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メカ系のアバターは潮風で錆びないのか? その辺が不安でしょうがない。

 7月後半、それは一年でもっともアツい季節の半ば。


 さらに言えば夏休みが始まる時期である。


 夏のレジャーを楽しみ、仲間たちと部活に励み、時には異性とひと夏の恋――高校生活がもっとも光り輝く期間であると言っても過言ではないだろう。


 ザ・青春。


 そんな季節ですが、リアルには一緒に遊びに行く友達も恋する相手もいない俺、帰宅部不動のエース・八坂兼続さん。


 今年の夏も当然のようにゲーム一色です。


 ……リアルが灰色でも仮想世界で楽しむからいいんですー、泣いてなんかいませんー。


 さて、UNO9周年を祝う記念イベントにして、賞金一億円をかけた最速攻略レースイベント”MBF”が始まってから、一ヶ月ほどが経過した。


 R0のルールによってアバターを初期化されたプレイヤーたちも、着実にレベルを上げて本来の力を取り戻し始めている。


 より強くなるライバルたち。


 しかし強くなっているのは俺だって同じ。


 以前よりもレベルは上がり、スキルも増えた。


 身に着ける装備も、カタナ系武器にバリアスーツ系防具という基本的な構成自体は変わっていないが、一ヶ月前に使っていたものとは比べ物にならないほど強力な品が揃っている。


 仲間たち――アカツキとエニグマのアバターもどんどん強くなっており、今の俺たちはまさしく無敵!


 ……とは言いつつ、



「きゃああああああッ!?」



 眼下のサーキットで、アカツキが爆発に巻き込まれ死亡していた。


 レースのスタート地点から1ミリと進むことなく、一瞬でリタイアだ。


 そう、レース。


 現在、俺たちは最速を競う”レース系コンテンツ”の攻略を目指している。


 戦闘系コンテンツでなら無敵と言い切る自信があるが、それ以外だとそうでもないのだ。


 畑違いと言いますか。


 そもそも、なんで専門外の分野に手を出さなければならなくなったのか?


 それを説明するために、まずは話を今日のお昼ぐらいにまで遡らせる。


 カサイBSLの最深部で五つの証の一つ目を獲得した後、俺たちは次なる証を求めてR0の各地を動き回っていた。


 しかし、見つからない。


 新しい街に行こうと、未知のダンジョンに潜ろうと、証に関する情報は所在地のヒントすら入ってこなかった。


 五つの証は、入手どころか見つけることすら難しいレアアイテムだったのだ。


 一つ目の”フィアーシンボル”に関しては、証集めというR0の基本的な遊び方をプレイヤーに認知させるためのチュートリアル枠として、例外的に簡単に見つかるようになっていたのだろう。


 他のプレイヤーたちも証を発見できず、MBFは完全に停滞したまま、時間だけが過ぎていく。


 そんなある日、俺たちは”グランマーレ”という街に来ていた。


 海沿いにヨーロッパ風の建築物が建ち並んだ、いわゆる”海の街”である。


 大きな港にはいつも船が出入りしており、漁業や貿易が盛んらしい。


 リゾート地としても機能しているようで、街の中には宿屋とレストラン、それと土産物屋が多数。


 歴史ある町並みをそのまま残したヨーロッパの観光地、といった感じ。


 世界観的には中世ファンタジー系の街なのだろうが、雰囲気はなんとなく近代系に近い気もする。


 そんな街にやって来た理由はもちろんR0攻略のため――ではなく、言ってしまえば気分転換だ。


 俺たちはどこにあるかもわからない証を探してあちこちを歩き回った。


 ある時は洞窟に潜り、虫系やアンデッド系のエネミーに遭遇してアカツキが悲鳴をあげながら逃げ回り。


 またある時は砂漠をさまよい、俺が馬鹿でかいアリジゴクに食われて死に。


 時には雪原を冒険し、防寒装備を忘れたせいで氷結ダメージを喰らいまくりアカツキと仲良く凍死。


 ついでに火山にも行った、俺が足を滑らせて溶岩に落ちて死んだ。


 そんなこんなで、過酷なロケーションでひたすらに戦い続ける毎日。


 結果、ちょっと疲れてしまったのだ。



「海とか見ながらボーっとしていたい……」



 そう口にしたのは誰だったか、ともかく思い立ったが吉日と、俺たちは休息のためにグランマーレを訪れたのである。


 ダラダラするべく俺たちが向かったのは海沿いのカフェテラス。


 日よけのパラソルの下で、真っ白いテーブルを囲み、三人揃ってボーッと過ごす。



「……平和ね」



 そう口にするアカツキは、鎧を外したインナー姿で波の音を聞いている。



「……平和だねぇ」



 いつも通りメカ100%のエニグマは、モニターフェイスになごんだ表情の絵文字を表示している。


 ……大丈夫? キミ潮風で錆びたりしない?



「……平和だなぁ」



 俺はグランマーレの土産物屋で買った防具”リゾートブルー・アロハシャツ”に着替え、仮想世界でリゾート地の空気を満喫する。


 さすがリゾート地、アリジゴクに食われる心配も凍死する可能性もマグマダイブする危険もない。


 極めて平和で、穏やかな場所。


 そんな街でのんびりとしていた俺たち。


 エニグマはメニューウィンドウを指先でいじりゲーム内掲示板を覗いたりしている。



「なんかおもしろいこととかないかなぁ……メタルプリン最高効率狩り場情報を共有するスレー……Tさん目撃情報求む……R0の二つ目の証をみつけたった……モヒカンメンバー募集……」


「メタルプリンかー、あいつら硬いし早いしでカタナだと狩れないんだよなぁ」


「私のSTRなら問答無用で叩き潰せるけどー……」


「脳筋……」


「脳筋いうなー、滅べー……」



 いやはや本当に、平和、平和。


 ……ん?



「……エニグマ、ちょっとセリフ戻して?」


「えー? モヒカンメンバー募集ー? カネツグ入るのー?」


「そのもう一個前」


「えーと……R0の二つ目の証を見つけたった……だって」



 ……うん。


 三人揃って、その文字列の意味を考えて。



「「「……見つかったの!?」」」



 三人揃って、驚いた。

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