たまには悪いヤツをボコってみたりもするけどやり方がむごい。
ペスカの愛車を強化するための素材集めの日々。
その最中、俺たちのパーティはずっとフルメンバーで動いているというわけではない。
UNOはあくまでオンラインゲーム。
リアルの方が忙しくてフレンドの誰かがログインしてこない日がある、なんてことは当たり前だ。
今日はペスカとエニグマが不在。
ペスカは夏休み中の部活が理由、エニグマはいつものバイトだろう。
なので今日は俺、アカツキ、アルで三人行動。
狩り場に行く前に西京で準備を整えている真っ最中だ。
しかし、
「……」
「……」
「……あ、スティッキー・マイン売ってる。買っとこ」
会話が少ない。
当然だ、よく喋る二人がいないのだから。
基本的に、俺たちのパーティの会話はエニグマとペスカのお気楽コンビが回している。
俺やアカツキはそれに乗っかって騒いでいるだけで、アルに関してはそもそも口数が少なめ。
なのでお気楽コンビがいない三人パーティとなるとご覧の有様。
俺はなんとか会話を弾ませられないかとちょくちょく喋っているのだが、アカツキたちはひとことふたことコメントするだけ。
だから、会話が少ない。
ちょっと気まずい。
もう誰でもいいから喋りに来てと願いたくなってくる。
しかし、願いを聞いてくれる神さまは、良いやつばかりとは限らないのだ。
「ん? そこのちっこいのは……ポイズンちゃんじゃん?」
一瞬、俺が話しかけられたのかと思って振り返ると、そこにいるのは知らない人たち。
知らない人たちは俺の隣のアルを見ているので、どうやら彼女のお知り合いらしい。
ただ、アルの反応は、少なくとも親しい人と接する時のそれではなかった。
「……ッ。お前ら、か」
唇を噛み、背を丸め、少し怯えた表情をして、自分に話しかけてきた相手を睨みつけている。
……助けにはいったほうが良さそうだ。
俺はアルと知らない人たちとの間に割り込む形で一歩前へ。
適当にフレンドリーな表情を作って、知らない人たちの先頭にいる男と会話する。
「えーと、どちらさまです? うちのスナイパーに何か御用で?」
「ん? うちの……ってことは、あんたらポイズンちゃんの今のお友達?」
「パーティメンバーっす。っていうか、ポイズンちゃん?」
「そ。あんたらもパーティ組んでるのなら知ってるでしょ、そいつの口の悪さ。毒舌キャラだからポイズンちゃん」
「あー……」
毒舌キャラってわけでもないと思うが、そのあだ名の理由はなんとなくわかる。
しかし、ちらりとアルを見れば、彼女はその名で呼ばれるのを嫌がってる雰囲気。
「うちの子をあんまいじめないでやってくれませんか?」
「えー? いじめてるわけじゃないって。俺ら仲良しだからあだ名で呼び合ってるだけさ。な? ポイズンちゃん?」
知らない人たちは楽しげに笑うが、アルは嫌そうに目をそらす。
「……冷たいなぁ、一緒にパーティ組んで狩りにいった仲じゃん?」
「……騙された、だけ。囮に、された。見捨て、られた」
「人聞きが悪い。あれは連携って奴だよ、ポイズンちゃんがワイバーンを引きつけている間に、俺たちが龍の巣から卵を採取してクエスト完了ってな」
「採取が、メインって、聞いてなかった。ワイバーンの、討伐クエストって、言ってた。だから、私は、お前らを援護しようと、狙撃して、けれど、お前ら、誰も、戦わないで、どっかに行って……!」
「情報伝達にミスがあったってだけだろ? あんまり酷いこと言われると怒るよ、俺ら?」
知らない人は笑顔だが、目が笑っていない。
その視線に晒されて、アルはビクッと縮こまる。
少しだけ、アルたちの関係を理解できた。
強敵の出現する高難易度のクエストをクリアするために、ソロのプレイヤーを囮役として仲間に加えるようなヤツらがいるらしい。
誰もやりたがらない囮役をその辺のプレイヤーにやらせれば仲間内で揉めることはないし、囮役にされたプレイヤーとはクエストクリア後にサヨナラすれば後腐れもなし。
無論、お前は囮だと正直に教えたら嫌がられるに決まっているので、囮役にされるプレイヤーには嘘の情報が伝えられる場合がほとんど。
悪役ロールプレイをしているプレイヤーか、性格の悪いプレイヤー以外は使わない手だ。
知らない人たちはその”手”を使うタイプのプレイヤー、アルはかつて彼らの囮役にされた不運なソロプレイヤー、ということなのだろう。
個人的に、知らない人たちのやり方は気に入らない。
しかしUNOだとその手のトラブルは”騙される方が悪い”である。
UNOの自由度には悪党をやる自由も含まれているのだから、ゲームのルール内だ。
だからアルに同情はするが、知らない人たちを非難する気はない。
その件に関しては、だが。
俺はアルの盾になるよう、知らない人たちの前に立ち塞がる。
「囮役にした、されたという間柄なら、別にあなたたちとアルは仲間でもなんでもないでしょう? 過去に嫌な思いをさせた相手にわざわざ絡む必要もないだろうし、放っておいてくれませんかね?」
かつて騙した相手への嫌がらせなど、ゲーム云々関係なく人間としてダメだろう。
そんな奴らにうちのスナイパーがいじめられているのだ、それを黙ってみているわけにはいかない。
一応、ことを穏便に済ませるため、俺は適当にへらへらしつつ、穏やかな口調で応対したのだが、
「だーかーらー、騙したわけじゃないって言ってるじゃん? ポイズンちゃんの被害妄想だっての」
「そもそもさぁ、まともに狙撃を当てられないようなクソスナなんだ、パーティに貢献できただけよしとしなくちゃ。だろ?」
「っていうかあんたらもよくそいつを仲間にしたよな。あ、同レベルのクソザコだったり? ははは!」
……これ喧嘩を売られてます?
それなら買うぞこの野郎と、俺はカタナを抜刀しようとしたのだが、
「……さっきから聞いていれば、囮を使わないとクエストもクリアできないような小物どもがごちゃごちゃと」
その前に、今まで黙って話を聞いていたアカツキが、静かにブチギレた。
アカツキは、彼女曰く”小物”の一人の肩に左手を置く。
次に右手で、そいつの頭をガシッと掴む。
「う、うわ!? なんだテメェ!?」
小物さんはアカツキの手から逃れようと、彼女の手首を掴んで抵抗する。
しかし、STR極振り女の腕力を前にしては、どうすることもできない。
アカツキが両手に力を込め始めた。
「こっちは……!」
「お、おい、やめろ、やめろっていたたたた首、首が……!」
メキメキと、小物さんの首が伸びはじめる。
それでもアカツキは小物さんの首を引っ張り続け、
「仲間を……バカにされて……黙っているわけにはぁ…………! 行かないのよッ!」
「ギャアアアアアアッ!?」
ぶちっと、とうとう小物さんの首がもげた。
うわぁスプラッタ! グロッ!
血とか飛び散るわけじゃないけど絵面がグロい!
素手で人間の首を引っこ抜くとかホラーゲームのパワー系バケモノくらいしかやらないぞ!?
力任せにもほどがある凶行だ。
俺の後ろではアルもドン引きしている。
しかし、俺たちが凍っている間にも、話は勝手に進行してしまう。
「て、てめぇ!? よくもうちのメンバーを!? 覚悟はできてんだろうな!?」
「ええ、出来ているわ。そちらのメンバー、見たところ残り10人かしら? ……その全員を完膚なきまでにブチ滅ぼす覚悟がね!」
アカツキが完全に宣戦布告なセリフを吐いたことで、その後の展開が決まった。
知らない人たちが、俺たちからバっと距離を取る。
そしてライフルだのマシンガンだの、それぞれの武器を手にとって、こちらに銃口を向けて。
「「「ぶっ殺すッ!」」」
退廃的な都市の町中で、プレイヤー同士の喧嘩が始まろうとしていた。
穏便に済ませようとしたのに! とは思いつつ、知らない人たちの態度にかーなーりームカついていたので……、
「……まあいいか! 俺もまーぜーてー!」
ウッキウキで喧嘩に加わろうと、インベントリからフラッシュ・グレネードを取り出した。




