正義とは何か?悪とは何か?3ー中村夫婦の場合ー
ーーーーーーー中村夫婦の場合ーーーーーーーーーーーーーーー
祭りそれは人の心を浮き立たせるものだ。このS県とN県の境界でも数は少ないが毎年、「稲作祭り」という祭りがあり、そこでは稲がよく育つように、災害が起きないようにという思いから神社で舞や儀式をやるのだが、最近ではこの日のためにダンススクールの子供たちが踊りを見せたり、露店が出たり、音楽教室の生徒たちが来てキーボード・ギター・ドラムなどでの弾き語りを披露したりと色々な趣向を凝らし、祭りを楽しませる。もちろん、祭りというのはいいことばかりではないので、警察や「警備会社」が監視の目を光らせていることもある。しかし、祭りである。皆どこかで緊張感が緩んでいるのは仕方がないこと。悪魔はその一瞬の隙を見逃さない。中村美代ちゃんはそんな悪魔の犠牲者。
祭り当日、美代ちゃんと姉の奈々子ちゃんとお父さんの健一の三人で祭りに行くこととなった。本来はお母さんも一緒に行く予定だったが、お母さんはおばあちゃんが風邪で倒れていたので看病をしていた。祭りに行くことも中止にするつもりだったが、美代ちゃんと奈々子ちゃんの強い要望でお父さんと美代ちゃんと奈々子ちゃんの三人で行くこととなった。普段、姉として振舞っている奈々子ちゃんも今日ばかりは祭りの所為かお父さんに凄く甘えて色々とおねだりをしていた。お父さんも普段の奈々子ちゃんの姿を見ていたので、美代ちゃんには悪いと思いながらも、奈々子ちゃんと色々と話をしたり、物を買ったりしていた。そんな姿を見ていた美代ちゃんは不満を感じていた。いつしかお姉ちゃんとお父さんの姿が遠くなり、遂には見えなくなっていた。美代ちゃんにお父さんやお姉ちゃんを「困らせてやれ」という思いがなかったわけではない。しかし、それは言うなれば一瞬の隙だ。悪魔のささやきが始まる。悪魔は後ろからというのが定番だがこの悪魔はそうではなかった。正面から来たのだ。
「美代ちゃんだよね。」
頷く美代ちゃん
「おじさんの事覚えている」
首を振る美代ちゃん
「そうだよね。あれは美代ちゃんが小さい時だったもんね・・・。一緒に遊ばない?」
「でも、お父さんに知らない人に着いていったらダメって言われてるから・・・。」
「僕はお父さんの健一くんと友達なんだ。だから大丈夫だよ。それと・・・」
悪魔はりんご飴を差し出した。美代ちゃんの顔は明るくなった
「さっき、欲しそうにしてたから、どうかな?」
「くれるの?」
「うん、美代ちゃんのために買ったから」
「ありがとう」
満面の笑みを浮かべる美代ちゃん。満面の笑みを浮かべる悪魔。
「おばあちゃんの体調も良くなったって言ってたから、後ろにある車に乗って、お母さんを迎えに行こうか?」
「うん!」
満面の笑みで頷き、悪魔と一緒に手をつなぎ、車に向かう美代ちゃんと悪魔。
その後、お父さんとお姉ちゃんが気づき、名前を叫ぶ頃には美代ちゃんと悪魔はその場から消えていた。まるで日々移ろう雲のごとく
そもそもの始まりは祭りで起きた衝動的な犯行ではない。悪魔は一瞬のスキを作るために、そして自分の痕跡を残さないためにあらかじめ計画していたのだ。家が団地で壁も薄く外からも大きな声で何を話しているかよくわかる幼子の家を、悪魔は衝動的に犯行を起こすことなどない。美代ちゃんは一年もいやもっと前から狙われていたのだ。この一瞬の隙を狙って・・・。
次の日、祭りが起こなわれていた所から数キロ離れた森の中で「自然と無垢と性」というタイトルが木にナイフで刻まれ、木々の間で針金で十字架で張り付けになっているように、針金で宙づりにされ切り刻まれている美代ちゃんの遺体があった。美代ちゃんの遺体には1リットルもの精子がかけられていた。