『――大丈夫! グマさんの作戦とみんなの頑張りでここまでお膳立てして貰ったんだ! あとはウチの実力で優勝しちゃるよ! 心配すんなグマさん! ついでにツグ兄!』


『ついで!?』


「ペスカちゃん……」



 ボクを勇気づけるよう、彼女ははつらつとした声で勝ってみせると豪語した。


 ……それならば。



『……そういうわけで、エニグマ。あとはお前の指示待ちだ。どうする? 俺に将軍の相手を――』


「――任せる! 任せるよ、マイフレンド!」



 ボクは友人と、その妹に全てを託す。


 兄妹は、仲良く私の声に応えた。



『オーケー任せなエニグマ! 大政奉還させたるわ! グッバイ江戸こんにちわ明治! なお成功率5割なのであんまり期待しないでね』


「思ったより成功率が低い!? いまさらそれ言う!?」


『ウチも最高最速でぶっちぎる準備は万全だぜグマさん! 勝率5割くらいと思ってあんまり期待せず見守っていてね』


「さっきの自信はどこへ!?」


『あ、あんだけ言ってもし失敗したら情けなさすぎるので予防線だけ張らせて』


『ツグ兄に同じ。そういうわけであとはなるようになるさ通信終わり!』


『終わり!』



 二人からの通信が途切れた。


 ……ちょっぴり不安にはなったけれど、きっと大丈夫だ。


 カネツグたちが自分の力を信じきれないのなら、代わりにボクが信じよう。



「……頑張ってね、二人とも」

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