クソエイムだよ! エニグマさん。
ファンタジーからサイバーパンクまでなんでもありのUNOだが、その世界観の根幹はSFである。
時代は人類が宇宙を行き来するような遥かな未来、プレイヤーは星々を自由に巡って旅をする者の一人で、UNOに存在する多様な世界観のワールドは文明の違う別の惑星という設定。
なので、中世ファンタジー系のゲームで船を使って海を渡り別の大陸へと移動するように、UNOでは宇宙船を使って惑星間――もとい、ワールド間を移動する。
この移動に使われる宇宙船は、内部に広大な居住空間を備える大型船だ。
プレイヤーはその居住空間を自由に出歩けるようになっており、ワールド移動の最中に船内の店舗でショッピングを楽しんだり、娯楽施設でミニゲームを遊んだりすることができる。
そんなわけで、中世ファンタジー風世界観の惑星”レグルス”から、件の新実装惑星”R0”へと向かっている最中の俺とエニグマは、時間を潰すために宇宙船内のゲームセンターに来ていた。
遊んでいるのはハンドガン型のコントローラーで画面の向こうのゾンビを撃つという、現実のゲームセンターにもあるようなガンシューティングゲーム。
ゲーム内通貨”シェル”を筐体に200ポイント投入し、二人協力プレイで遊んでいるのだが、
「ギャー!? ぜんぜん当たらないー!?」
「相変わらずのクソエイムだな!?」
エニグマがコントローラーの引き金をガチャガチャと引いても敵にまったくと言っていいほど当たらず、出現する敵の99%は代わりに俺が撃破している状態だ。
我がフレンド、モニターフェイスのエニグマさんだが、射撃を含む戦闘系のプレイヤースキルに関しては悲惨極まるザコっぷりである。
剣を振ってもあたらない、銃を撃ってもあたらない、大振りな攻撃も回避できない、たまに転ぶ、などなど、ゲーム内運動神経ゼロ。
戦闘メインの一般的FDVRMMOなら引退を勧められるレベル。
そのセンスの無さは、ガンシューティングのミニゲームでも余すことなく発揮されている。
しかしここは世界一やれることの多いFDVRMMOことUNO、直接戦闘が下手くそなエニグマは、それをカバーする戦い方を身に着けた。
「ええいこうなったら……スキル発動! ゲーマー・ドロイド・アセンブル!」
エニグマはコントローラーを宙に放り投げると同時、言葉で自らのスキルを発動させる。
その背後で電光が瞬いた。
渦巻く電流のエフェクトから、一体のメカが飛び出してくる。
ボロボロのキャップを被り、薄汚れたキャラ物のTシャツを羽織り、穴の空いたリュックを背負う、人型メカ。
ドロイド系のNPC。
「オーダー! ゲーマー・ドロイド・ワタナベ三世! ボクの代わりにこのゲームを攻略して!」
出現したメカ――ゲーマー・ドロイド・ワタナベ三世は、落下してきたコントローラーを軽やかにキャッチ。
軍人のように堂に入った構えですぐさま画面に銃口を向けると、猛スピードで画面内の敵を撃ち殺し始めた。
そのゲームの腕はエニグマとは比べ物にならない。
さすがは用途特化型ミニオン。
UNOにはミニオンと呼ばれるタイプのNPCが存在する。
プレイヤーが召喚し使役するNPCの総称で、他のゲームで言うところの”召喚獣”と言えばわかりやすいだろうか。
エニグマの戦い方は、このミニオンを指揮して自分の代わりに戦わせるという”ストラテジスト”のスタイルである。
俺のナビゲーター役をやっているのもこの戦い方の応用だ。
ミニオンの代わりに俺に指示を出す、みたいな。
さて、そのミニオンだが、戦闘用以外にも様々なタイプが存在している。
偵察カメラとして機能するもの、フィールドでの採取を手伝ってくれるもの、釣りをして海からアイテムを取ってきてくれるもの、プレイヤーの代わりにショップの店番をしてくれるもの。
ゲーマー・ドロイド・ワタナベ三世は、ゲーム内ゲームセンターなどに置いてあるミニゲームをプレイヤーの代わりに攻略してくれる力を持ったミニオンである。
ミニゲームでハイスコアを記録すると貰える限定アイテムが欲しい時なんかに役立つ。
なお戦闘力は皆無であり、UNO内最弱の敵キャラとタイマンをして普通に負けるくらいのザコ。
つまりミニゲーム攻略にしか役に立たない、わりと微妙なミニオン。
そのくせこいつを召喚するには、”オメガリアクター”というレアアイテムをコストとして消費しなければならない。
性能に対し召喚条件が厳しすぎる。
「こんなどうでもいいところでオメガリアクター消費するんじゃありません!」
「いいのいいの! カネツグのおかげで売れるくらいにオメガリアクター持ってるし! さあさ、やったれワタナベ三世!」
まあ本人が良いなら別にいいのだが、どうせオメガリアクターを使うなら真面目なボス戦中にギガンテック・フォートレス・ドロイドあたりを召喚してくれた方がうれしいです。
ともかく、やたらゲームのうまいミニオンの協力もあって、暇つぶしのミニゲームでなんとハイスコアを叩き出すことができた。
ラスボスを倒し終え画面にゲームオーバーの文字が表示されると、ワタナベ三世は寂しそうに手を振りながら光の粒子となり消えていく。
「ありがとうワタナベ三世、おかげでハイスコア報酬のアイテムを貰えたよ……」
「なに貰ったの?」
「ゾンビの腐った眼球キーホルダー!」
「いらない」
「アイテムとしての効果なし!」
「いらない」
「キーホルダー収集クエで要求されるだけ! コンプ目指してる人には良い値で売れると聞いたことがある!」
「あ、ちょっといる」
「あげる」
「わーい。うわキモっ!? なんかヌメッとしてるし!?」
ギャーギャー騒ぎながら、エニグマはなんかキモいキーホルダーをインベントリに収納した。
……レアアイテムを消費して入手したのがなんかキモいキーホルダーか。不等価交換。
と、
『ご乗船中の皆様にお知らせします。本船は間もなく惑星R0に到着いたします』
そんなアナウンスが流れる。
いよいよ、噂の新ワールドだ。
TIPS:クソエイム
エイム(AIM)とは「狙いをつける」という意味、クソエイムとは「狙いをつけるのがヘタクソ」という意味である。
射撃戦がメインのFPSなどでは致命的な弱点となるだろう。
改善するためには練習あるのみ。
エニグマみたいな実力の人も諦めずに頑張って!