インドジン・ウソツカナイ。
馴れ馴れしく肩を組まれながら、俺たちは謎のインド人の店に連れて行かれる。
外見は薄汚れた建造物。
ここが店? と疑問に思う。
しかし、
「ホラ、遠慮シナイ、入ッテ入ッテ!」
「お、お邪魔しまーす……」
「しまーす……うわすごっ!? カネツグ、なんかすごいよここ!?」
インド人に言われるがまま扉をくぐれば、赤い絨毯に金色の壁という絢爛豪華な内装にすぐさま目を奪われた。
金の鎧が立ち、金の刀剣が並び、壁には金の額縁でインド人の自画像が飾られているという、さながら王宮の一室のような場所。
インド人は店内最奥のカウンターへと移動し、店の主としてどっしりと鎮座する。
「ドーデス? 気ニ入ッタデスカ?」
とりあえず頷いておく。
本音を言うともっと闇って感じの闇市場を期待していたのだが、馬鹿みたいに豪華なのもこれはこれで。
「ソレハ、ヨカタデス。アッ、自己紹介マダデシタネ。ワタシ、セキハーン、イイマス。コノ町デ商売シテマス」
「あ、俺はカネツグです。こっちが」
「エニグマでーす」
「カネツツサン、ソレト、エググマサン。覚エマシタ!」
「カネツグです」
「エニグマです」
「オーウ、ソーリー! ソレデハ、カツカツサン、グマグマサン、商売ノ話、シマショウカ?」
こいつわざと間違ってない?
「ワタシ、モノ、売ッテマス。トテモ特別ナ、星船カラ入手シタモノ」
星船というのはファンタジー系ワールドのNPCがよく使う単語で、ようは宇宙船のことである。
基本的に、町で売られている装備はその町の世界観に沿ったものであることがほとんどだ。
中世ファンタジー系なら剣や槍に騎士の鎧、現代都市系なら銃に防弾チョッキ、メルヘン系ならかわいいお洋服にふわふわハンマー、といった感じ。
ただ、例外的にその世界観にはあわない武器を売る店も存在する。
人々に紛れ込んだ宇宙人が店主という設定で、東京みたいな現代都市風の世界でSF系装備を売る店。
どこかの星で発掘されたアンティークとして、SF系の町でファンタジー系の剣や鎧を売る店。
そして目の前の謎のインド人セキハーンは、中世ファンタジー系の町で、どこかの宇宙船から拾ってきたSF系の装備を売ってくれるタイプのNPCらしい。
好都合である。
俺が愛用する装備は、サイバーなニンジャスタイルに似合うカタナ、それと近未来系やSF系のバリアスーツなのだから。
「それじゃあ、この店でカタナとバリアスーツは扱っていますか?」
セキハーンはキラリと目を光らせる。
「アルヨ。チョト待ツネ」
セキハーンがカウンター裏の何かを操作。
直後、店内の床が割れ、メカニカルな棚ががせり上がってくる。
王宮風の室内には似合わない、SFチックなデザインの金属棚。
商品として飾られているのは俺が所望したカタナ、それとタイトなバリアスーツを着るマネキンが何体か。
他にも銃やビームソードなど、ファンタジー系の町で売られるには不釣り合いな品々が並んでいる。
壱型キルブレイド、センコウイズミ、アーリーガンヘッド、レックス・ワンにカザンバリアスーツ――はっきり言って驚くような装備は売っていない。
外のワールドで俺がとうの昔に使い終えたような低レベル帯向け装備ばかり。
もっとも、アバターが初期化されるR0で最初に訪れる町ならば、その品揃えは妥当であると言える。
最初の町でいきなりゲーム内最強クラスの装備が手に入ったりしたら、ゲームバランスどころではなくなってしまうだろう。
納得と共に、俺は商品を選択する。
「……この壱型キルブレイドと、それとカザンバリアスーツを貰えますか?」
際立った長所も致命的な短所もない、普通の装備。
我ながら無難なチョイス。
「イイヨー、カツカツサン、トモダチ、安クシトクヨー、全部マトメテ、5万シェル、ピッタリデ、ドウ?」
「別の店に行っちゃおうかなー」
「オーウ、チョットマッテ! ソレジャ4万シェル!」
「もう一声!」
「ウーン、ウーン、ソレジャ、3万シェルデ、ドウ!? コレ以上ハ無理ネ!」
「それじゃあ3万シェルで……あ、まとめ買いのオマケにこっちのフラッシュグレネードを3個つけて貰えます?」
「ンモウ、オジサンノ負ケネ! 持ッテケドロボー!」
UNOの店ではNPC相手に商品を値切ることが可能になっている。
店によっては値切り不可だったり、逆に十段階くらい値切ってタダ同然の価格で商品を購入することもできたりするが、そういった極端な店以外だと値切りは基本的に二段階が限度だ。
さて、商談が纏まったところでお支払いだが、R0に来た際にプレイヤーの所持金は銀行送りにされるのでお金がないのでは? と思われるかもしれない。
忘れていませんか? 俺がここに来るまでにモヒカンたちを倒していることを。
その死体からアイテムや所持金をしっかり回収していたんですよ、エニグマが。
ナイスだぜ、マイフレンド。
俺は目の前の宙空に表示されている半透明のメニューウィンドウを、スマホをいじるように指先でなぞって操作。
トレード機能を利用しセキハーンへシェルを支払うと、代わりに俺のインベントリへ購入した商品が転送されてくる。
買い物完了。
さっそく装備を変更だ。
昔からよく言われている、武器や防具は装備しないと意味がないぞ、と。
電子的な光のエフェクトに包まれた後、俺の服装はモヒカンたちから奪った凶悪な感じのアーマーから一転、普段のサイバーニンジャなものへと変わった。
近未来的な黒のバリアスーツ姿、左の手には鞘に収まったカタナ。
いつもの姿に近いが、いつもと違い全身低レベル装備なので、その細部はだいぶ違う。
飾りが少なかったり、エフェクトが地味だったり、言ってしまえば全体的にいつもより弱そうな感じ。
「もはや懐かしいな。ゲーム始めた頃に使ってたやつだもんな……」
「オーウ、似合ッテルヨ、カツカツサン! マゴニモイショー!」
「褒められてない気がする」
「サテサテ、次ハ、グマグマサーン。ドンナ商品、イルマスカ?」
「ボクはミニオン召喚系のスキル習得アイテムがほしいんだけど。特に機械系。ドローンアイとかあると嬉しい。あるかな?」
セキハーンの目が再びキラリと輝く。
「アルヨ。チョイ待ツネ」
先程と同様、セキハーンはカウンター裏の何かを操作。
カタナや銃を並べていた棚が引っ込む。
代わりに出てくるのは、金属の眼球や半透明のUSBメモリっぽい物体を商品として乗せた棚。
それらは俺が使わないジャンルのアイテムだ、性能などはよくわからない。
たぶん、俺が買った装備と同じく低レベル帯向けだろう。
エニグマは鼻歌まじりにそれらの商品を一つ一つ確認していく。
……と、そうだ。
「エニグマ、ほい、お金」
「あいあーい。ありがと、カネツグ」
俺はトレード機能を利用し、余っていた所持金を全てエニグマに送った。
モヒカンを倒して稼いだ俺とは違い、エニグマは所持金ゼロのまま。
そのままでは装備を買えないので、俺の所持金を譲渡したのだ。
「足りそうか?」
「余裕余裕。どっちかと言うと今後の金策の方が心配かな。知っての通り、ミニオン召喚は1匹出すごとに消費アイテムが必要になるからさ」
「その辺はどうにかなるだろ」
「そうだね。……セキハーンさん、これとこれ、くーださーいな」
「ハイヨロコンデー。オ会計、7万シェルデス」
「えぇー? 7万ー? ちょっと高くなーい?」
「アウチ! オ客サン買い物上手! ソレジャ今ダケ特別価格ノ――――」
エニグマが値引き交渉をやっている間、俺はふと考える。
モヒカンどもを倒して稼いだ俺と違い、ほとんどのプレイヤーは所持金0のままこの町に辿り着くはず。
そのままでは装備を買うことができないだろう。
他のプレイヤー、どうやって装備を調達しているんだろうか……?
TIPS:インド人
インドの人。
ゲームの世界でもインド人、あるいはインド人モチーフと思われる人物を見かけることは多い。
有名なゲーム内インド人は”火を吹いたり手足を伸ばしたりするインド人”とか”平和主義で内政に集中し最速で核ミサイルを準備するインド人”あたりだろう。
キャラが濃すぎる。
くお~!! ぶつかる~!! ここでアクセル全開、インド人を右に!!




