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不具合対応でそのゲームの運営の”格”がわかるとかわからんとか。

 UNOでは一言に酒場といっても多種多様。


 中世ファンタジーで冒険者が集うような酒場、西部劇の荒野でガンマンがミルクを飲んでいそうな酒場、都会のおしゃれな大人のバーって感じの酒場、ネオンと電子看板が妖しく輝くサイバーパンク世界の酒場、宇宙船内部のSFチックな酒場などなど。


 いま俺がいるのは一個目、石造りの建物内に木製のテーブルと椅子が並んだ、中世ファンタジー風の酒場である。


 建物が中世ファンタジーでもそこはカオスなUNO、集まっているプレイヤーはミリタリー系の迷彩服を着た軍人、学生服の高校生っぽいヤツ、和服のサムライに宇宙服を着た未来人と、一ミリも中世ファンタジーを感じさせない面々がわらわら。


 一応、鎧の騎士やローブのウィザードなどがいないわけではないが、少数の彼らではファンタジーの雰囲気をまったく守りきれていない。


 まあ、近未来ニンジャ装備の俺も人のことは言えないのだが。


 そして、テーブルを挟んで俺の反対側に座っているヤツも、中世ファンタジーとは無縁な外見をしている。


 一言で言うならロボだ。


 鋼の骨格に機械の内蔵、無数のコードがむき出しの人型メカ。


 頭部に顔はなく、その代わりにモニターが備わっており、そこにスマイルマークやビックリマークなんかの絵文字を表示して感情表現を行うという、もうどこまで行ってもロボとしか言いようのないロボアバターである。


 そのモニターフェイスの頭上に浮かぶ名前は”エニグマ”。


 正体不明、性別不明、何もかも不明な、俺のマイフレンドだ。


 ちなみに、フロンティア・セブンで俺を導いていたナビゲーターでもある。



「やっぱりPVPエリアは廃課金勢と遭遇するから厳しいねぇ。PVP禁止エリアに戻る?」



 俺はそんなロボフレンドの加工された機械音声にしぶしぶと同意した。



「レア引いても奪われちゃ意味ないしなぁ。くそぅ、所持品も所持金も根こそぎ持ってかれたぞ……」



 モヒカンキングの課金力に敗北した結果、俺の手持ちはスッカラカン。


 倉庫に保管しておいたアイテムや、銀行に預けておいたお金など、持ち歩いていなかった物資は無事なので無一文になったというわけではないのだが、かなりの大損害だ。


 こういう事態を回避するには、プレイヤー同士の戦闘ができず、死体からのアイテム強奪システムもロックされているような、PVP禁止のワールドに引きこもるしかない。


 もしくは自分も金で強さを買って廃課金プレイヤーの仲間入り。


 出来たらやってるわ。


 課金しまくればあのモヒカンと同じ土俵に立ち実力勝負が出来るのだが、無理です。


 月に何万円も出せません。5千円とかでもかなり悩む。


 ごく一般的な高校生の経済力では、ちょっぴり課金した無課金勢か、重課金勢の底辺がせいぜい。


 俺は廃課金勢になれず、俺に廃課金勢は倒せない。


 それでも、倒したい相手がいるのだが……。



「そういえばさ、惑星ブルースフィアの釣り系コンテンツがアップデートされたらしいよ。いっそバトルコンテンツから足を洗って二人でぬし釣りオンラインでもする?」


「それもいいかもなぁ。このゲームの釣り系コンテンツ、リアルの釣りプロが絶賛するクオリティらしいし……いやダメだよくねえ! 俺は強くなると決めたんだ!」


「よく言ってるよねぇ、ソレ。いつも思うけど課金すればすぐじゃん?」



 エニグマのモニターにハテナマークがぴこんと輝く。


 その疑問の表情に俺は答える。



「ろくに課金しないでも廃課金勢に勝てるくらい強くなりたいの!」



 なんともわがままな話だが、俺がいまUNOを遊んでいる目的の一つは、このゲーム内で強くなるためである。


 そう、アイツに勝つため、俺はもっと強くならなければならない。


 可能な限り最強の装備を、可能な限りプレイヤースキルの向上を、可能な限り万全の準備を。


 練磨の果てに、いつかアイツを倒して、それから――、



「あれ?」



 会話の最中、ふと視界にノイズがはしり、直後に世界が暗転した。


 ”サーバーから切断されました”というメッセージが暗闇に浮かんだ後、自動的に俺は仮想世界から現実世界に押し戻される。


 FDVRゲームというのは、五感や意識を3DCGとプログラムで構成された仮想世界の肉体に移し、それを自分の身体のように動かして遊ぶゲームだ。


 当然、UNO世界の俺の肉体”カネツグ”とは別に、現実世界の方に俺の本物の肉体が存在する。


 その肉体に戻ってきた俺は、FDVRゲーム用のゴーグル型機器を頭から外し、現実世界の風景を目に映す。


 少し散らかってはいるが、足の踏み場くらいはある我がお部屋。


 身だしなみを整えるための姿見の方を見れば、見慣れた自分の――本名・八坂兼続やさかかねつぐの顔があった。


 自分の本当の体を動かしていると、現実に戻ってきたなという感じがしてくる。


 一息ついたところで、さて、と。



「珍しいな、サーバートラブルか」



 いま俺はUNOから強制的にログアウトさせられた。


 そういうトラブルはオンラインゲームにつきものではあるが、UNOは接続が安定していることで有名なタイトルでもある。


 遊び始めてもう四年になるが、不具合でゲームから切断された回数は片手で数えられるほど。


 珍しい。


 まあUNOは運営のサポート対応が迅速なことでも知られている。


 すぐに公式から不具合情報が来るだろう――とか思っていたら、机の上に置いておいたスマホが、さっそくメールの着信を告げる電子音を鳴らした。


 画面にはUNOからのお知らせ、との文字。


 本当に対応が早い。


 俺は画面をタップしてメールを開く。


 内容は不具合発生に対する謝罪の文面と、サーバー再開予定時刻の通達――と、思っていたのだが、



《UNOからのお知らせ》


《プレイヤーの皆さん、こんにちわ。UNO開発チームです》


《先日、UNOは運営開始9周年を迎えました》


《これを記念し、先ほどUNOは緊急アップデートを行いました》



 メールの中身はアップデートのお知らせだった。


 事前に情報はなかったはず。


 またそのアップデートに伴う強制切断に対しての謝罪の文面もなし。


 少し奇妙なメールの内容に戸惑いつつも、文章を読み進めていく。



《今回のアップデートでは、新ワールド”惑星R0”が追加されております》


《このワールドは特殊な仕様になっており、まず外部からアイテムなどを持ち込むことができません》


《また、惑星R0内では、一時的にプレイヤーキャラのレベルやステータス、習得スキルなどが初期化されます》


《強くなるためにはR0内で行動し、アバターを強化していかなければなりません》


《惑星R0は、全てのプレイヤーがゼロから攻略しなければならない世界なのです》


《なお、惑星R0内では課金アイテムを購入しても無効化されますのでご注意ください》


《新ワールドR0は、皆様の到来をお待ちしております》


《そしてもう一つ、プレイヤーの皆様にご報告があります》


《本日ただいまより、UNO9周年記念イベント”MAOU・BUSTER・FESTIVAL”を開催します》


《イベントの内容は単純明快、R0に設定されたラスボス”魔王”を誰が最初に倒せるかを競う、最速攻略レースです》


《開催期間は1年、UNOが10周年を迎えるか、誰かが魔王を討伐した時点で終了となります》


《このイベントの優勝者には賞金一億円が、参加者全員には粗品が贈呈されます》


《奮ってご参加ください》


《以上》



 それでメールの本文は終了。


 緊急アップデートによる強制切断に対しての謝罪文などはなし。


 サーバー再開の時刻も不明なまま。


 丁寧な対応で知られるUNO運営にしては、やっぱり奇妙なメールだった。


 俺はスマホを机の上に置き、なんか変だなと顎に指を当て――、



「……うん?」



 スマホを再び手に取る。


 先ほどのメールを読み返す。



《このイベントの優勝者には賞金一億円が、参加者全員には粗品が贈呈されます》


《このイベントの優勝者には賞金一億円が》



 目をこすり、見間違いじゃないかを確認。



《賞金一億円》



 …………うんうん。



「賞金いちおくえんッ!?」

TIPS:1億円

1円玉1億枚分に相当する金額のこと。

この世の誰もが非課税の1億円をほしいと思っているらしい。


ちなみに1億円分の札束の重量は約10キログラム。

10キログラムの荷物を運ぶ時は、1億円の重みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

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