悪人は罪と罰を背負い、善人は何を背負う?(後編)
ーーーーーー2か月後ーーーーーーーーーーーー
一二三クリニックを訪れる一人の美女。ミサキは客も来ていないのでテレビを見ていた。すると、自動ドアが開く音がしたので、慌ててテレビを消す。
「すみません。井崎ですけど・・・。」
ミサキは井崎を見ると笑顔になり
「いらっしゃいませ。良かったですね勝訴できて。」
井崎は複雑な表情を見せる。
「ええ・・・。」
そこで丸めた雑誌でミサキの頭を叩く七五三
「余計な事は言わない。すみませんね井崎さん。この子も悪気はないんで許してください。」
ミサキの頭を下げさせ、自分の頭も下げる七五三。
「いえ、みんなにも言われているんでいいんです。ただやっぱりここに来ると最初に来た時の頃のことを思い出しちゃうんですよね。だから、勝ったからいいのかなって色々考えちゃうんですよね。」
玄関から一二三クリニック全体を見回すミサキ。ミサキの頭を下げさせていた手をはずし、頭を掻き
「ミサキさん。今日は色々思う事はあるかもしれませんが、今日はもうcloseしますんでゆっくり話しましょうか?ミルクティーでも飲みながら」
頷くミサキ
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テーブルに置かれた三つのマグカップ。一つ大きなソファーの真ん中に、2つ目は玄関側の一人の用のソファーの近くに、3つ目は大きなソファーに座る井崎の向かい側に置かれ、パイプいすに座る七五三。七五三がマグカップからミルクティーを一口飲み
「まずは相談員としての業務を完了させておきたい。」
と話し出す、頷く井崎
「今回のあなたの依頼は「川口を社会的に抹殺したい」というお話でしたが我々の見解としては依頼を達成したと考えています。」
「はい、達成しました。」
頷く井崎
「では、成功報酬をいただいていいですか?」
「はい」
封筒に包んであった金を七五三に渡す井崎
七五三はそれを受け取り、ミサキにチェックをさせる
「ただ、私は中瀬さんにあんなことをさせるつもりではなかったんです!」
七五三は笑って、手を振った
「中瀬は良くも悪くも雑誌が売れればいいと考えですから、雑誌が廃刊になろうが関係ないという考えです。それに今回の動画も自社のホームページに載せるんで、動画のデータを渡せと言われましたよ。あなたが気に病むことはない。」
「でも、この一二三クリニックにもご迷惑おかけしてとても成功報酬だけでは割に合わない・・・。」
「ああそれなら大丈夫、一二三クリニックはここだけではありませんし、動画のデータの代わりに色々と中瀬からもらったものもあるんで。」
「でも・・・」
「井崎さん」
笑顔の七五三
「ここからは「相談員」ではなく一二三クリニックのカウンセラーとして話をします。あなたは今後、つらい立場になると思います。あなたが行動を起こすたび、それに対する反発の声もでてくるでしょう。2年前から私は反対していたんですが、ジャーナリストという仕事は「権力者の横暴をチェックする人間」です。そのような人間に対して、権力者は全力で抗うでしょう。そんな仕事をするよりもっと楽な仕事もあったはずです。しかし、あなたはジャーナリストという立場を選んでしまった。その理由までは私は問いません。ジャーナリストとしての性か?金か?名声か?」
俯く井崎。ミルクティーを一口飲む七五三
「ですが、井崎さん。あなたはそんな大きな抵抗を超えて、何かをなそうとしていることは私のような人間にもわかります。実際、あなたは日本の構造的な問題を外国メディアを使い、変革しようとしているからです。こんな事で落ち込んでいても仕方がありません。もっとしたたかで強くならなければならないと思います。通常メンタルヘルスが悪い人間に対して、強くなれと言う言葉は発しません。なぜなら、彼らも病気だからです。ですが、あなたはこの2年間、色々な反発の声を聴いたり、見たりしながら、強くなっています。ですから、私はもっとしたたかで強くなってあなたに反発の声をあげている人間にそれなりの罪を背負わせてください。今のあなたなら私など頼らずともそれができるはずです。」
強くうなずく井崎
「ただ、そんなあなたにも心の迷いが生じるかもしれません。そんな時は迷わずに一二三クリニックを訪れてください。あなたの迷いの相談になら乗れるかもしれません。」
「先生、ありがとうございます。私強くなります。」
「私としてはすぐにでもジャーナリストを辞めてほしいんですが・・・。」
強い目で七五三をみる井崎
「私、この二年間で私がどういう人間かというのがわかりました。私は思ったことを思ったままに口にできる場が必要なんだと思います。それが日本じゃなくても」
七五三はミルクティーを一口飲む
「たしかに、あなたは海外に住む方がいいかもしれません。実際海外でのトーク番組で話しているあなたを見た時、私にはそこらの「ジャーナリスト」や「記者」という存在よりもあなたの存在の方が優秀に見えました。でも人間どこで体調を崩すかわかりません。心もそうです。「私は強い」と思っていてもある日突然会社に行けなくなったというのはいくらでも存在します。ですから、そんな時の予防として私のところに定期的に来ていただけるとありがたいです。そうすればあなたの心も少しは和らぐかもしれません。」
井崎の目はここに来た時よりも強い目になっていた。
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エレベータの前で笑顔で井崎を手を振って見送る七五三とミサキ
「先生、私・・・」
「シッ!」
七五三は窓から井崎が帰っていくのを見ていた。井崎が窓から見えなくなると内ポケットから機器を取り出し廊下から玄関・自室まで全ての部屋に行って、何か反応がないか探りだした
「先生どうしたんですか?」
「黙って」
ある程度部屋に探りを入れると機器を内ポケットに戻し、ため息をついた。
「いや、彼女がカメラや盗聴器を仕込んでいる可能性も考慮していたからね。表情を見る限りそれも気にする必要はないと思っていたが、念のために感知機を使わせてもらったよ。」
「なんでそんことする必要あるんですか?」
七五三は微笑した
「ミサキちゃん。ミサキちゃんはジャーナリストという生き物がわかっていないようだから説明するが、ジャーナリストはどんな小さな情報でも手に入れて、その情報を時には拡大・縮小して電波や紙媒体に載せる拡散するそういう生き物なんだ。だからここで話した情報が一言でも漏れた場合、その情報が拡散する場合があることに気を付けなくてはいけないんだ。」
「井崎さんはそういう人に見えませんけど?」
七五三は冷笑する
「彼女がただ単なる性被害者だと?」
「いえ、それは・・・」
困った顔をするミサキ、ニカっと笑う七五三
「わかってくれたらいいんだ。彼女は自分が性被害者であることを代表して話をしていると思っているが、その話を聞きたくない人の存在に少々鈍感なんだ。しかし、彼女の存在がいなければ国家がここまで女性に対する法の考えを変えることもなかったことも事実。だから、彼女に嫌悪を示す女性もいれば、何も言えない男に代わって代弁する女性もでてくる。彼女は新しい価値観を持ち込んだ人間なんだ。それを理解してくれ。」
頷くミサキ。窓を開け空を見る七五三
「今日も空は青いな」
一点の曇りもない青空を自由を謳歌するが如く鷹が羽ばたいていた。しかし、それは人間が見た主観であり、本当に自由を謳歌しているのかは鷹のみしか知らない。