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★その戦いを目撃した一般プレイヤーさんが思うに。

 俺の目の前で、一人のプレイヤーが多数を相手に奮戦していた。


 俺みたいな一般プレイヤーの実力では、よりレベルが上で装備も整っている相手に襲われれば勝ち目はない。


 だから俺は他のプレイヤーと同様、襲い来るモヒカンの群れから逃げ出した。


 まあ、逃げ遅れてしまったのだが。


 格上のモヒカン相手に啖呵を切ったダサいパンツの無謀な男のおかげで敵の注意が逸れ、その隙に森の茂みに隠れることができたので、ひとまず安全な状態ではある。


 あとは見つからないことを祈りつつ、頃合いを見て宇宙船の着陸地点に戻り、次の便でR0を離れよう。


 そう考えて状況の推移を見守っていたのだが、



「す、すげえなあいつ……」



 モヒカンと交戦するそのプレイヤーは、自分よりレベルが上の集団を相手取り、たった一人で見事に立ち回っていた。


 回避し、反撃。


 受け流しながら、斬撃。


 懐に飛び込んで、一撃。


 流れるような動きで一人、また一人と、確実にモヒカンたちを撃破していくそいつ――カネツグ。


 キャラ性能と数の不利をプレイヤースキルで覆す、かなりのツワモノ。


 その戦ぶりに目を奪われていたら、隣から声がした。



「やっぱり、思ってた通り強くなってるじゃん、カネツグ。ふふ」



 横を見ると、モニター顔の機人系アバターが俺と同様に茂みに隠れ、カネツグの戦いを見守っていた。


 確かこいつは、カネツグと仲良さそうにしていたプレイヤー。


 俺はモニター顔……頭上に”エニグマ”という名前を浮かべているプレイヤーに問いかける。



「な、なあ、あいつ……カネツグってやつ、何者なんだ?」


「うん? 何者って、ただのプレイヤーですよ? あとボクのフレンド」


「いや、そうじゃなくて。あいつ、とんでもなく強いじゃないか。プレイヤースキルと、あとたぶん反応速度とかが尋常じゃない。ほら、今なんか銃弾を剣で切り払ったぞ!?」



 飛び道具系の武器が発射する弾の弾速は、基本的に現実のそれよりも遅めに設定されている。


 それでも目で見て避けるのは難しいくらいの弾速だ。


 ましてや、高速で飛来する指先ほどのサイズの弾丸を剣で斬るなんて、UNOのプレイヤー100万人のうち何千人程度しか使えない技術。



「あんな芸当ができるヤツなら、ゲーム内で多少は名が知れ渡っていてもおかしくないだろ? けど、カネツグなんて名前のプレイヤーの話は聞いたことがない」


「そりゃあそうだよ、カネツグはそんなに強くないもん」


「強くないって……」


「あ、普段の話ね」



 モニター顔は慌てた表情の絵文字を浮かべながら訂正する。



「UNOの有名プレイヤーって、基本的に廃課金勢じゃん? 課金額がそのまま強さになり、強さがそのまま名声になるわけだから。その点、カネツグは無課金勢。大雑把に分類するなら、UNOでは最弱プレイヤーの一人だもん。有名になるとかムリムリ」


「そ、そうか、無課金勢か……それなら無名なのも納得できるが……いやしかし、それにしたってあの強さは」


「無課金勢だからこそ強いとも言えるかな」


「え?」



 エニグマは人差し指をくるくると回して、



「カネツグねぇ、課金によるキャラの強化ができないのをカバーするため色々と頑張ってたから。できるだけソロで行動し、強いボスキャラや難関ダンジョンに挑んで実力を磨き、強力なアイテムを手に入れて少しでもアバター性能を底上げして、時には廃課金勢に襲われてもどうにかこうにか凌ぎきって……まあ対廃課金勢での生還率は6割くらいだけど。えーと、ともかく無課金のままで、修行ってやつを続けてたの。二年くらい」


「な、なんて……」



 俺は胸に湧き上がった感情を言葉にする。



「なんてバカなんだ! そこまでするくらいなら課金すれば良いのに!」


「まあ事情は人それぞれだから……廃課金勢に追いつけるほど課金できる人ばかりでもないのさ。そんなわけでプレイヤースキルを磨き続けていたカネツグですが、それでもやっぱり廃課金勢には勝てずにいました。圧倒的なアバターの性能差でね」


「無課金向けの最強装備でも、廃課金勢の防具相手じゃクリティカルヒットですらダメージ通らないしな……」


「ところがですよ、このR0はアイテム持ち込み不可、課金アイテムを購入しても無効化されて使用不能。無課金勢と廃課金勢の間にある絶対的な差が取っ払われているんだ。となると、強さにおけるプレイヤースキルの重要度が増すわけだよ。そして」



 ふふんと鼻を鳴らし――まあモニター顔に鼻はないのだが――エニグマは得意げに締めくくる。



「課金アイテムの強さに頼って力押ししていたプレイヤーと、低性能を実力でどうにかこうにか補っていたプレイヤー、アバター性能が同程度ならどちらが強くなるでしょう? 答えはご覧の通りってわけ」



 なるほど。


 俺はカネツグというプレイヤーが無名である理由と、この場において強い理由を理解した。


 持たざる者が少しでも持つ者に追いつこうと努力をした結果が、目の前の光景なのだ。


 カネツグの大立ち回りで、あっという間にモヒカンたちは全滅している。


 残る相手は敵のリーダー、モヒカンキングのみ。



「ぐ、ぐぬぬぬぅ~! きさま、よくも俺のかわいい部下どもをぉ~!」


「フッ、死ぬかと思った。間違えた、余裕だった! 歯ごたえのない連中だったぜ!」


「ええい、許さん、許さんぞぉ~! こうなれば俺が直々に自慢の炎でエビフライにしてくれる!」



 怒りに燃えるモヒカンキングの火炎放射器が、火竜の如く炎を吐き出した。


 景色を歪ませるほどの熱量で迫りくる炎弾を、カネツグはジャンプで飛び越える。


 仮想世界の空に輝く太陽の輝きを背に、彼は敵対者の頭上へと降下し、



「はぁッ!」


「えどるりああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 巨体の頭部に曲刀を突き立てた。


 響く野太い断末魔。


 カネツグはモヒカンキングの頭部を蹴り、後方へと飛び退く。


 頭に刃が刺さったままのモヒカンキングの身体が、その場に大の字で倒れた。


 対し、カネツグはとんっと地面に着地して、ふぅ、と一息。


 一人が十三人を相手に完全なる勝利を収めた。



「信じられねぇ……」



 ゲームの世界で夢でも見てるんじゃないかと思った。


 驚きのあまり動けないでいる俺を置いて、エニグマはがさがさと茂みを出ると、ごきげんな足取りでカネツグの方に歩いていく。



「おつかれカネツグ! いぇーい」


「いぇーい。フッ、容易い相手だったぜ」


「戦う前はめっちゃビビってませんでしたこと?」


「武者震い! 武者震いです!」


「あいあい、そういうことにしておくよ」



 鬼神の如く凄まじい戦いの後とは思えない、軽い会話。


 あの戦いですら、彼らにとっては普通の範疇なのだろうか。


 恐るべし、無課金ガチ勢の秘められた力。


 ……これはもしかすると、一億円を手にするのは無名無課金のプレイヤーになるかもな。


 そんなことを考えながら遠巻きに彼らを見守っていた俺が、誰よりも早く異変に気づいた。



「あ、危ない!」



 思わず叫んでしまう。


 信じ難い現象を目の当たりにしたから。


 倒されたはずのモヒカンキングが――頭に剣が突き刺さったままのモヒカンキングが、再び立ち上がったのだ。


 怒りに震え、血走った目でカネツグを睨みつけるモヒカンキング。


 その火炎放射器の銃口から、今まさに炎が放たれようとしていた。

TIPS:無課金プレイヤー

ゲームソフト本体の購入費やオンラインゲームの月額プレイ料金などを除き、ゲームに課金しないプレイヤーのこと。

プレイスタイルの話なので課金しないのが良いor悪い、ということはない。


ただ、あまりにもみんなが無課金で遊ぶとオンラインゲームの運営などは立ちいかなくなることもある。

財布に余裕がある時は、無理のない範囲で遊んでいるゲームに課金してあげるのも良いかもしれない。

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