落下耐性スキルを習得するために高所から飛び降りまくる変態。
先ほどの戦闘中、ドラゴンの背から飛び降りた際に俺のHPが減少したことからもわかる通り、UNOでは高いところから落ちると落下ダメージを受ける。
おおよそ、建物の二階くらいの高さまでならノーダメージだが、それ以上の高さから落下するとなるとダメージ判定が発生。
その高さに応じてダメージも増加し、あまりにも高いところから落ちればそれだけで即死してしまう。
だから、例えば高い塔の最上階から飛び降りることで一階までショートカット、なんてことは基本的に不可能だ。
そう、あくまで”基本的”には。
落下ダメージを軽減する効果を持ったとあるスキルを習得すれば、その無茶なショートカットも可能となる。
そのスキルの名は”猫の体術”。
これさえ覚えれば、もう高いところはまったく怖くない! ……とまでは行かないが、ある程度の高さから落ちても大丈夫なようになる。
足を滑らせた際の保険としてはもちろん、高所から一気に下まで移動する落下ルートが使用可能となり機動力も強化されるという、何かと有用なスキルだ。
なお、習得条件がちょっと面倒なスキルでもあるのだが。
俺はR0外でいつも愛用していたそのスキルをここでも覚えるつもりでいたのだが、色々あってすっかり忘れていた。
「まずいな、アレがあるのとないとじゃ俺の機動力が大違いだぞ……」
『ボクとしても、カネツグにあれを覚えてもらわないとちょっと困るんだ』
「え?」
ふふーんと、エニグマは勿体つけた後、
『なんと! ボクたちがBDRに勝つための戦略を考えてきたのです!』
「おぉ! ついにストラテジストの本領発揮だな!?」
『ふふふ、最近はすっかりドローンアイだけ飛ばしてる人になっていたからね、ようやくだよ。……けれど、その戦略はカネツグの落下耐性スキル習得を前提としているから』
「俺に猫の体術を覚えておけってことだな?」
『そうそう』
「フッ、そういうことならすぐにでも覚えてきてやるぜ!」
俺はビシィっと宣言した後、
「……イヤだなぁ」
がっくりと肩を落とす。
「ツグ兄、テンションの落差が激しすぎでは?」
「スキルを一つ覚えるだけでしょう? そんなに面倒な習得条件なの?」
首を傾げるペスカとアカツキに、俺は猫の体術の習得条件を説明しようとしたが、
「……いや、実際に見た方が早いな。場所を変えよう」
と、いうわけで。
ところ変わって退廃の都市、西京。
俺たち五人は、街の中央に建つ赤い電波塔”西京タワー”の上部にある展望台まで登ってきた。
展望台のガラスは割れており、高所ゆえの強風に晒される。
アカツキが、へたりこみながら文句を言ってきた。
「こ、こんなところに何のようがあるのかしら!? 早く降りたいんだけど!?」
「そういえば高いところもダメでしたねあなた……」
「高いところが平気な方がおかしいの! 落ちたら死ぬのよ!? 人は飛べないんだから!」
「……そう、人は飛べない。ゆえに人は高所を恐れる。だが」
俺は展望台の端へと歩いていく。
「猫の体術を習得するためには、その恐れを捨てなければならないのだ」
「……え、ちょっと? カネツグ?」
「つ、ツグ兄、危ないよ!?」
制止する仲間たちの声を振り切り、俺は床と空の境界線に立つ。
下を見下ろせば、地面は遥か遠く。
落ちたら確実に落下ダメージで即死する高さだ。
だからこそ、
「アーイ! キャーン! フラァァァァァァイ!」
俺は飛ぶ。
「カネツグー!?」
「ツグ兄ー!?」
「あ、カネツグが説明する前に落ちたから、ボクが解説を引き継ぐよ。猫の体術の習得条件、それは落下ダメージによる死亡回数が100回を越える、さ。つまり、めっちゃ高いところから飛び降りて死ぬのを100回ほど繰り返す必要があります」
解説ありがとうマイフレンド。
そのまま俺は地面に落ちて、落下ダメージで死ぬ。
5分後に復活したら、再び西京タワーの展望台へ。
「……というわけで、これをあと99回ほど繰り返すわけだ。キツいぜ」
あまりに過酷な習得条件を聞いて、アカツキとペスカは言葉を失っていた。
アルは興味なさそうにぼーっと外を眺めている。もうちょっと興味持って?
そしてエニグマは、ホロリと絵文字の涙を流し、ハンカチでモニター顔を拭った。
「苦労をかけるねぇ、カネツグ」
「それは言わない約束だよ、おとっつぁん」
言って、俺はすべてを諦めた顔で飛び降りる。
高速で風景が上へと流れていく。
重力に引かれて加速した身体が、そのまま地面に激突。
落下死。
あと98回だ。
……本来、”猫の体術”は、冒険中に自然と100回も落下死してしまうようなうっかりさんのための救済スキルである。
俺がやってるのは短期間でスキルを習得するための裏ワザ的な方法だ。
普通の人は、普通に冒険して、普通にうっかり落下死しつつ、普通にスキルを習得できるその日まで、のんびり楽しく遊ぶことをおすすめします。
俺みたいに過酷かつ効率的な手段に手を出すようなプレイヤーになっちゃダメだぞ。
ともかく、その後もひたすら落下死を繰り返し、ついに100回。
システムメッセージがスキルの習得を知らせてきた。
「終わったぁぁぁぁ!!!」
俺はあまりの解放感からリスポーン地点で叫び、そのままどこへ行くでもなく駆け出してしまう。
ぴょんぴょんと、西京の街を跳ね回る。
窓枠などのとっかかりを利用してビルをよじ登り、屋上から屋上へと飛び移り、今度は一気に地上へと落下、スタっと華麗に着地。
”猫の体術”を習得し、俺の機動力は格段に向上した。
レベルアップによるAGIの上昇もあり、アバターの身体能力はもはやニンジャそのもの。
今ならシノビらしく殿様だって暗殺できる気がする。
かかってこいや徳川家。
適当なところで足を止め、小さく拳を握ってガッツポーズ。
これでエニグマの戦略が要求する動きもできるようになるだろう。
……ところで、そのエニグマを含む仲間たちの姿が見えない。
連絡を取るために通信機を使うと、
『はいこちらエニグマー。あ、スキル習得終わった? キミが猫の体術を覚えるまで待ってるのも暇ってことで、こっちは4人で素材集め再開してるよー』
「ひとこと声かけていってほしかったなー!?」
そうやって置いていかれると泣きますよ、俺は。




