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その世界では財力こそが力だった。

 大規模多人数同時参加型フルダイブ式バーチャルリアリティオンラインゲーム……FDVRMMO”Universe Network Online”、通称”UNO”。


 またの名を”サツタバ・ナックル・オンライン”ともいう。


 課金専用アイテムの性能が良すぎるため、プレイヤー同士の戦いは最終的に課金額の多さが勝敗を決するような――”札束で殴り合うようなゲーム”になることからついた蔑称だ。


 このゲームのプレイヤーの一人として擁護しておくと、UNOは金が全てのクソゲーというわけではない。


 よく言われる長所は、出来ることの多さ。


 仲間と一緒にパーティを組んでダンジョン探索といった一般的なMMOの遊び方は勿論、戦闘そっちのけで牧場経営、拠点建設、釣り人生活、テニスしたり野球したりサッカーしたり……とにもかくにも遊べるコンテンツが豊富だ。


 冒険の舞台となるフィールドも、中世ファンタジー風のワールド、現代社会をベースにしたワールド、宇宙を駆けるSF系に絵本のようなメルヘン系と多種多様。


 プレイヤーの分身たるアバターは、普通の人間から耳長イケメンのエルフ、ケモミミついた獣人やアンドロイドまで、人型限定ながらも設定の幅が非常に広い。


 剣と魔法のファンタジー世界で戦う勇者にも、現代社会でスポーツしながら暮らす学生にも、近未来で稼働する釣り人ロボにだってなれてしまう。


 色とりどりのワールドと、十人十色のキャラメイク、そして無数のゲームコンテンツを備えた、ひたすらに自由度の高い遊び場、それがUNOなのだ。


 世界一やれることが多く、世界一なれるものが多いゲームは、現在、世界一プレイヤー人口の多いMMOでもある。


 それだけ多くの人が楽しんでいる世界を単なるクソゲーとは呼べないだろう。


 最上位層に混じろうと思ったら、月額プレイ料金に加えて数万円、数十万円の課金が必要になってくるというだけだ。


 俺は……ゲーム内の名前で名乗ると”カネツグ”は、そういう札束での殴り合いには参戦せず、今日もUNOをマイペースに遊んでいた。



『カネツグ、周囲に敵反応はなし。次の分岐路は右だよ。運が良ければいつものランダム配置宝箱があるはず』


「オーケー、エニグマ。今日こそお目当てのレアアイテムを引けるよう祈っててくれ」


『あいあい。ちなみに今月のカネツグの運勢は12星座中最下位だってさ。思わぬ再会に翻弄されるかも!? だって』


「余計な情報ありがとう。ひっぱたくぞ」



 耳の通信機から、機械的に加工されたいたずらっぽい笑い声が返ってきた。


 ノリの軽いフレンドのナビゲートに従い、俺は先へと進む。


 非常灯が淡い光で照らす狭い通路。


 壁には金属板と無数の配管、それとよくわからない機械がびっしり。


 この場所はUNOに実装されているダンジョンの一つだ。


 中世ファンタジー世界観の惑星”レグルス”に墜落したSF系宇宙船”フロンティア七号”の内部というロケーション。


 フロンティア七号内部なので、ダンジョン名はそのまま”フロンティア・セブン”である。クソ安直。


 出現する敵はファンタジー系モンスターとSF系ロボの混合編成、取得できるアイテムもファンタジー系の剣とSF系の銃なんかがごちゃまぜ。


 UNOのカオスっぷりをわかりやすく表現する場所の一つと言えるだろう。


 このダンジョンに潜っている理由は、最強装備を獲得するためだ。


 俺のアバターの外見だが、サイバーな感じのニンジャである。


 ネオン看板が妖しく輝く繁華街を飛び回るような”近未来のニンジャ”はこんな格好をしているだろう、という感じのアバター。


 表面に光のラインを奔らせるタイトなバリアスーツの素材は、防弾防刃耐熱耐寒と様々な性能を兼ね備えた特殊繊維製(という設定)。


 膝などの関節部分を守るプロテクターも、近未来のものすごい技術の結晶たる特殊合金で作られた一品(という設定)。


 この姿を言葉で表現するならば、”残光をと共に闇を駆けるシノビの者”といったところか……!


 お気に入りである。


 かっこいいでしょニンジャ。


 高校生男子の99%はニンジャが好きだし人類の99%はニンジャが好きなんですよ。


 そして、カッコよさにこだわるならば武器も重要。


 サイバーなニンジャがメルヘンチックな装飾でデコられたふわふわハンマーとか使ってたら困惑するでしょう?


 だからこのサイバー・ニンジャ・コーデに合う武器を、となった時、やはり選ぶべきはカタナだろう。


 なので、いま俺が左手に携えているのは、鞘に収まったカタナ系武器。


 外見に相応しい武器を選択し、カッコよさは百点満点だ。


 しかし一つ問題が。


 現在装備中のこのカタナ、性能があまりよろしくない。


 で、話は俺がこのダンジョンを探索している理由へと戻る。


 ここフロンティア・セブンにはUNO最強クラスのカタナの一つ、”九十九式カグツチ”が眠っているのだ。


 それが欲しいからこのダンジョンに潜っている、それもここ1ヶ月ほど毎日のように。


 ダンジョン内に1%の確率で出現するレア宝箱から、10%の確率でしか出土しないというカグツチのあまりのレアっぷりに苦戦中なのだ。


 本当に出ない。


 実在を疑い始めるくらいに出ない。


 このダンジョンに通いすぎてもうボスキャラの”ハイパールナティック・デストロイドガードナー”さんに関しては1分27秒でソロ討伐できるようになってしまった。


 ……カグツチの入手法がクソ強いボスを倒したら確定ドロップとかならまだ良かったのに。


 いつ終わるかわからない運ゲーに挑み続けるのは、恐ろしいほど凶悪なボスキャラを倒すのよりも遥かに困難である。


 願わくば今日こそ運との戦いが終わりますように、そう願いながら俺は道を進み、



「――あった!」



 辿り着いた小部屋で、金色で飾られたSFちっくな宝箱と対面した。


 金の装飾はそれが件の出現率1%のレア宝箱であることを意味する。


 しかし、嬉しいことは嬉しいが、これだけでは喜びきれない。



『やったねカネツグ。あとは』


「ああ、あとは10%の運ゲーに勝つだけだ」



 共に喜ぶフレンドに、俺は冷静な声を返す。


 そう、カグツチはこの宝箱から10%の確率で取得できるレア装備。


 その確率を引けず、レア宝箱との遭遇だけでぬか喜びすることすでに98回。


 せめて2桁の挑戦回数でこの運ゲーに勝ちたい、10%を100連続で引けないとかいう奇跡的な不運はお断りだ。



「開けるぞ」



 俺は震える手で宝箱を開く。


 箱の隙間からまばゆい虹色の輝きが溢れ出す。


 その光が収まった時、ようやく確認できた箱の中身は、機械的な黒い鞘に収まった、一振りのカタナ。



「カグツチ来たああああああああああああうっひょおおおおおおおおおおっ!?」


『マジでッ!?』



 ついに出会えたぞ、目的のレアアイテム!


 俺が興奮に煽られるがままに叫んだ、その直後。


 この場に、招かれざる者が乱入してきやがった……!

TIPS:課金

現実のお金でゲーム内のアイテムなどを購入すること。

UNOでは本気で強くなろうと思ったら課金必須である。


近年ではガチャなどを回すため、月に何十万円と課金する人もいるらしい。

悪い行為ではないが、課金しすぎると日常生活に支障がでることもある。

ご利用は計画的に。

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