表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

クラマスの憂鬱

 俺、俺が…、威厳を持っていないとゲームのキャラは務まらない。


 いつも、インする前に気持ちを切り替えてから始める。


 そんな俺でも、今となっては、 クランマスター(クラマス)に成ってクランの舵取りをする立場だ。


 初心者の頃とは違い模範となるようなプレイをこころがけなければ成らないが、実際の腕はクランの中でも下から数えた方が早い。


 インする時間が社会人に成って、圧倒的に少なくなって、学生時代に比べ伸び率が落ちたのは確かだとしても、総時間数で補えていない所はやはり腕の問題か。


 今回、遊んでいるゲームの運営会社が、ゲームの今後の参考の為に、目ぼしいクランのクラマスを集めて、意見交換を行うことに成った。


 勿論、うちも呼ばれているのは良いとして、多分、クラマスの中で俺が唯一偽りの仮面を被っている。


 実ばれを避けて、クランではオフ会はしていないし、敢えて年齢等の話題に成らないように、クラマスと呼ばせたりしているが、流石に今回参加すれば他のクラマスからの情報も漏れるだろうし、下手して運営が記念写真などと言うものを撮ったりすれば、晒し者確定となってしまう。


 困った、誰か替え玉として送り込む手もあるが、替え玉に色々と教え込む時間もない。


(だって集まりは、あ・し・た)


 悶えていてもしょうがない、枕を抱えて転げ回っていてもらちが明かないので、とりあえずゲームにインすることにした。


 ヘッドセットを被りいつものセッティングを確認してから、クランの部屋に入る。


 いつもなら、10人そこそこのイン率なのが今日に限ってクランメンバーの半数以上がそこにいた。


 一瞬、明日の会議に向けての嘆願か何かの為に集まっているのかと思ったら、違うようだ。


 サブマスの言う分には、明日の会議に向けて、壮行会を行うという事で集まっているので、一言抱負を、とのこと。


 まずい、何も考えているわけがない。


 無難な事を言っておいて、最後にクランのスローガンである、


”真実と情熱の矢こそが全てを打ち砕く、我らは一本一本の矢となりクランは弓と成ろう!”


で閉めて、一応お開きとなった。


 サブマスにすかさず個チャを入れて、何でこんなイベントをやったかと聞くと、クラメンから最近クラマスが暗いのできっと例の会議のせいだろうと言う流れで、励ます会的に催したとの事。


 謝意を伝え明日があるので、ここらで落ちると伝える。


 気遣ってくれるのは嬉しいが、問題点はそこじゃないんだ。


 もう考えてもどうにもならないので寝ることにする。


 朝起きて、重い気持ちで身支度を始める、カツラでも使って変装をする事も考えたが余り現実的では無い。(持ってないし)


 あれこれ考えている間に時間が迫ってきたので、上下はいつもの出掛けるときの格好で、髪を整えアクセントに革のジャケットを羽織ってサングラスで行く事にした。


 会場の部屋は、大きなラウンドテーブルの形式で、テレビで見た重役会議室のような場所だった。


 渡されたシートに従った席に着くと、そこにはクランマークを印刷した名札がご丁寧にも用意されていた。


 ちなみにうち紅蓮の矢のマークは、


”ハートの上に三本の矢を握った手”


トライアローズ。


 向かい側のテーブルの上には、見慣れた車輪やら、斧を型どった強豪のクランマーク並んでいる。


 さすがにこの明るさではサングラスを掛けていると、良く見えないので、思いきって外して脇に置いた。


 少し会場がざわついたが、こっちはそれどころでは無い。


 話さなきゃいけないけど、ヘッドセット無いし、一応他のクラマスとも、ネットでは話したことは有るんだが…などと、考えていたら、運営がそれぞれのクラン名を呼んで、自己紹介をさせ始めた。


”鉄壁の城塞、クラン黒の熊の…”


 えー、紹介にクランの二つ名が付くなんて聞いてない。


 どうしよう等とパニクっている間に、順番が回ってきた。


”暴虐と殺戮の王、クラン紅蓮の矢の…”


 終わった。挨拶を終えて席に座ると、ドット疲れが出た。


 実際、何を挨拶したかも覚えていないが、進行は滞りなく進んでいるので問題はないだろう。


 会議は多岐の話題について話されて、終了となったが、はっきり言って話しはしたが、何を言ったか記憶に残ってはいない。


 机の上のサングラスを手にとって、部屋を後にする時に、声をかけてくれた他のクラマスに挨拶を返す位の余裕しか無かった。


 どっと疲れが出た反面、肩の荷が半分落ちた筈だが、逆に反対側の肩が重くのし掛かってくるのは、クランのメンバーにどう対面するかを意識したからだろう。


 外へ出ると、明るい日差しに目が眩んだので、サングラスをかけようとしたら、30人位の集団がアイドルの出待ちをしているような感じで、通りにたむろしているのが見えた。


 元気なことで、こっちはへとへとだ、と、思いつつその横を通り抜けようとしたら、突然その集団が振り替えって、


「「ハッピーバースデー、クラマス」」、


 ええ!これってうちのクランメンバー?


 そして「真実と…」と言葉は続いた。


 脇にすっと、自分と同じくらいの年の男性がやって来て、


「この後、続けてオフ会ですのでよろしくお願いします。フェアリーベール」


 え?メンバーの方は「…弓となろう!」と言った後にゾロゾロと移動を始めた。


 何で俺って判ったの?


 後ろを見ると、ニヤニヤしている他のクラマス達がいたので、奴等が教えたに違いない。


「お前たちも来るだろ」


と声をかけたら、何もかも吹っ切れた気がした。


 そうさ、私は26歳(に成ったばかり)のOL。昼間は会社勤め、夜はクランを率いて戦いまくるゲーマー。


 バレないように、ヴォイスチェンジャーで声を変え品を変えて、隠してきたがそれも今日で止めても良いかもしれない。




 ちなみにオフ会で明らかに成ったのは、時々ヴォイスチェンジャー働かず、地声で喋っていたらしいが、クラメンは逆に捉えてクラマスが声を変えて遊んでいると思っていたようだ。


 実はそれも影の伝説の一節に記されている事は、クラマスはまだ知らない。


fin


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ