折れたー!?
『今日はなんだかやる気マンマンだねぇ、カネツグ?』
「昨日! 色々と! あったからな!」
俺は仮想世界の森を駆けながら、襲い来るエネミーを次々とカタナのサビに変えていく。
ベルゼブとの戦い、そしてリアル黒いアレの襲撃から一夜明けた平日の放課後。
帰宅した俺はさっそくUNOにログインし、普段と比べると当社比2倍のやる気を出して狩りを行っていた。
今日はエニグマもログインしている。
一人で次の街まで進んでしまったことを詫びつつ、昨日はなにかあったのかと聞いたところ、バイトとの答えが返ってきた。
えらい。
そんなわけで今日はエニグマのドローンアイと共に森を駆け回っているのだが、今日はここにもう一人、というかもう一体のゲストがいらっしゃいます。
俺の近くをガチャガチャ動き回る全長1メートルほどの物体。
外観はメカメカしい四本脚のついた白一色のドラム缶だ。
どことなく虫っぽい動きをするそれは、エニグマが使役するミニオンであり、その名も”ガン・ドローン”。
いくつかの消費アイテムをコストに、ミニオン召喚スキルによって呼び出せるこのガン・ドローンは、偵察専用のドローンアイとは違い戦闘用のミニオンである。
備わったマシンガンによる射撃能力を活かし、例えば俺のカタナが届かない上空の飛行系エネミーを撃墜したり、あるいは俺が倒し損ねたエネミーを処理しておいてくれたりと、なかなかの働き者。
低レベル帯でも運用できるようなミニオンなので性能はそれほど高くないのだが、いるといないとじゃ狩りの安定感が段違いだ。
なお、エニグマがその気になればもっと――それこそベルゼブの黒いアレのように大量のミニオンを召喚することも不可能ではないのだが、そうしないのには理由がある。
ミニオンは撃破されずとも、召喚してから一定時間が経過すると消えてしまう”消耗品”だ。
召喚コスト分の働きをその制限時間内に行えなければ、ミニオンを召喚するだけ赤字となってしまう。
新しい街に来て金策効率が良くなったため、狩りの最中に常時ミニオン1体を出しておけるくらいの財布の余裕は出来た。
しかし2体以上を出すと基本赤字となってしまう計算。
赤字を出し続けると所持金が減る、所持金が減りすぎると行動選択肢が減ってしまう。
ゲーム内とはいえお金、大事。
だからエニグマがいま召喚しているミニオンは節約のため1体だけ。
この先、ボスキャラクラスの敵が立ち塞がったら、その時はミニオンの軍勢を操るストラテジストの本気を見る機会もあるだろう、たぶん。
久々にあの派手な戦闘を見たくなってきた――、と。
「おっと」
バキンという破砕音で、俺の思考が遮られた。
見れば、俺の手にするカタナの刃がポッキリと折れてしまっている。
耐久値が尽きた。
UNOでは装備品に耐久値というパラメーターが設定されている。
これは装備の消耗状態を表すもの。
敵を斬り続けたら剣の刃が欠ける、攻撃を受けたら防具がボロボロになる、そういう現象をゲーム的に表現した数値、といえばわかりやすいか。
この耐久値が減ると、例えばカタナの場合は刃こぼれし切れ味が落ちたということで攻撃力が低下、最終的には刀身が折れて使い物にならなくなってしまう。
そういった弱体化、損壊を防ぐためには、定期的に装備を修理して耐久値を回復させなければならない、というのがUNOのシステムだ。
この修理はタダで行えるわけではなく、まず装備ごとに指定された素材アイテムが必要になる。
カタナを例に出すと、刃を研ぎ直すための砥石や、諸々の材料となる特定の金属素材などだ。
性能の良いカタナほど高価な素材が要求される。
加えて、修理を行えるだけの鍛冶系スキルも必要。
鍛冶系スキルを習得していないプレイヤーは武器の修理を鍛冶師系NPCや鍛冶師系プレイヤーに依頼しなければならないのだが、ここで依頼料が発生するため、装備の修理には素材費以外のお金も必要になってくる。
なお、鍛冶系スキルはハンマー片手に鍛冶系コンテンツを触って習得しなければならない技能系スキルで、全てのプレイヤーが習得しているわけではない。
ならとりあえず鍛冶系コンテンツをやってスキルを覚えておけばいいじゃんと思うかもしれないが、そうはできない事情がある。
UNOにおいて、一体のアバターが覚えられるスキルの記憶枠は有限だ。
INTのステータスを強化することである程度はスキル記憶枠を増やせるが、それでも無限にはならない。
ゲーム中に存在する全てのスキルを覚えさせたなんでもできる万能アバター、なんてものを作り上げることは不可能なのだ。課金すれば別だが。
そして、スキルには武器防具の扱いに関する技能系の他に、魔法系や特殊能力系などの戦闘力に直結するものが多数存在している。
鍛冶系スキルを一つ習得すると、それらの戦闘系スキルを一つ諦めなければならない。
なので、戦闘系のプレイヤーは戦闘力が低下することを嫌い鍛冶系スキルを習得しない場合がほとんど。
しかし鍛冶系スキルを育てておけば自分で武器を修理してお金を節約できるというメリットもあるので……最終的なスキル構成は自分のプレイスタイルとの相談である。
ちなみに課金装備にもこの耐久値は存在しており、無課金装備と同様に定期的な修理が必要だ。
課金装備の修理に必要な素材アイテムは、最高級のレアアイテムばかり。
普段のザコ戦から常時課金装備を使って戦うのは非常にもったいない。
だから普段は無課金装備で戦い、ボス戦やPVPなどここぞというところで課金装備を使う、というのがいわゆる重課金勢の戦い方。
一方、廃課金勢は装備の耐久値を回復させる課金アイテムをどんどん使うなどして、課金装備の耐久値減少を財力で無視してしまう。
普段から贅沢にフル課金装備で戦えるため隙がない。
この普段は無課金装備か、普段から課金装備かというのが、重課金勢と廃課金勢を分ける一つの指標である。
話が逸れた、閑話休題。
そういうわけで、俺がR0での最初の武器に選んだ壱型キルブレイドは、耐久値が0になり壊れてしまった。
こうなると、
『ありゃ、武器が壊れちゃったね。どうする? 修理? 買い替え?』
エニグマの言った通り、修理して使い続けるか、別の武器を購入するかの二択となる。
「修理して使い続けるほどの性能でもないからな。買い替えかな」
修理に必要な素材集めは面倒だし、買うと高い、また鍛冶系スキル持ちへの修理依頼費は結構な額を要求される。
修理するより新しい武器を買った方が安上がり、というケースが、特に低レベル帯ではほとんどだ。
幸い、狩りの成果として結構な額がお財布に溜まっている。
敵が強くなった分、より性能の良い武器を使いたいということもあり、俺は装備の買い替えを決めた。
『あいあい。じゃあ街に戻ってショッピングだね』
「だな」
『買い物デート?』
「男同士で!?」
『おっと、ボクは正体不明、性別不明のエニグマさんさ。あはは』
「このゲームのプレイヤーの8割は男だって知ってるんですからね俺ッ!」
TIPS:武器の耐久値
現実のゲームでも設定されているものがある。
耐久値が減ると性能が落ちたり、最終的に壊れるのも同様。
オンラインゲームではゲーム内経済を回すために採用されていることが多い。
一人用のRPGなどで設定されていると「最強武器取ったけど耐久値がもったいなくてなかなか使えねえ!」みたいなことになりがちである。
ラスボス戦でもラストエリクサーを使い損ねるような貧乏性には厳しい仕様。




