極夜とギャンブルの街。
”ナイトベール”という街には夜しかない。
他の地域なら時間の経過で昼夜が切り替わるのだが、ナイトベールを含む一帯の荒野は常に夜。
”極夜”という、惑星の傾きや太陽光の照らす範囲の兼ね合いで引き起こされる現象らしく、現実にも太陽の昇らない地域が存在しているんだとか。
太陽に見捨てられ、永遠に暗闇の中にあるはずの夜の街。
しかし、その闇を振り払うかのように、ナイトベールは常に明るく光り輝いている。
その街の景観を現実世界の都市で例えると、”ラスベガス”が近いだろう。
実際、ナイトベールのモデルはラスベガスらしく、街の中にはギャンブル系のコンテンツで遊べるカジノが何軒も並んでいた。
さて、そんなギャンブルの街・ナイトベール。
ここのギャンブルの一つに”バーン・デッド・レーシング”というものがある。
名前の通りレース系コンテンツなのだが、そのレースの優勝者が誰になるかを賭けるらしい。
まあ、そっちは俺たちに関係ない。
重要なのはレースそのもの。
バーン・デッド・レーシング……略して”BDR”には、プレイヤーが走者として出場することも可能である。
レースで優勝すれば豪華賞品ゲット。
掲示板によると、そのレースの優勝賞品こそが、俺たちの探し求めた第二の証”ゴールド・シンボル”なんだとか。
俺たちは掲示板で得た情報に従い、まずは街の中央にどーんと建つ高層ビル”セントラルタワー”へと向かう。
用があるのは一階の受付。
そこでBDRの参加申請ができるらしい。
俺は金色のボタンが眩しいスーツ姿の受付嬢に声をかける。
「あのー……」
「あら、ナイトベールへようこそ、旅人さん。ご用件はこれかしら?」
受付嬢はカウンターの裏から一枚の用紙をピラリと取り出した。
そこには”BDR参加申請書”の文字。
「それです」
「ふふ、最近になって急に増えたのよね、BDRの参加希望者。えーと、それじゃまずここに」
「あ、その前に聞きたいことが。このレースの優勝賞品についてなんですけど」
「優勝賞品……ああ、あの変なアクセサリーね。なんでも”魔王”を倒しに行こうとしていた”勇者”が持っていたもの、らしいわよ?」
魔王に関連したワード。
間違いない、魔王城のバリアを剥がすための証の一つだろう。
「ギャンブルに負けた勇者から借金のカタとして取り上げたものだって聞いたけど」
「なにギャンブルで借金作って重要アイテム取られてるの勇者」
「あれ目当てでレースの参加者が増えているんだから、やっぱり貴重なアイテムなのかしらね。他に聞きたいことはあるかしら?」
「えーと、レースのルールとか」
「ルールね。難しいことはないわ。街の中に張り巡らされた高架道路をサーキットとしたレース。街の東端部からスタートして、西端部にあるゴールまで最初に辿り着いた選手の勝ち。それ以外のルールは特になし」
「特にないって……禁止行為みたいなものは?」
「なし。卑怯な手段や妨害行為、なんでもアリよ。その方がレースも盛り上がるし。あ、参加選手はレース開始時にスタート地点にいること、くらいのルールはあるけれど」
「レースなら、マシンや装備のレギュレーションとか……」
「なし。自分の足で走る人、車で走る人、空を飛ぶ乗り物を使う人、色々いるわね。言うなれば無差別級レース?」
「フリーダムが過ぎる……」
「ふふ、あまりになんでもありすぎて未だにゴールした選手がいないくらいだもの。みんな潰しあって脱落しちゃうの」
「レースとして成立してなくない!?」
「レースとしてはともかく、”完走者なし”に賭けられるからギャンブルとしては成立してるのよねえ」
ギャンブル至上主義。
しかし、過去にゴールした者がいないということは、証を手にした者はいまだ0人。
同じことを考えたらしく、俺の背後で負けず嫌いのアカツキさんがやる気を出していた。
「……ふふ、いいわね。最初の勝利者になるというのも」
「アカツキ、お前がレースにエントリーするか?」
「ええ、そうするわ」
「参加する人は決まった? それなら用紙に記入をお願いね。他のお二人も参加できるわよ? チームとかグループで一人だけみたいな、そういう縛りはないから」
「俺はやめときます」
「ボクも遠慮しておくよ」
「そう、残念ね。流れる血の量は……じゃなくて、参加者は多い方が盛り上がるんだけど」
「いま怖いこと言いませんでした?」
受付嬢は目を逸らし、下手な口笛を吹いている。
ごまかすの下手だなこの人……。
そんな会話をしている俺たちをよそに、アカツキはきれいな字でさらさらと用紙に記入していく。
「書けました」
「はい、おつかれさま。それじゃ今日のレースはこのあと20時から……ちょうと30分後ね。それまでには準備を終えて、スタート地点で待機しておくように。オーケー?」
「わかりました」
こうしてアカツキをBDRにエントリーさせ、セントラルタワーを後にする俺たち。
と、エニグマがアカツキに問う。
「そういえばさ、アカツキさん。マシンはどうするのん?」
「え?」
「いやマシンに規定はないと言っても徒歩で勝つのはキツいでしょ? なんか乗り物を持ってこないと」
俺はエニグマの言葉に同意した。
「確かにな。生身で参加するのもアリとはいえ、勝ちを目指すならなんらかの乗り物が必要だろう。アテはあるのか?」
「当然よ」
言うと、アカツキはどこかへ向かって足早に歩き始め、俺たちはその後を追う。
「レース系のコンテンツがある土地には、だいたいビークル系のアイテムなんかを取り扱うお店があるでしょう? それはこの街も同じ。ここに来るまでに、それっぽい施設を見つけてあります。ほら、あそこ」
アカツキの視線の先を見れば、”GoD SpeeD LOVE”なる看板を掲げた建物が。
ガラス張りの店内には、車やバイクが並んでいる。
「あそこでもっとも早いマシンを買っていくわ。大丈夫、お金は私が出す。あなたたちは見ているだけで二つ目の証を獲得できる。ふふ、見てなさい……!」
なんだか知らんがすごい自信だ。
その自信が逆に俺を不安にさせる。
大丈夫かなぁ……?




