となりのしののめさん(ヒロイン)。
ゲーマーとは、平気で土日まるごとゲームの中で過ごしたりする人種である。
昨日、一昨日の俺もそうだった。
UNOの世界でサイバーニンジャ”カネツグ”としてエネミーを狩りまくること、だいたい20時間。
さすがにちょっと疲れた。
いや、ゲームの中で動き回っていただけなので、現実の肉体が疲労しているわけではないのだが……精神的に疲れている気がするってヤツだ。
ところで、カネツグの中の人たる俺、”八坂兼続”の身分は高校生である。
休日の後に来るのは? げつようび。
はい、本日からまた一週間、頑張って登校しましょう。
ただでさえ朝に弱いのに、精神的にお疲れな今の状態で朝の7時起きはつらい。
始業時刻の9時に間に合うよう登校するのもキツい。
休みたいけど、休日まるごとFDVRゲームやってて疲れたから休みますは通らないよな……。
しかたないと、登校準備をさっさと済ませる。
学生服に着替えた俺は、授業用の教材が入った学生カバンを片手に、家の玄関の扉を開く。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい……」
朝に弱い母の弱々しい声に背を押され、外へ。
時期は6月末。
雨が多くてじめじめしており、晴れたら晴れたで蒸し暑い。
祝日も少なく、夏休みは1ヶ月ほど先、プール開きや海開きもまだで夏ならではの遊びもできないという、いいとこなしの時期である。
地獄か?
幸か不幸か今日は晴れ。
ギラギラ輝く太陽のせいでファッキンホット。
ため息を吐きたくもなる。
「はー……」
「はぁ……」
と、俺以外の何者かのため息が聞こえた。
音のした方を見ると、お隣の家の玄関前にお隣さんの姿が。
整った黒髪にキリッとした黒メガネ、学校の女子用制服をビシッと着こなす、クソ真面目そうな見た目の女子生徒。
東雲天音。
ご覧の通りのお隣さん、ついでに言うと幼馴染だ。
彼女は俺の存在に気づくと「げっ」という顔をする。
それから即座に視線を逸らし、朝の挨拶もなくスタスタと歩き去っていく。
……まったく、朝から嫌な相手に会ってしまった。
俺も特に挨拶はせず、いつもの月曜日と同じよう、気だるく登校を開始した。
俺と天音は現在、朝に顔を合わせても挨拶をしない程度には仲が悪い。
仲は悪いが、しかし通う学校は同じで、通学路も同じ。
なので一緒にいたくはないけれど、同じ道を歩くことになる。
で、俺の方が歩幅が広いので、普通に歩いているとこちらが天音を追い越す。
天音は俺に抜かされるとムッとした表情で早足になり、抜き返そうとしてくる。
負けず嫌いめ。
しかし天音は体力がない、無理して早歩きしてもすぐにへばる。
すると歩く速度が落ちるので、結局は俺が彼女の先を行くというのがここ三年間のいつもの光景。
勝った。
ところで、現在は俺も天音も朝飯をコンビニで買って食べている。
三年前までは家で朝食を食べていたのだが……ともかく、朝ごはんを入手するため、俺は通学路の途中にあるコンビニへ。
少し遅れて天音も同じコンビニへ入店する。
俺も天音も朝はご飯派。
よって朝食はだいたいおにぎり。
好きなおにぎりの具は俺がツナマヨ、天音もツナマヨ。
その日、コンビニの商品棚にはツナマヨおにぎりが一つしか残っていなかった。
先に入店した俺が最後の一つを手にし、ペットボトルの緑茶と共にレジで会計を済ませる。
ふと見れば、ツナマヨおにぎりが売り切れていることに気づいた天音が、商品棚の前で悲しそうな顔をしていた。
彼女が半泣きでこっちを見る。
俺は購入したツナマヨおにぎりが彼女に見えるよう、レジ袋を掲げて、
(にやぁ)
と、勝ち誇る笑みを浮かべた。
天音は、
(ムカッ)
みたいな、すげぇ悔しそうな顔に。
効いてる効いてる。
煽られた天音は苛立たしげにしつつ、ツナマヨの次に好きな鮭おにぎりと、俺が選んだものと同じ緑茶を購入。
朝食を買い終えると、また登校レースである。
当然、俺が勝つ。
先に下駄箱へたどり着いた俺は、ゆったりと上履きに履き替えながら、ぜーぜー息を切らせて歩いてくる天音の姿が見えるのを待ち、
(にやぁぁぁ)
と、勝ち誇った笑みで彼女を出迎える。
天音は、
(ムッカァァァ!)
って感じの、すげぇ悔しそうな顔をしていた。
効いてる効いてる。
下駄箱で息を整えている天音をその場に残し、俺は教室へ。
自分の席に座り、一息。
おにぎりは……土日の疲れが残っているためか少し食欲がない、一時限目が終わった後に食べるとしよう。
と、ようやく回復したらしい天音が遅れて教室へ入って来た。
彼女は俺の隣の席に座り、そっぽを向く。
俺たちのクラスでは、席替えにくじ引きによる完全運命制を採用している。
結果、よりにもよって俺と天音は隣の席になってしまった。
家と同じく席もお隣さんだが、やっぱり会話はない。
いつものことだ。
しかし、その日はちょっとだけいつもと違った。
「……八坂くん、下着のことだけど」
「なんだよ突然。はっ!? 俺の下着に興味があるの!? えっち!」
「滅べ! ……ゲームの話よ、土曜日の」
ゲームの話、土曜日。
俺は記憶を探り、
「ああ、黒のTバッ」
「速やかに滅べ!」
土曜日、ゲーム内でやたらエロい黒下着のプレイヤーに助けられましたね。
アカツキ、俺が勝ちたい相手。
何を隠そう、そのアカツキを操っているのは我がお隣さん、この東雲天音なのである。
「……あの時に着けていた下着、私の趣味というわけではないから。ゲーム内で防具を外すことはまずないわ、下着なんてどうでもいい。だから適当に選んだだけよ」
「だろうとは思ったよ」
「私のことをわかっているかのような言い方はやめて」
「わかってますよ脳筋」
「脳筋と呼ぶのもやめろ! マジでねじ切って滅ぼすわよ!? ……ハッ」
俺の適当な返事で天音は額に青筋を立てるが、周囲の目もあったので慌てていつもの調子に戻る。
それで会話は終わり。
その日、天音とそれ以上に話すことはなかった。
まったく、嫌になるほどいつもどおりだ。
TIPS:幼馴染
幼い頃から仲良くしている友人のこと。
ラブコメ系の漫画やゲームには主人公の幼馴染というヒロインがたいてい一人くらいいる。
この作品にも幼馴染キャラがいるようです。
変人です。




