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赤いので三倍はやく死ぬ。

『謎の爆発により三つのルートが消えた今! なんと優勝争いは大回りルートを走る選手たちで争われることに! なんてこったぁ! ……っと、ここでBDR主催者にしてナイトベール市長、フォルトナ・D・クイーンからのメッセージが届きました。コースを破壊するのはさすがに反則ではないか、とのお問い合わせを頂いておりますが、コースを破壊してはいけないというルールはないので問題ありません。火薬と犠牲者は多ければ多いほど良い。レース続行。とのことです』



 コースが破壊されたという情報を実況から得て、今日の僕は幸運だと、運命の女神にキスしたくなった。


 僕は愛車の赤きスポーツカー”Rスター”と共に、このBDRには何度も参加している。


 スピードや運転技術では誰にも負けないつもりだ。


 しかしこのレースは、速さだけで勝てるものではなかった。


 ある時は狙撃によってタイヤがパンクし、リタイア。


 ある時は他の車両の事故により道が塞がれ、リタイア。


 ある時は忌々しい緑の戦車に主砲で撃たれ、リタイア。


 攻撃的な妨害行為も許容されるBDRにおいては、単なる”レーサー”では完走すら不可能だった。


 だから今回は”賭け”に出ることにしたんだ。


 他のルートと比べ、あまりにもゴールまでの距離が長いことから、その道を通れば優勝は不可能とまで言われる大回りルート。


 最速を目指すまともなレーサーならば絶対に選ばないであろう道を、今日の僕はあえて選んだ。


 他ルートの選手が熾烈な争いで全滅する、という可能性に賭けてのルート選択。


 そう、今日の僕はギャンブラーなのだ。


 そして、コースそのものが破壊されるという想像以上のイレギュラーにより、他ルートを選んだ選手たちは優勝争いから脱落した。


 僕は賭けに勝ったのだ。


 ここからは、レーサーとしての勝負。


 同じルートを走るライバルたちの誰よりも早く、僕は最速でゴールし、優勝を手にしてみせる――!


 ハンドルを握る手に力を込め、アクセルを思い切り踏み込んだ。


 Rスターはそのエンジンを雄々しく轟かせ加速。


 僕をゴールに連れて行こうと、コースを駆ける赤き星となる。


 チラリとバックミラーを見れば、後続車両はどんどん小さくなっていく。


 誰も僕たちには追いつけない。


 そうだ、純粋なレースなら、



「――僕たちは無敵だ! そうだろう、Rスター!」



 エンジン音が、僕の言葉に応えた気がした。


 妨害もなく絶好調で駆け抜ける。


 と、道の先に何かがあることに気づいた。


 金色の障害物――いや、人?


 プレイヤーアバターだ、金色の鎧に金の髪、両手で大剣を構える少女。


 その大剣と金色が、いつだか聞いた名前を僕に連想させた。


 確か、フォーハンド、だったか。


 廃課金によるアバター性能と力押しの戦術でゴリ押ししてくる、お手本のような脳筋プレイヤーらしい。


 戦闘系コンテンツはあまり触っていないので、そっち系のプレイヤーに関しては詳しくない。


 彼女がそのフォーハンドなのかはわからないが、コース上に立ち塞がる金色の騎士は、間違いなくこちらに敵意を向けている。


 妨害を目的とした外野。


 レースを――僕の走りを邪魔する存在。


 ならば容赦はしない、と、言いたいところだが、Rスターで人を轢くのは僕の主義に反する。


 あと女の子には優しくしろというのが我が家の家訓だ。


 幸い、彼女が一人で封鎖できるほど道幅は狭くない。


 ハンドル操作で進路を調整。


 金色の騎士の隣を一瞬で通り抜けるべく、さらにアクセルを踏み込む。


 一方で、彼女は大剣を構えた。


 ずいぶんと巨大な剣だ、それを手にする彼女の身の丈ほどもある。


 だが、近接武器で何をしようというのだ。


 高速で走るマシンを攻撃するならば、射撃武器が基本。


 自分より重量と速度のある相手に斬りかかるなど自殺行為だ。


 STRに全振りしたアバターの筋力を最大限活用し、向かってくるマシンに臆することなく最高のタイミングで武器を振り、相手の速度すらも利用しての一撃を叩き込めれば、あるいは?


 ……そんな芸当、狂人みたいなプレイヤーでもない限り不可能だろう。


 今日の僕は幸運である。


 いま、この場面で、よりにもよって、剣で車を両断するような敵が目の前に立ち塞がる、なんて最悪の事態に遭遇するわけがない。


 だから僕は安心してハンドルを握っている。


 金色の騎士との距離が近づいて来た。


 すれ違うのは一瞬だ。


 その一瞬に、彼女は大剣を横薙ぎに振るう。


 腹部に熱いものを感じた。


 Rスターの様子がおかしい。


 ハンドルで制御できない。


 エンジンが異音を発している。



「嘘だろう……?」



 僕が何が起きたのかを察したのは、高架道路の防音壁に突っ込むまさにその瞬間だ。


 彼女、大剣で僕ごとRスターをぶった切りやがった。


 なんというプレイヤースキル。


 どれだけ練習したのだろう?


 そして、なんという筋力。


 どれだけSTRに振っているんだ。


 とんでもない相手と遭遇してしまった。


 もはや苦笑いするしかない。


 今日の僕は幸運だったはずなんだけどなぁ……。

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