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バレンタインデー

「はぁ~」

私は大きな溜め息を吐きました。

なぜなら今日はバレンタインデー当日。

この数日間、何とかジュリアス様にチョコレートを渡せないものかと考えに考えましたが、結局何もできないままこの日を迎えてしまったのです。


今日は来客がありました。

ジュリアス様の幼馴染で大親友のクリスティーナさんです。


クリスティーナさんはジュリアス様とお話をされていましたが、しばらくすると私の所へと足を運ばれました。

「ネーナちゃん、少し良いですか?」


「え?は、はい。大丈夫ですけど」


私は台所で食器を洗っていましたが、作業を一旦止めて濡れた手を吹きました。

周りを確認してもジュリアス様のお姿が見えません。一体どこに行ったのでしょうか?


「ジュリーなら少し席を外してもらいました」


「は、はぁ」


「ジュリーが最近、ネーナちゃんの様子がおかしいというものですから、何か心配事があるのでしたら同じ女として相談に乗りますよ」


「はい?」

様子がおかしい?私が?も、もしかして、バレンタインデーにチョコを贈りたいと悩んでいた事にジュリアス様は気付いておられたという事でしょうか?


「ネーナちゃんだって女の子。中々男性には言えない悩みの1つや2つくらいあるでしょう?」


「ち、違います!そういうのではありません!」

クリスティーナさんはきっと何か勘違いをしている。私はそう直感的に思いました。


「で、では、何だと言うのです?」


「・・・そ、その、クリスティーナさんはジュリアス様やトーマスさんにバレンタインのチョコを渡した事はありますか?」


「え?えぇ、一応毎年贈っていますよ。私はあまりそういう行事ごとには興味が無いのですが、ジュリーがあまりにも欲しそうな視線を送ってくるものですから。って、あぁ、そういう事ですか。ネーナちゃん、ジュリーにチョコを贈りたいんですね」


「は、はい」

恥ずかしさで顔が一気に熱くなります。きっと今の私の顔は林檎のように真っ赤になっているに違いありません。


「それでしたら贈ってあげたら良いではありませんか。ジュリーも必ず喜ぶと思いますよ」


ジュリアス様の全てを熟知していると言っても過言ではないクリスティーナさんがそう言うという事は、やはりそうなのでしょう。


「・・・で、ですが、奴隷には物の所有は認められていません。ですから、ジュリアス様に何かを贈るという事は、」


「ジュリーはそんな事を気にしたりはしませんよ。・・・では、こうしましょう。私がチョコを買いますから、ネーナちゃんからジュリーに渡しておいて下さい」


「しかし、それでは、」


「ジュリーの喜ぶ顔が見たくは無いのですか?」


「うぅ。わ、分かりました。宜しくお願いします」

私は本当にいけない奴隷です。自分の欲望を満たすために、主人の親友の好意に甘えてしまうとは。


それから私とクリスティーナさんは夕食の買い出しという口実で外出をする事になりました。

初めはジュリアス様も一緒に行くと仰っていたのですが、クリスティーナさんが裏から手を回してトーマスさんを呼んで下さったんです。

ジュリアス様はトーマスさんと一緒に家でゲームをする事になり、無事に私達はジュリアス様に内緒でチョコを買いに行くことができました。



─────────────



今日の夜。

クリスティーナさんとトーマスさんともご一緒に4人で私達は夕食を食べました。

夕食を食べ終えたところで、クリスティーナさんは事前に用意していた、綺麗にラッピングされた可愛らしい箱を2つ取り出して、ジュリアス様とトーマスさんに渡しました。

「ジュリー、トム、バレンタインのチョコですよ」

毎年の事だからか、クリスティーナさんの仕草はどこか手慣れた感じがします。


「おお!いつもありがとうな、クリス!!」


「ありがとう、クリス!」


ジュリアス様とトーマスさんは心底嬉しそうにしています。

それを見て、何だかすごく緊張してきました。


「なあ、クリス。早速食べても良いか?」


ジュリアス様はそう言いながら、もう手がラッピングのリボンに掛かっていました。

夕食直後ではありますが、ジュリアス様にとってお菓子は別腹のようです。


このままでは完全に渡すタイミングを逃してしまう。

両手で背中の後ろに隠しているチョコレートを今すぐに渡さなければ。

とは思いつつ、いざとなると緊張してしまって、口は開かないですし、腕が動きません。


「ちょっと待って下さい。ジュリーには、今日はもう1つ贈り物があるんです。そうですよね、ネーナちゃん」


「え?あ、は、はい!・・・あの、ジュリアス様、これ。もし宜しかったら受け取って頂けないでしょうか?」

クリスティーナさんが作ってくれたこのチャンス。絶対に逃してはならない。そう思った私は、勢いに身を任せて背中の後ろに隠していたチョコレートを前に出しました。


目を閉じて頭を下げながら、チョコを上げようとしたんですけど、ジュリアス様は何も言いません。

どうしたんでしょうか?

ひょっとしたら喜んでもらえなかったのかなと思うと、怖くて頭が上げられないです。


しかし、このままではいられないので、恐る恐る頭を上げて、目をゆっくりと開けると、私の視界には嬉しそうにしているジュリアス様のお顔が映りました。


「いや~今年はチョコが大漁で最高だぜッ!ありがとうな、ネーナ!」


口元から涎を垂らしながら、満面の笑みで私のチョコを受け取って下さいました。

どうやら喜んでもらえたようで何よりです。


そんなジュリアス様を見ているこの一時が、私にとっては何より甘いチョコレートです。

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