後に”暁(あかつき)の黒T事件”として語られることになるうっかり。
例えば、装備しておくとHPを全損するような攻撃を受けても一度だけ耐えきれるアクセサリー。
UNOにはそういう死を回避する効果を持ったアイテムも実装されている。
モヒカンキングはそれを装備していたらしい。
死んでいなかった悪漢は、俺を火炎放射器の炎で焼き尽くそうとしている。
勝ったと思って油断していた、回避行動が間に合わない。
相手が死亡回避アイテムを所持している可能性を考えなかった俺のミスだ。
失策の対価は自分の(ゲーム内での)命で払うとして、このままでは近くにいるエニグマも炎に巻き込まれてしまう。
「きゃっ!?」
俺は咄嗟にエニグマを突き飛ばし、敵の攻撃範囲外へと退避させた。
直後、モヒカンキングが引き金を引き、俺のHPが炎で焼かれる――――そのはずだったのだが。
そうなる寸前、森から飛び出した人影が、モヒカンキングに奇襲攻撃を仕掛けた。
残光のように金髪をなびかせる女性アバター。
そいつは周りに転がっていたモブモヒカンの死体から手斧を引き抜き、モヒカンキングの背中に叩きつける。
「ぐほぅ!?」
ダメージでモヒカンキングが膝を折った。
そうして低い位置に来た頭部、先ほど俺が突き刺した曲刀の柄尻に向かって、再び力任せの手斧の一撃。
曲刀が、モヒカンキングの頭にさらに深く突き刺さる。
「ぼぉらぁぁぁぁ!?」
モヒカンキングの頭上のHPゲージが0に。
HPを全て失い、今度こそモヒカンキングは完全に沈黙した。
敵にとどめを刺した人物は、足元の死体には目もくれず、冷たい目でこちらを見ている。
「相変わらず、すぐに油断するんだから」
アカツキ。
なぜここに、と、聞く必要はないだろう。
俺たちは先ほどアカツキと会話した直後に、すぐさまR0行きの宇宙船に乗り込んだ。
時間的に、同じ宇宙船に乗っていても不思議はない。
馬鹿にするようなセリフをぶつけられたが、助けてもらったのは事実。
俺は彼女にお礼を言っておく。
「ありがとう、助かった」
「助けたわけではないわ。倒せる敵がいたから倒しただけよ」
「はっ、そうでしょうね。そうでしょうともさ脳筋め」
「次に脳筋って言ったらねじ切る」
ねじっ!? 何を!?
何にしろ、対応の言葉は刺々しい。
まったくもって、三年前からそのままだ。
……恩人に嫌がらせをするのもどうかとは思ったが、ちょっとムカついたので言ってやる。
「……にしても、派手な下着をしてますわねぇアカツキさん?」
「ぐっ!?」
アカツキの綺麗な顔が、苦虫を噛み潰したようなツラに変わった。
彼女の頬が真っ赤に染まる。
すげえなUNOの感情表現機能。
R0入りしたプレイヤーは全員が装備を剥がれて下着姿になってしまうわけだが、それはアカツキも例外ではない。
今の彼女は下着姿だ、パンツとブラのみ。
それも、布面積の少ない薄地の黒。
UNOは対象年齢12歳以上のゲームだが、大丈夫ですかこのエロ下着? って運営に聞きたくなるような一品である。
たぶん、本人の趣味ではないのだろうが。
思うに、まずアカツキは「どうせゲーム中に防具を外すことなんてないんだからアバターの下着なんてなんでもよい」と考えた。
なんでもよいとは言いつつ、せっかくなのでと現実ならとても着れたもんじゃないデザインのヤツを設定。
予想通り、全ての防具を外す機会なんて訪れないまま何ヶ月か、あるいは何年か。
本人もアバターがそんな下着を着用していることをすっかり忘れていた。
そして今回、アカツキは到着と同時にアバターが下着姿になるという事実に考えが及ばないままこのR0へ。
外れる装備、下着姿に変わるアバター、バカみたいなエロ下着でパニックに陥るアカツキ。
そんなことある? と思うかもしれないが、アカツキならやらかします、そういううっかり。
彼女は慌てて別の下着を設定しようとするが、UNOではアバターの下着変更が宿屋など特定の施設でしか行えない。
ここで取れる選択肢は二つ、一つは元居た惑星に戻り、そっちの宿屋か自室で下着をまともなヤツに変更。
もう一つはR0内にある町の宿屋で下着を変更。
いまさら元居た惑星に戻るのは時間のムダと感じたアカツキは、後者を選択する。
しかし、他のプレイヤーも同じような格好とはいえ、エロ下着姿を他の人に見られたくはない。
人目に触れないよう、アカツキは森の中を隠れながら移動することにした。
しかし、ここに来ていい感じにHPを削られたプレイヤーを――モヒカンキングを倒して、所持アイテムを奪いたいという欲が出る。
R0攻略のため、羞恥心と効率を天秤にかけて、アカツキは下着姿を見られてでも敵を倒すルートを選択した。
そして今に至る、そういうことだろう。
さて、そんなわけで痴女みたいな格好をしているアカツキさん。
その点を俺に指摘されると、彼女は半泣きになりながら――、
「滅べ!!!」
手にした手斧を力任せに投擲した。
俺の額にクリティカルヒット。
「ぎゃー!?」
HPが一瞬でゼロになり、俺は死亡した。
「カネツグー!?」
俺が最後に聞いたのは慌てたエニグマの声で、最後に見たのはその場を全速力で走り去るアカツキの背中である。
……あの下着、いわゆるTバックなんですけど!? マジで対象年齢大丈夫!?
TIPS:黒のTバック
エロい女性用下着の代表みたいな色とデザインのこと。
詳しくは画像検索でもしてほしい。
18歳以下は読んじゃダメな漫画などではよく見かけるが、現実だと……マジで履いている人、いるんですかね?




