クエスト目標:証を五つ集めろ!
買い物の後、セキハーンからちょっとした情報をもらった。
なんでもアレイスの西に”魔王城”があるんだとか。
R0に設定されたラスボスの名は”魔王”。
つまり魔王城とは、このワールドのラスボスがいるラストダンジョンなのだろう。
最初の町のすぐ近くにラスダンが? と、疑問に思って見に行ってみた。
地面や空の色が毒々しい色合いの一帯を抜けると、いかにも悪いやつ住んでますって感じのお城がバーンとそびえ立っている。
その周囲には半透明なバリアが張られており、どうやっても近づくことは不可能。
侵入不能のラストダンジョン。
ただバリアの外にある石版に”5つの証を提示せよ”とのヒントが書いてあった。
このヒントで、ゲーマーなプレイヤーならどうすればいいか理解できるだろう。
証なるアイテムを5つ集めれば、バリアが解除されて魔王城に突入できるようになる。
だからR0各地を巡ってこの証を集めてから、この最初の町のお隣に戻ってこい、きっとそういうことだ。
攻略の進め方を理解した。
ならば攻略のために最初にやるべきことは?
そう、レベル上げです。
ひたすら敵を狩る、経験値を得る、アバターのレベルを上げる、強くなる。
レベル1でクリアできるRPGはないのだ。
レベル上げついでにドロップアイテムを収集したり、クエストを攻略すれば、金策やらスキル取得やらも出来て一石二鳥。
そんなわけで、魔王城を見物した後、俺たちはアレイス近くの森へ。
木々の合間を縫って駆け回り、敵キャラ狩ってレベル上げ。
『カネツグ、三時の方向からフォレストウルフが3体。いける?』
「余裕!」
エニグマの言った通りの方角から、エニグマの言った通りの数、オオカミ型のエネミーが飛びかかってくる。
俺はカタナを抜刀し、すれ違いざまに三体の敵に斬撃を見舞う。
斬られたエネミーはそのままずささっと地面を転がり、二度と動くことはな――、
『カネツグ! まだ1匹生きてる!』
「やばっ!?」
咆哮と共に背後から飛びかかってくる瀕死のオオカミを慌てて迎撃。
今度こそHPを削りきったのを確認してから、カタナを鞘へと戻し、一呼吸。
レベルダウンのせいで攻撃の精度が落ちてるな……。
と、頭上から目玉が降りてくる。
上部にプロペラを付けたメカ球体。
ドローンアイと呼ばれるタイプのミニオンだ。
内蔵カメラが映した映像を持ち主の視界に表示する機能を持った、まさしく機械の目。
主な用途は偵察である。
俺の頭上を飛び周り周囲の様子を探っていたそのドローンアイは、頼れる我らがモニター顔・エニグマさんの使役するもの。
エニグマはドローンアイのカメラに俺の顔を映しつつ、通信機越しに声を届けてくる。
『大丈夫、カネツグ? キミが討ち漏らすなんて珍しい』
「レベルダウンでステータスが下がった分、攻撃が狙った部位に当たりにくくなってるみたいだ。いつもなら確実にクリティカル決められるタイミングだったんだけどな……」
『そっか、ステータスだだ下がりしてるからね』
R0のルールに従い、俺たちのアバターはレベルが1に戻り、ステータスやスキルも初期化された。
結果、アバターの性能が低下し、その影響で仮想世界の肉体はだいぶ動かしにくくなっている。
足が遅くなっていたり、動作が精密ではなくなっていたり――水の中で身体を動かしているような感覚、とでも言おうか。
低下したアバターの身体能力を取り戻すためにも、レベル上げは必須なのだ。
UNOでは、レベルが上がるとステータス強化に使うポイントを獲得できる。
このポイントを消費して好きなステータスを成長させ、アバターの基礎性能をプレイヤーが好みで調整していくシステム。
加えて、ゲーム内で特定の条件を満たすとアバターがスキルを習得する。
例えば、今の戦いで俺のアバターは”カタナマスタリー”というスキルを習得した。
これはアバターが特定の技能をどれだけ習熟しているかを表現する、”技能系スキル”と呼ばれるものの一つ。
カタナマスタリーはカタナを使って戦い続け、一定数の敵を討伐すると獲得できるスキルだ。
習得しているとカタナを用いた攻撃の威力が上昇するなどの恩恵を得られる。
さらにカタナで戦い続ければカタナマスタリーのレベルが上がり、威力補正なども上昇していく。
この技能系スキルにより、アバターはカタナでの戦いが得意という個性を獲得できるのだ。
スキルにはカタナマスタリーを始めとする技能系以外にも色々とあり、それらもアバターの個性を強化する性能を持っているのだが――まあ詳しい解説は割愛しておく。
レベルアップによって上昇させられる”ステータス”と、様々な条件で習得できる”スキル”、UNOにおいてはこの二つがアバターの基本的な性能を確定させる二大要素である、という点を覚えておけば良い。
これに武器や防具などの装備性能と、プレイヤー自身のアバター操作技術や戦術――プレイヤースキルと呼ばれる能力をあわせて、最終的な強さとなるわけだ。
と、その辺に関してエニグマが問うてくる。
『そういえばさ、カネツグ。R0でのアバターのステ振りはどうするの?』
「うん?」
『普段と同じ戦い方ができるよう、R0外でのアバターと同じようなステータスにするのか、それともまったく別の育て方をして新たな戦い方を開拓するのか、ってこと』
「そりゃあいつもと同じ戦い方ができるよう調整するさ。今の戦い方が性に合ってるからな」
『ということはAGIとDEX優先気味?』
「そうなる」
レベルアップで強化できるアバターのステータスはSTR・VIT・DEX・INT・AGI・LUCの六項目。
それぞれ簡単に説明すると、STRは筋力、近接攻撃力や重い装備の扱いやすさ、持ち物の重量制限などに関わるステータス。
VITは生命力、強化するとHPや基礎防御力を上昇させる。
DEXは器用さ、クリティカルヒットの与ダメージやアバターの動きの精密さ、あとは射撃武器の狙いを補正するエイムアシスト機能の精度なんかにも関わってくる能力だ。
INTは賢さ、これが低いとスキルを覚えられなくなったり、使用に頭の良さを要求する一部のアイテムが使えなくなってしまう。
AGIは敏捷性、高いとアバターが素早く動けるようになる。
LUCは運、上げておくとレアなアイテムが出やすくなるとか、致命傷を受けにくくなるとか、色々とメリットがある能力。
剣士、ガンナー、ウィザード、ストラテジスト、鍛冶師、釣り師、レーサー、メカニック……、やたらと出来ることの多いUNOだが、なにをするにしてもステータスの数値全てが高いに越したことはない。
しかし、レベルを最大の100まで上げても、全てのステータスを最大値にできるほどの強化ポイントは得られないようになっている。
よって、どのステータスを取り、どのステータスを捨てるかの取捨選択が重要だ。
例えば俺の場合、素早く動き回り、敵の弱点を突いて確実に敵を葬っていくという高速クリティカルアタッカー戦術のため、DEXとAGIを重点的に強化。
スキルはカタナ関連と軽装防具のマスタリーを基本に、攻撃力と機動力を強化するものを優先。
攻撃力の低さは手数とクリティカルヒットのダメージ補正で補う。
防御力の低さは回避でどうにかする。
使いこなすには高いアバター操作技術が必要になるので、初心者にはオススメされないタイプのアバター育成法である。
なぜそんなスタイルを選んだのかというと、普通の人には使いこなせないものを使いこなせたらカッコいいからだ。
カッコいいでしょ、ヒットアンドアウェイ、蝶のように舞い蜂のように指す、アサシン、シノビ、ニンジャ。
このゲームの最強プレイヤーも高速クリティカルアタッカー戦術で戦っているという事実から、使いこなせれば強いことは証明されているわけだし。
そんなわけで、R0でも俺はそのいつもどおりのスタイルでアバターを成長させると決めていた。
何事も、使い慣れていてカッコいいものが一番だ。
さて、俺はエニグマに聞き返す。
「そっちはステ振りどうするんだ?」
『こっちもいつもどおりだよ。ボクのプレイヤースキルじゃ直接戦闘は難しいし』
エニグマのステ振りはINT・DEX重視。
ドローンアイを始めとするミニオン召喚スキルは、使用する際に相応の器用さや賢さを要求してくる。
それらを問題なく運用できるようにと考えると、INTとDEXの集中強化が効率的。
STRが低いため力が弱く、VITが低いため身体が脆く、AGIが低いため足が遅いと、直接戦闘能力がガタ落ちするステ振りでもある。
「オーケー、つまりは俺が戦いお前がサポートってことだな」
『そうなるね』
「いつもどおりだな!」
『そうなるね! というわけでボクはボクのお仕事に戻りまーす』
狩りの最中のちょっとした雑談を終えると、ドローンアイはふよふよと上昇していく。
空から地上を見下ろす目玉は、周囲のエネミーや他プレイヤーの接近を素早く察知してくれる。
『おっと、9時方向から他プレイヤーが接近中。あれは……』
「むっ!」
俺はサッと跳躍、近くの木の枝へと登る。
呼吸を減らし、微動だにせず、気配を殺す。
森に紛れて高所から地面を見下ろしていると、視界を一人のプレイヤーが駆けていく。
アカツキだ。
どこかで装備を整えたらしく、金髪の女騎士は銀色の鎧を身に纏っており、手には見るからに重そうな大剣を携えていた。
彼女が追いかけているのはオオカミ型のエネミー。
俺たちと同じくレベル上げの最中なのだろう。
さて、彼女の装備はこの森というフィールドに適しているとは言い難い。
ずらっと生えた木が障害物となる森のフィールドにおいて、大剣などの大型武器は扱いにくいのだ。
自分に不利な環境の中、アカツキはいかにして戦うのか?
徹底的な力押しだ。
「滅べッ!」
アカツキが大剣を振るう。
巨大な刃が森の木もろともオオカミを真っ二つに叩き切った。
アカツキは徹底的にSTRを強化し、攻撃力の高い重量武器を装備して、圧倒的な単純火力で全てを叩き潰す超パワー型の戦法を好む。
彼女の攻撃力の前では本来障害物となるはずの森の木も、ご覧の通り紙切れの如し。
……木や岩などのオブジェクトを破壊するにはかなりの攻撃力が必要となるのだが、俺と同じくらいのレベルでそれを可能としているということは、やはりSTRガン振り。
アカツキもいつもどおりのプレイスタイルを貫くつもりのようだ。
手の内が読めれば対策もしやすい。
いずれやりあう時が来れば、この情報も役に立つだろう。
敵を倒した後、アカツキは俺の存在には気づかず、その場を去っていった。
後には切り倒された木が残るのみ。
「……ふぅ、行ったか」
『おっそろしい火力してたねぇ。さすがフォーハンド』
「火力が全てでもないさ。さて、レベル上げを再開するぞ!」
「あいあい、ちょうど7時方向にグリーンスライムを確認。やっちゃえやっちゃえ」
「了解!」
俺は指示通りの方向へ向かい、次々とエネミーを狩っていく。
そうしてひたすらに経験値を稼いでいるうちに、その週の休日は終了した。
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