四本腕。
ツヴァイハンダーと呼ばれる武器がある。
両手持ちで扱うことを前提とするような大剣のことだ。
ちょうど、アカツキの振り回す武器のような。
本気のアカツキの戦闘スタイルとは、そんな重量武器を左右の手に一振りずつ携えた”大剣二刀流”である。
本来ならば両手持ちの大剣で二刀流をするから、彼女の異名は”四本腕”なのだ。
「相変わらずの脳筋っぷりで――」
久々に彼女の本気の構えを見た俺が、感想を言い終える前に、
「はああああああああああッ!」
「うわぁ急に襲いかかってくるなッ!?」
問答無用と、アカツキは攻撃を仕掛けてきた。
前進の勢いを乗せて振り下ろされる右の大剣。
両手で一本の大剣を振るうよりは速度の遅い一撃を、俺は難なく回避するが、
「そこっ!」
「ちぃっ!?」
間を置かず、左の大剣が降ってくる。
瞬時に体勢を整えこれを避けるも、続いてすかさず襲ってくる右の刃。
それに続いて左、また右と、二本の大剣による嵐の如き連撃。
リーチの長い大剣が振るわれるたび、周囲の肉壁が傷つき、血を噴出させる。
その血を巻き込んで、刃の嵐は赤い色を帯びていく。
「このっ! さっさとっ! 当たりなさいよっ!」
「お断り……うわっ!」
バリアスーツの右腕部分が切り裂かれた。
かすっただけだ、ダメージは低いが……このままではさすがにヤバい。
俺は回避は得意だが、それでも限界はある。
集中力はいつまでも持たない。
防戦一方では、いずれ致命的な被弾をする。
反撃しなければ。
俺は目を閉じ、フラッシュグレネードを再び足元で炸裂させた。
一瞬後、目を開く。
「同じ手を二度も喰らわないから!」
「ちぃ!? 学習しやがって!?」
俺と同じく、アカツキもフラッシュグレネードが炸裂した瞬間に目を閉じていたらしい。
彼女の瞳は変わらずまっすぐこっちを睨みつけている。
……まだ他の小細工道具は入手できていないしな。
こうなったら、残る策は一つ。
俺はアカツキの攻撃を回避すると同時、反撃にカタナをきらめかせた。
「そっちこそ当たれよなっ!」
「くぅっ!?」
斬られる前に斬る。
俺のHPが尽きる前に、アカツキのHPを0にする。
策というか、やられる前にやれ、だ。
回避動作の後で体勢を整えぬままに放った斬撃は、ろくに狙いもつけられない。
カタナはアカツキの鎧とぶつかり、ガキンと金属音を鳴らしたのみ。
しかし、昔の偉い人は言いました。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。
でたらめな斬撃も数打ちゃ当たるはず。
大剣とカタナでは――俺とアカツキでは攻撃速度が違う。
あちらが巨大な剣を一振りする間に、こちらは二回の斬撃を叩き込める。
試行回数を重ねていけば、先に致命傷を与えられるのはこちらのはずだ……!
ガキンガキンと、カタナが鎧に弾かれる音が二度。
大剣が地面に叩きつけられる破砕音が一度。
カタナと大剣がぶつかりあう、あるいはカタナが空を切る音が二度。
再び、大剣が振り下ろされる轟音――。
肉壁が撒き散らす血を浴びながら、俺たちは幾度もそれを繰り返した。
「このっ! このっ! このぉッ!!」
「ッ! ッと! はぁぁッ!!」
神経を研ぎ澄ませ、刃の嵐の中で戦い続けていれば、精神的な疲れが蓄積していく。
少しずつ、頭が回らなくなってきた。
アカツキの連撃も、俺の連撃も、疲労によって精彩を欠いていく。
俺たちの疲労を感じ取った仮想世界の肉体は、大量の汗を流し始めている。
「……っ! なんで……っ!」
不意に、アカツキが今にも泣き出しそうな声を出す。
「なんでそんなに強いのよ! なんでそんなに器用なのよ! 昔っから! ずっと昔っから! ずっとあなたはそうだった!」
「なんだよ急に! っクッソ……!」
彼女の言葉に集中をかき乱されるも、どうにか攻撃は回避する。
「昔っから! 一緒に遊ぶ時、いつもあなたが先を歩いていた! 私は体力がないからついていくのに必死だった! 小学校に入学した後、あなたはすぐに友達を作っていた! 私はあなたに置いていかれないよう、必死にあなたの友達と友達になった!」
「何の話を……」
「ゲームでもそう! 昔っから、二人で協力して遊ぶゲームではいつも私が足手まとい! 対戦するゲームの時はあなたの圧勝で! あなたはいつもつまらなさそうな顔をしていた!」
「足手まといと思ったことも一緒に遊んでつまらないと思ったこともねえよ!」
「例えそうだったとしても! 私はあなたにずっと勝ちたかったの!」
アカツキの攻撃が、必殺の威力を秘めていたはずの大剣が、その勢いを失い始めている。
一方で俺も、脳のリソースを彼女の言葉に反論するために費やし、そのせいで攻撃が疎かになっていく。
「この世界に来ても、やっぱり私は足手まとい! ぜんぜん隣に並べない! それが嫌だったのよ! だから課金してでも強くなろうとした! そのおかげで、この世界での私はようやくあなたに勝てるくらいに強くなった! そしたらなに!? あなたはギルドを辞めるとか言い出して!」
「仕方ないだろ! 埋められないほどの戦力差がついちまったんだから! ギルドメンバーの目もあったし、足手まといがいつまでも一緒にいちゃ迷惑だろ!」
「足手まといと思ったことも迷惑と思ったこともないわよ!」
「だとしても気にするっての! 俺は昔っからお前に借りを作りっぱなしで……!」
「なにかを貸した覚えはない!」
「借りまくっとるわ! 誕生日のたびに高価なプレゼントを持ってきてくれるし! 一緒に妹の面倒を見てくれるし! 一緒に遊んでくれるし! せめてゲームくらいはクソ強くなって一緒に遊ぶ時にお前を楽させてやろうと頑張ったんだよアホみたいに!」
「なにが借りよ! 友達なら当たり前のことをしただけじゃない、こっちは!」
「こっちだって友達として当たり前の努力をしてただけだ馬鹿!」
「馬鹿いうな! 滅べ!」
「滅べって言った方が滅べ! アノマロカリスみたいに!」
「アノマロカリスってなによ!?」
「そういう生物がいたんだよ昔! クソかっこいいデザインのやつ!」
……あれ?
なんの話をしてたんだっけ?
話が脱線している気がする。
うまく回らない脳みそをどうにか稼働させて、俺はアカツキに――東雲天音に問う。
「ああ、くそっ、結局は何が言いたんだよ!?」
天音は、駄々っ子みたいに大剣を振りながら、仮想の涙をぽろぽろと零す。
「なんでこんな、馬鹿みたいに喧嘩する羽目になってるのよ!? なんで三年間も仲違いしなきゃならないのよ!! 私は――私はずっとあなたと一緒に遊んでいたかっただけなのに!」
その言葉を聞いて、思考が停止した。
なんで。
なんでこいつは、俺と同じことを考えているんだ。
なんで同じことを考えていたのに、俺たちは仲違いしているんだ。
なんで――、
「がっ!?」
思考と共に動きを止めた俺の左肩を、大剣が深々と切り裂いていく。
まずい、致命傷を貰ってしまった。
HPが急激に減少していく。
視界がブラックアウトしかけている。
最後に見たのは、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくる友達のアバターで――。




