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ザ・爆弾魔。

 エニグマの作戦に従い、走行中のマシンに飛び乗り運転手を暗殺していくというなかなかに無茶な行為を実践していたわたくし、カネツグさん。


 20台ほどリタイアさせたところで、エニグマから連絡が来た。



『カネツグ、ご苦労さま! 作戦をそろそろ次の段階に進めるよ!』


「ぜー、ぜー、りょ、了解……!」



 俺の役目はレース開始直後に攻撃型マシンをできる限り多くリタイアさせ、ペスカが流れ弾を食らってリタイアしてしまうリスクを減らすこと。


 序盤を乗り切ればルート分岐でマシンは分散していき、そうなればペスカが撃たれる可能性は一気に下がるはず。


 だから俺の役目は終了、以降は想定外の事態に備えつつ、自由行動だ。


 ……とりあえずちょっと休みたい。


 俺は高架道路から付近のビルの非常階段へと飛び移り、手すりや隣のビルの窓枠を足場代わりに連続ジャンプ、一気に屋上へ。


 ふと下を見れば、レースの先頭集団からだいぶ遅れて後方を走るペスカートの姿がちらりと見えた。


 予定通り。


 あいつはこの後に分岐するルートのうち、もっとも遠回りな道を選ぶ。


 走りやすいというメリットはあるが、四つあるルートの中でずば抜けて遠回りというデメリットのせいで走る者が少ない道。


 そう、”四つあるルートの”中では遠回りなだけだ。


 エニグマは、その前提を覆すつもりでいる。


 ま、そっちの作戦は俺ではなく、エニグマの使役するドロイドの担当だが。


 一息ついた後、俺はビルの屋上を飛び移っていくルートでゆるゆるとレースを追っていく。


 レースを盛り上げるための実況の声が聞こえてくる。



『もっとも脱落者の多い地獄の序盤戦が終了! 続いて悩めるルート分岐のお時間だ! ゴールに至るまでの四つのルート! どれを選ぶかで運命が決まるぜッ!』



 街頭モニターに流れるレースの中継映像を確認。


 先頭の方を走っていたマシンは、エニグマがA、B、Cと呼んでいたルートを選ぶ。


 想定通り……あれ?



『おおっと今日はどうしたどうなっている!? いつもは無人の道と化す南の大回りルートだが、今日はやけにそっちを選ぶマシンが多いぞ!?』



 エニグマの想定では、南の大回りルート――Dルートを選ぶのは、ペスカを含めても数台程度のはずだった。


 しかし今日はそのDルートへ行くマシンがやたらと多い。


 しかも真っ先にDルートを選んだのは、優勝候補の赤いマシン”Rスター”だ。


 俺は慌ててエニグマと通信する。



「エニグマ、思ったよりDルートを行くヤツが多いんだが」


『……うーん、Rスターの気まぐれにやられたね。優勝候補と同じルートを通れば良いと考えるプレイヤーはわりと多いはず。彼らがRスターと一緒に丸ごとDルートに入ったんだ』


「ヤバいか?」


『予想外ではあるけど、対処できるよう準備してあるよ。安心して。それよりも、そろそろ派手に花火があがる頃だよ』


「おっと、邪魔しちゃ悪いな。通信終わり!」


『あいあい』



 エニグマは特に慌てていない様子。


 あいつが大丈夫というのなら、問題ないだろう。



『優勝候補のRスターまでもが大回りルートを選ぶという波乱の展開! いくら最速のマシンでもあの道を通って優勝は難しい! 優勝争いは他のルートを行く選手たちに絞られたか!?』



 実況のセリフに、俺は心の中で答えておく。


 その道、なくなりますよ。


 次の瞬間、爆発音が鳴り響いた。


 それも三連続。


 極夜の街を震わせる轟音と衝撃。


 あちこちで建造物の窓ガラスが割れていく。


 街中の人々が悲鳴をあげる。


 何が起きたのか、誰もが理解できずにいるであろう中、実況が慌てた様子で叫ぶ。



『な、ななななんだァいまの爆発音!? 街中から火の手があがっているぞ!?』



 街中という表現はあまり適切ではないだろう。


 火の手があがっているのはたった三箇所だ。



『っと、煙が少しずつ晴れて……ッ!? こ、これは!?』



 中継映像に、コースの状況が映し出される。



『道がなくなっているゥッ!?』



 高架道路が破壊され、道が寸断されていた。


 それも三箇所。


 エニグマがそれぞれAルート、Bルート、Cルートと呼んでいた道が、なくなっている。


 作戦通り。


 Dルートは、四つのルートの中でもっとも遠回りな道である。


 しかし他の三つの道がなくなれば、Dルートが繰り上げで最短ルートだ。


 なので、Dルート以外の道を爆破した。


 UNOではほとんどのオブジェクトが破壊可能となっている。


 それはBDRのコースたる高架道路も例外ではない。


 無論、街の建造物などは頑丈に作られており、破壊にはかなりの火力が必要となる。


 エニグマがどうやってその火力を用意したのかというと、スーサイド・ドロイドというミニオンを利用した。


 スーサイド・ドロイドとは、爆薬を満載したロボットだ。


 戦術は、敵に接近して自爆、大ダメージを与えて死ぬという単純なもの。


 しかしその自爆の威力たるや、至近距離で直撃を受ければVITに多めに振った防御型のプレイヤーですら致命傷を受けるほど。


 一瞬の爆発に全力投球の儚いミニオン、それがスーサイド・ドロイド。


 高架道路を支える橋脚にそのスーサイド・ドロイドを10体ほど組みつかせ同時に自爆させれば、結果はご覧の通り。


 それを三箇所同時に実行して、Dルート以外の道を消滅させたのだ。


 この作戦を説明している時、エニグマはモニター顔に笑顔の顔文字を表示させ、当たり前のようにこう言っていた。


 コースを破壊しちゃいけないってルールはないからね、と。


 なるほど、確かに。


 さて、ルールの範囲内で行われた凶行により、Dルート以外を選んだマシンは爆破に巻き込まれスクラップか、良くて寸断された道の前で立ち往生。


 よって、優勝争いはDルートを選んだ者のみで行われることとなる。


 ライバルも妨害も少ない道でなら、ペスカは全力で走れるだろう。


 俺としてはこの時点でもう妹の勝利を確信しているのだが、みんなが言うには頭シスコンかよとのこと。


 ちょっと妹が大好きなだけの一般兄貴に対して失礼な。


 ともかく、確実な勝利のためにはさらなる備えが必要と、エニグマはDルートに二人の仲間を配置した。


 そろそろ彼女たちの出番が来る頃だ。

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