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三人目 スピード狂のアクセルシャーク ペスカ が なかまになった!

「この辺にいるはずなんだけどな」



 フレンドの”レーサー”を仲間に加えるため、俺たちはそいつがいるはずの場所へとやって来た。


 そこは海の街グランマーレのすぐ近く、海岸線を走る道のど真ん中である。


 海からの潮風に撫でられながら、コンクリートで舗装された道路上を歩く。


 なんとなく、仮想世界というより現実世界の海岸線を歩いているような気分になってくる。


 海から道路を挟んで反対側は、山の斜面に木々がずらりと植えられた森。


 今にも熊とか飛び出してきそう。



「……フッ、現実で熊に襲われたらかんたんに死ぬ自信があるが、UNOでなら余裕で返り討ちにできるな」


「クマ系のエネミー、動物系の敵としては強い方だからドロップアイテムの毛皮とか高く売れるんだよねぇ」


「そうなの?」


「……何度か一緒にクマ系エネミーと戦ったじゃん?」


「使わないアイテムはまとめて売ってるから、個々の値段を気にしたことはなかったわ」


「これだからゲーム内金銭感覚が大雑把な廃課金勢は!」



 こっちは、今後必要になるアイテムだろうか、入手の手間に売却価格が見合っているか、インベントリの所持重量制限は――と、色々なことを考えながら金策してるっていうのに!


 いつか痛い目を見ますよ、と言おうと思ったが、よく考えると全財産を突っ込んだマシンを一瞬でスクラップにされて現在一文無しでしたねこの人。


 もう痛い目を見ていた。


 さすがに一文無しは精神衛生上よろしくないのか、アカツキは背中の大剣に手を伸ばし、森の方を見る。



「それならついでに出てきて欲しいわね、クマ系エネミー。金策しないと」


「出てきそうな雰囲気だって話でここにクマ系が出てくるって言ってるわけじゃ――」



 突如。


 ガサガサと、森の木が揺れた。


 その音に、俺はカタナを即座に抜刀できるよう柄に右手を添えて、構える。


 森の中を動き回り、木々を揺らす何者かは、高速でこちらに接近して来ていた。


 ……敵か?


 こちらがその正体を掴む前に、そいつが森から跳ねるようにして飛び出してくる。



「――っしゃーショートカット成こ、ってうわぁ!? どいてどいてそこの人オメガ危ないから!?」



 そいつは、サメのボディラインのような流線型をした青いバイクに跨っていた。


 装備は黒色を青色のラインが彩るライダースーツ、顔には砂埃から眼球を保護するためのゴーグル。


 バイクに乗っているがヘルメットは着けていない。


 現実世界だとバイクに乗る際はヘルメットの着用義務があるので、良い子は仮想世界以外で真似しないように。


 青きノーヘルライダーは、木々の間から飛び出してきた勢いをそのままに、俺の方へと一直線に飛んできて、



「ぎゃー!?」



 見事に俺と正面衝突。


 バイクの速度と重量が乗った突撃によって、俺は十メートルほどふっ飛ばされた。


 人身事故である。


 良い子は仮想世界以外で真似しないように。


 さて、左手首に巻いた死避けのお守りのおかげで、俺はなんとかHP1で生き残った。


 ふらふらと立ち上がる俺に、ほとんど無傷のバイクの女が心配そうに声をかけてくる。



「だ、大丈夫そこの人ー!? ごめんねー!? ウチの愛車がキミを華麗に轢いちゃってー!?」


「人身事故を華麗と表現するんじゃあないッ!」


「いや我ながら見事な前輪アタックだったなってオメガ感動しちゃってる。……って、誰かと思ったらツグ兄じゃん? 心配して損した」


「兄を何だと思っているんだお前」


「汎用人型サンドバック!」


「元気に答えるな」


「冗談冗談」



 そう言って、ライダースーツ姿の女性アバター”ペスカ”は、ゴーグルを外し丸っこい目をいたずらっぽく細めてにししと笑う。


 と、俺たちのやり取りを見ていたエニグマが、会話に割り込んできた。



「……兄ってことは、カネツグの妹さん?」


「ああ。恥ずかしながらうちの妹です、これ」


「どもどもー、いつも愚兄がオメガお世話になってまーす。あ、エニグマさんっていつもツグ兄が話してたフレンドの人だ」


「え? カネツグがボクのこと話してたの?」


「ツグ兄はよく言ってるよ、アイツは戦術がすげぇ陰湿な爆殺魔だけどめっちゃいいヤツだって」


「陰湿!? 爆殺魔!? いやまあ否定はできないけど!?」


「おいおいそういう陰ながら褒めてたって話を本人にするんじゃあない妹よ。恥ずかしいでしょ!」


「おいおいツグ兄、ウチの異名を忘れたのかい? ”歩く情報漏洩”だぜ?」


「もうちょっと口を固くしましょうね?」



 その辺はあとで説教かますとして。


 我が妹・八坂奈緒のUNOでの姿、ペスカ。


 バイクに乗って登場したことから察せる通り、彼女は愛車と共に仮想世界を駆け抜ける”レーサー”としてUNOを楽しむプレイヤーだ。


 レース系コンテンツをメインに遊ぶプレイヤーからはそれなりに名が知られており、”アクセル・シャーク”なる異名まで持っているんだとか。


 つまり、腕は確かということ。


 まさに今の俺たちが必要としている人材だ。


 しかし、彼女が仲間になることを承諾してくれるかは別問題。


 俺たちはペスカにこれまでの経緯を話す。


 R0攻略のために必要な証、その入手手段がBDRというレースでの優勝。


 BDRに勝つためには腕の良いレーサーが必要だ、手を貸してほしい、と。



「いいよ?」



 ……あれ?



「え、いいの?」


「うん。むしろ断る理由がないっていうか?」



 ちょっと驚いた。


 妹は、俺と遊びたがらないんじゃないかとずっと思っていたから。


 困惑する俺を他所に、ペスカはどんどん話を進めていく。



「それで、BDR、だっけ? ルール無用のデスレースね。ウチとしては速さ以外を求めるレースは不純と言いたいところなんだけど、まあいっか。とりあえず現地に行ってみましょう! あ、グマさんグマさんエニグマさん、良かったら後ろに乗ってく?」


「グマさ……? いやまあいいか。いいの、乗せてもらっちゃって?」


「スキルで二人乗り時のペナルティ軽減取ってるからヘーキ! あ、ツキ姉は装備が重すぎて重量オーバーだから無理ね。自分の足で頑張って! ツグ兄はたまには運動しろ」


「ちょ、ちょっと!? ペスカちゃん!? 置いていかな――――」

「仮想世界で運動しても運動不足解消には――――」



 俺たちが話を終える前に、ペスカは愛車の後ろにエニグマを乗せて、猛スピードで走り去っていった。


 UNOにはファストトラベルというシステムがある。


 一度でも行ったことのあるリスポーン地点間なら即座に移動できるという、つまりはワープ機能だ。


 このワープは基本的にリスポーン地点間の移動――つまり街から街への移動しか不可能。


 なので、例えば現在地がその辺の荒野や森だったとすると、ファストトラベルを利用するにはリスポーン地点のある最寄りの街まで自力で移動しなければならない。


 俺たちはグランマーレから結構な距離を歩いてここまで来た。


 ここからまた歩きでグランマーレまで戻るのか。


 ちょっとめんどい。


 帰路のこと、考えておけば良かったかなぁ……。

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