喧嘩の理由なんて後々になってみると案外どうでもいいことだったりする。
メカゴーグル店主曰く、カサイBSLの外観は森のど真ん中に建っている巨大なマッシュルーム。
辿り着いて実際に見てみると、確かに、屋根が膨らんだ真っ白い円形の施設はキノコ型に見えなくもない。
施設の周りには色とりどりのテントが並んでおり、廃坑道の入り口と同様にプレイヤーのキャンプ地となっている。
「やはり先行組は行動が早いな」
「もう結構な数のプレイヤーが攻略しちゃってるかもね」
「かもな。それじゃ俺たちもクリア組の仲間入りをしに行くとするか」
「そうだね。とはいっても、ボクはダンジョンの外からサポートだけど」
「頼りにしてるぜマイフレンド!」
「任せときなマイフレンド!」
ビシッと同時に親指を立てる。
まさに阿吽の呼吸。
このチームワークでカサイBSLもさっさと突破してみせよう、あいつが来る前に――と、噂をすれば、
「あっ」
「あっ」
キャンプ地をうろついていたアカツキと遭遇してしまう。
お互いに硬直した後、俺は嫌そうな顔をして目をそらし、彼女は冷たい目つきでこっちを睨む。
「奇遇ね。忌々しい」
「まったくもってその通りでございますわねー脳筋め」
「本当に滅ぼすわよ!? ……まあ、遭遇する気もしてはいたわ」
「そりゃあ、魔王城に行くには攻略必須のダンジョンっぽいしな」
「お互いが目指す場所への通り道ですものね」
「ああ。ま、その最終的な目的地に先に辿り着くのは俺だがな」
「ありえないわ。私が誰よりも先にそこに辿り着くのだから」
「いーや、俺が先だ」
「私」
「俺ですー」
「私!」
「あのー」
と、俺が宿敵と言い争っていたら、恐る恐るとエニグマが間に割り込んできた。
「なんだよ!?」
「なによ!?」
「うひゃあ怒鳴らないで怖い怖い! ……いや、あんまり立ち入ったことを聞くべきじゃないのかもしれないんだけどね、気になったの。なんでそこまで仲が悪いの? 昔は相棒だったんでしょ?」
確かに、俺たちの間に何が起きたのかを知らず、喧嘩している姿だけを見せられてきたエニグマの疑問はもっともかもしれない。
俺はアカツキに目配せをする。
彼女は、好きにすればと目で答える。
なら、エニグマには教えてしまってもいいだろう。
「……フッ、そこまで言うなら聞かせてやろう。かつて何があったのかを」
「その話、長くなる?」
「わりと?」
「あ、それなら別にいいかなー?」
「自分で聞いておいて急に興味を失わないで? 嫌って言っても聞かせるからなこの野郎!」
ギャーギャー騒ぎつつ、俺はエニグマに語って聞かせる。
三年前、俺たちが決定的に決裂したあの日――そこに至るまでのことを。
「はじまりは四年前だ」
俺とアカツキがUNOを始めたのはまったく同じタイミング、四年前である。
小学校を卒業し、中学校への入学を待っていた時期、俺たちは卒業祝いと入学祝いを兼ねてFDVRゲーム用の機器を親にプレゼントされた。
そしてオフライン用のホラーゲームや対戦格闘ゲームを遊ぶのと並行し、UNOの世界を二人で冒険していくことになる。
冒険は、最初から順調だった。
俺は仮想世界でアバターの身体を操るのが自分でも驚くほど得意だったし、アカツキも課金でどんどん装備を購入し一気に強くなっていったから。
当時の俺たちは、この世界において”無敵”であるとすら考えていたと思う。
強かった俺たちの周りには人も集まってきた。
俺たちがいれば倒せないボスなんていなかったしな。
結成したギルドも結構な人数になって、周りに敵なしって感じで――だから、どこまでも行けると思ってしまったんだ。
俺たちは初心者向けのPVE設定ワールドから出ることにした。
その辺のエネミー相手では物足りないほどに強くなっていたし、PVPワールドでヤバいプレイヤーに襲われても、俺たちなら返り討ちにできると思っていたんだ。
俺は無課金勢だったし、アカツキも当時は廃課金していなかったから、今にして思えば無謀な挑戦だったよ。
俺たちはガッチガチの廃課金勢に襲撃されて、手も足も出ないまま全滅した。
課金力の違いが、UNOでは絶望的な戦力差になると、あの時に知ったんだ。
それからだ、俺たちがズレ始めたのは。
俺はそこまで上を目指すつもりもなかったから、課金せずに身の丈にあった範囲で遊んでいくことにした。
けれどアカツキは、自分を負かした奴らに勝利しようと、どんどん課金額を増やして装備を整えていった。
ギルドのメンバーも追いかけるように次々と課金額を増やしはじめてな。
気づけば恐ろしい強さの廃課金軍団が出来上がっていた。
俺を除いて。
俺だけダントツで弱かった。
廃課金ギルドの中に一人だけいる無課金勢だもんな、当然だ。
俺たちは、財力が違いすぎていたんだ。
ギルドのメンバーも戦力外がいることに不満を感じていたし、リアルの方でも色々あって、俺はギルドを抜けることにした。
で、それを伝えたらアカツキは勝手に決めるなだのなんだのと文句を言い始めて、
「――そっから喧嘩になって最終的に完全決裂、至る現在ってわけだ」
「思ったより重い話でもなかったね。プレイスタイルの違いみたいなよくある話じゃん?」
「俺自身も今にして思えばまあくだらん理由で喧嘩したなって気がしてるけどそれはともかくド直球の感想を述べるんじゃあないッ! ……重要だったんだよ、俺たちには。なあ?」
俺は隣にいるアカツキに話を振り――、
「あれ、いない!?」
「彼女ならカネツグが話している間にダンジョン潜っていったよ」
「しまったー!?」
長々と過去を語っている間に出遅れた!
「お、俺もすぐに追いかける! エニグマ! いつもどおりサポートよろしく!」
「とりあえずドローンアイだけでいいかな?」
「オッケー! ガン・ドローンの鈍足にあわせてられないしな!」
「あいあい。スキル発動、ドローン・アイ・アセンブル」
エニグマがスキルを使用すると、その掌の上で機械部品が組み上がり、プロペラのついた目玉を構築していく。
完成と同時にふよふよと浮かび上がるエニグマの目、ドローンアイ。
俺はそいつを従えて、
「それじゃいってくる!」
と、カサイBSLに突入した。




