悪人は罪と罰を背負い、善人は何を背負う?(中編)
ーーーーーーーー1週間前ーーーーーーーー
一二三クリックニックに訪れる中瀬。
「いらっしゃいませ」
とミサキが言うと、笑顔で会釈をして、ソファーに座り、メニューを見せる前に
「カモミールティーを一つ」
と頼み、ミサキも会釈して、七五三の元に行く、
「先生お客さまが来ています」
というと、奥から青いデニムのチェスターコートを着て現れた七五三。七五三は中瀬を見るとつぶやいた
「あんたか・・・」
中瀬は笑顔で左手を挙げ
「よう」
と言ってきた。パイプ椅子が近くにあったのでそれを取り出し、座る七五三
「何の用だ?」
怪訝な顔をする七五三。中瀬は笑い
「そう邪険に扱うな。一応先輩だろ?」
ため息をつく七五三
「たしかにアンタは先輩だが、あんたからの依頼はロクなもんがない。今回なんて特にな?」
中瀬は笑った
「それは認めたも同然だぞ?」
ため息をつく七五三
「誰とは言ってないだろ?大体、まだ相談内容についても聞いていない」
中瀬はまた笑った
「たしかにな・・・以前だったら慌てていただろうお前と違うな・・・成長したな」
またため息をつく七五三
「全然嬉しくねぇ」
胸ポケットから2枚の写真取り出し、机に置く中瀬
「川口達郎・井崎南だ。」
無表情で写真を見る七五三。七五三は見る中瀬。
「で、このワイドショーを騒がせているお二人に何をさせたいわけ?」
微笑する中瀬。ズレていた眼鏡を元の位置にもどす。
「そうだな、井崎というより川口だな」
嫌そうな顔をする七五三。笑う中瀬
「そう嫌な顔をするな。七五三。お前にとってもそのシナリオのほうがいいだろ?」
七五三は中瀬を見て、中瀬を指差し
「俺はそこまでわかっているのにわざわざ俺のところにくるアンタが嫌だ!」
爆笑する中瀬。未だに嫌な顔をする七五三
「だいたい、俺のシナリオではアンタは含まれていない。」
まだ笑いが止まらず、苦悶する中瀬
「ハッハッハッ、スマンスマンだがな今回はこの男を放置することはできないんだ。だから俺もでてきたんだよ。俺はお前のように優しくないから奴を徹底的に潰そうと考えている。」
眉間に皺を寄せる七五三
「どういうことだ?俺は奴がいかにゲスな人間であることを主張しようと考えているんだが?」
微笑する中瀬
「成長したと思っていたが、まだまだ甘さがあるな七五三。奴がゲスな人間であることを主張するなんてのは、所詮、世論の誘導でしかない。だから決定的な証拠を見せつけるしかないんだよ。」
驚く七五三
「まさか、アンタがその役目をやるってことか?」
頷く中瀬
「なんでアンタが?俺はアンタは自分のことしか考えていない人間と思っていた。」
タバコを吸おうとする中瀬
「ウチは禁煙だぞ?」
眉間に皺寄せる七五三
「固いこと言うな、携帯灰皿は持ってきてる」
ソファーを立ち、窓際に移動し、窓を開ける中瀬
「いや、そういうことじゃなく・・・」
七五三が立ち上がって止めようとする前にタバコを吸いだす中瀬
「七五三お前はまだ教授を超えられていないよ。」
静止するのを止める七五三。中瀬は七五三に背を向け、タバコを吸いだす
「別に超えようと思っていない。」
七五三は中瀬の背中を見ていた。
「本心はどうかな?大体相談員なんて金にならない職やるかね?教授のやっていたことを引き継いでいるわけじゃないか?」
中瀬は煙草の煙で円を描いた。その円が七五三を覆う。七五三は中瀬の背中を見ながら猫背気味にはなす
「あの人は最低の人間だったが、この職だけはいい職業だと思っただから引き継いだ。ただそれだけだ。」
タバコを吸うのを止め、七五三の方に体をむけ、ポケットに手を突っ込む中瀬。窓から照らさせる光の所為か中瀬の表情が読めない
「お前は昔からそうだったな七五三、俺はいい人で教授は悪い人?お前の善悪ってなんだ?」
眉間に皺をよせたままの七五三
「俺がいい人と言うつもりはないよ。だが、教授がやってたのはそんなにいいことではないだろう?」
中瀬が一歩七五三に歩み寄って、光から抜け出し、七五三からでも中瀬の表情が少し見えた。中瀬の表情は少し優しい顔になっていた
「そうだな。だが、お前には教授の苦しみをわかってほしいんだよ。あの人は悪いところもあったがたくさんの人に心のギフトをあげた人でもあるんだ。俺もそんな人になりたいと思ったよ。」
目を閉じる七五三
「・・・わかっているよ。俺もそのギフトをもらった一人だってこともな」
満足した顔で笑い、七五三の肩に片手を置き、窓際からテーブルに移動する中瀬
「わかっているならいいんだよ。後お前のところ確か基本料金ってやつがいるんだよな?ここに置いとくぞ。」
封筒をテーブルに置く中瀬。七五三は焦って封筒を手に取り中瀬を追いかける
「い、いや今回は社会的意義のある行いだから金はいらないんだ!」
中瀬は玄関まで行き、靴を履こうとすると、七五三をチラっと見て笑い
「お前ってそんなにいい人なの?」
七五三は止まった。中瀬はそのまま笑いながら靴をはき、七五三に背を向け
「安心しろ。その封筒の中身は映画のチケットだ。隣にいる可愛い女の子と映画でも見に行け、じゃあな」
そういうと中瀬は玄関を出た。七五三は封筒の中身を見るとため息をついた。ミサキが隣から申し訳なさそうに話かける
「先生、どんな映画のチケットですか?」
ミサキを振り向くと苦笑いし
「JOKERだとさ。」
と言って、チケットを見せた。
「中瀬さんってどういう人なんですか?」
とミサキが話すと、俯きながら七五三は
「奴は・・・」
七五三が話だそうとすると
「七五三!」
廊下から中瀬の大きな声がした。驚き廊下を見る七五三とミサキ
「カメラが5台は賛成だ!だがな、もう一つ入れておいた方が俺のハンサムな顔が取れて良いぞ!後は依頼にくるのはミサキちゃんの3時のおやつタイムだ!」
ミサキは目を点にして
「カメラ5台・・・4台じゃないの?・・・なんであの人私のおやつタイム知ってるの?」
ミサキが七五三をみると、手を合わせ苦笑いする七五三
「先生私にもカメラつけていたんですか!?」
手を合わせ苦笑いをしながら
「いやいや、備えあれば憂いなしって言うじゃない?もしミサキちゃんが暴行にあった場合の時の為だよ。」
そっぽを向くミサキ
「もういいです!」
手を合わせながら向きを変えミサキに謝る七五三。そっぽを向くミサキ。ジェスチャーはミサキを謝る態度を取っていた七五三だったが廊下を歩く中瀬の背中をずっと見ていた。
ーーーーーーーー1週間後ーーーーーーーー
ニンマリと笑っていた中瀬は川口の視線まで落としていた腰を元に戻し、今度は川口を蔑むすような目で見下ろす。
「ミサキちゃん、カモミールティーを」
ミサキが奥に行く、数秒何か考える中瀬
「・・・どこから、話したかな、そうだ社長になってからの話だ。社長になってからのアンタの劣化は酷かった。アンタはあのバカ総理を「憂国の人」とか言って、自分の雑誌に寄稿させるとか言うんだからな。別にあんたの雑誌だ。何をしようと自由だ。」
奥からトレーに乗せたマグカップを持ってきた
「ありがとう」
と言って、トレーに乗っているマグカップを手に取り、一口飲み、本棚の空きスペースに置く
「だがな、バカ総理に近づき、エッセイか?小説か?を出版すると聞いた時には呆れたよ。だがな悲しいことに世の中にはあんたと同じ馬鹿が多くいるんだろうな?売れちゃうんだよな。まあいいさ。でもなあんた。俺はフェミニストではないが、人間として考えてみろよ?準強姦か強姦かわからないが人間としてやっちゃいけないこともわからないのか?」
川口はやっと口を開いた
「いや、あれはほんの出来心というか、・・・いや!あの女は自分がジャーナリストとして目立ちたいからあんなことをやっているんだよ!me tooとか世界の時流にのって!」
冷笑する中瀬。
「まあ、アンタが出来心と言った時点で認めたも同然だと俺は思うんだが、まあいい」
胸ポケットからUSBメモリを取り出す中瀬。
「これにはアンタと井崎さんが関係をもった日の一部始終が入っているものだ。これを警察に届けようと俺は思っている。」
川口は必至に中瀬からUSBを奪い取ろうとするが中瀬の方が身長も手も長いので奪い取ることができない。ため息をつく中瀬
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だとは思っていなかったよ。」
川口は顔を真っ赤にして、中瀬の顔を殴り、体が倒れた中瀬に馬乗りになり
「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
と言いながら、顔をボコボコに殴る中瀬。中瀬の顔は蜂刺されたかのように腫れる。殴ろうとしている手を止める七五三
「これ以上やるとあんた傷害致死で捕まるぞ。」
七五三の手を振りほどく川口
「誰が証言するっていうんだよ!川瀬のグルのお前らか?俺のバックには案野首相がいるんだぞ!」
ため息をつく七五三
「川口、中瀬は柔道の黒帯だぞ?あんたなんてすぐにはじきとばされてたはずだぞ?」
「えっ?」
上半身を起しニヤリと笑う中瀬
「川口、今オンラインになっているんだぞ?」
「えっ!?お前らカメラを止めたんだじゃ?」
七五三も笑う
「ああたしかに、機器のトラブルで一時オフラインになったがすぐに戻ったよ。」
全身が震える川口
「い、い、い、い、いつからだよ!」
ニヤリと笑う七五三
「さあな?俺はカメラの専門家じゃないんでわからないが、中瀬がミサキちゃんにカモミールティーを頼んだあたりかな?」
また顔を真っ赤にして七五三に殴りかかろうとする川口。それを鮮やかにかわす七五三
「川口お前が今、気にするのは俺じゃなく廊下を走っている警察じゃないのか?」
「えっ!?」
川口は七五三を殴るをやめ、廊下を見る川口。そこには多くの警察官が一二三クリニックに入ろうとしていた。雪崩のように乗り込んで来る警官。すぐに川口に手錠をする警察官。中瀬の安否を確認する警官。
「カメラを止めろ!」
後ろから怒号が飛ぶ、七五三はミサキに合図をし、ミサキは奥に行き、カメラをオフラインにする。七五三は手を広げる
「こんにちわ、近藤刑事。」
嫌なものを見るような目で七五三をみる近藤
「また、お前の相談とやらか?」
パイプ椅子を開き、パイプ椅子に座る七五三
「まあね」
ため息をつく近藤
「また面倒なことをやってくれたな。」
足を組み腕組みをし、ヘラヘラ笑う七五三
「まあいいじゃないか、クズを始末できるんだからな」
ため息をつく近藤
「まあいいか、七五三お前も同行してくれよ。」
「断る」
ため息をつく近藤。中瀬に近づく近藤
「中瀬さんアンタは同行してくれるよな?」
警官と一緒にソファーに座っていた中瀬は手当てを受けていた
「ああもちろん、その前に知り合いの病院に行って、診断書をもらってからの話となるが」
「わかった」
近藤は頷き、川口を一度みて冷笑し、部下に
「連れていけ」
と一言言った。川口の怒りはまだ止まらない
「お前ら全員グルだったんだな!俺をハメようとしたんだな!俺のバックには案野首相がいるんだぞ!」
近藤はため息をつく
「川口、俺は七五三の助手から電話があったんで来ただけだ。別にアンタをハメようなんて考えていないぞ。それとアンタの頼みの綱の案野首相だが、たまたま今日国会の議会を見ていたんだが、アンタの質問があって、そこで個別の案件には答えないとか言ってたぞ。まあ、総理大臣と言う立場があるかも知れないがアンタはどうやら完全に切られたみたいだな。もちろんウチの上司の逮捕状の停止もなしだ。」
中瀬の顔が赤くなっていたのが完全に青くなり、近藤の部下から「行くぞ」と言われ力を失った近藤は言われるがまま一二三クリニックを出て行った。近藤はポツリとつぶやいた
「あんな馬鹿とは二度と付き合いたくないな。」
「同感」
中瀬と七五三とミサキがつぶやいた。三人とも目を合わせて笑った。近藤はそんな三人を見て「全くこいつらは」と思ったが言葉にしなかった。
「実刑になるかどうかはまだわからないが、実刑になった場合、あういう男には刑務所での洗礼が待っているからな。性暴力の被害者の気持ちがよくわかるだろう。」
七五三と中瀬はまだ笑っていた。近藤は中瀬を見た。
「中瀬さん。アンタのUSBは渡してくれないか?映像が残っているだろ?」
中瀬は手当てしてもらっている警官にもう大丈夫と言って立ち上がった
「渡してもいいがこのUSBの中身は空なんだ。アイツを貶めるためのブラフなんだ」
中瀬はUSBを近藤に渡す、中瀬からUSBを受け取る近藤
「わかった。一応受け取るが本物があるなら欲しかったよ。」
近藤が中瀬を見ると
「何のことだか」
と言って中瀬は目線をかわした
「まあいいよ。それはついでだしな。じゃあ、中瀬さん。まずはアンタを病院にも連れ行きたいから一緒に行こう。」
中瀬は頷いた
「ええ、ただ数分七五三と話をしたいんで、少し待っていただいていいですか?」
近藤は頷き
「わかった。終わったら玄関に止めてある車に来てくれ、そこで待っているから」
「わかりました。」
近藤と中瀬の話が終わると「帰るぞ」と言って、警官が全員一二三クリニックをでていった。全員がでていくのを見ると中瀬は七五三を見て、頭を下げた
「ありがとう七五三。おかげで川口を捕まえることに成功したよ」
七五三は少し驚いた
「アンタでも頭を下げることはあるんだな。」
中瀬は笑った
「雑誌の編集長なんてのは頭の下げっぱなしだぞ、イタッ」
川口に殴られた痛みが取れず苦しい表情になる。
「それとミサキちゃん。いくら飲み物がなんでもいいと言っても、コーラはないだろう?色全然違うし内心慌てたぞ。」
ミサキが笑い
「盗撮していた罰ですよ。」
「それは七五三も同じだろ?」
中瀬が七五三を見ると、七五三はしょんぼりしていた
「先生はいいんですよ。プラダのバック買ってもらうんで。」
中瀬が笑いだし
「七五三お前の隣にはとんでもない助手いたもんだな!イタッ」
痛みが走りまた苦しい表情になる中瀬。七五三が
「さっさと病院行け」
と言うと、中瀬は手を挙げ、一二三クリニックを出て行った。ミサキが七五三をみる
「これでよかったんですかね?」
七五三は俯いた。
「さあ?、これがいい方法だったかどうかはわからない。だが俺の仕事はまだ終わっていないし、やっとスタート地点に着けたというところかな?まあ後は本人の心持ちしだいだな。」