問題発生
あらすじ:レンは笑顔が下手
目が覚めると、日が昇っており、葉の隙間から日差しが差し込んでいた。
周りを見渡すと、俺の周りで子供達が寝ており、少し離れた所でロムさんが夜に見張りをしてくれている。
「ありがとうロムさん。見張りしてくれてたのか」
「おおレンさん、起きられましたか。子供達に見張りをさせるわけにもいかんじゃろ」
「起こして変わってくれればよかったのに……」
「いやいや、あんなに気持ち良さそうに寝てるお顔を見たら起こせんわい」
「……そんな顔してた?」
「それはもう。リンが面白がるくらいにはいい顔しておったよ」
あのガキめ……。
「昨日まで色々あったのではないですかな?」
「まあ……色々ありすぎてあれだったけど……」
「儂だって昔は一流の冒険者だったんじゃ。寝ずに一晩程度朝飯前じゃよ」
「そうか……じゃあせめて火を点けるのと朝飯の確保はさせてくれ」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかの」
そうと決まれば話は早い。俺は近くに落ちている枝を集めて、火がつきやすいように組み、火を点けるために魔法を使おうとした時に違和感に気付く。
昨日の魔力が回復していない。
いくら疲れていようとも魔力は寝れば回復する。少なくとも俺の居た世界では回復していた。しかし昨日魔物を倒した時の消費した魔力が、一切回復していないのだ。
魔力が回復していない理由はなんだ? 考えて今この場で思い付く理由は2つ。1つ目はこの森では異常に魔力が回復しないという事。もう1つは異世界にいる事自体が原因だ。
「なあロムさん」
「む?」
「あのさ……この森って魔力が回復し難いとかあったりする?」
「うーん……そんな話は聞いたことがないのう」
「……そっか」
森が原因ではないとすると、この世界自体が原因となる。
あぁそう言えば昔神官が、異世界に関する魔法の研究等は禁忌とか言ってたような……と言うことはこの現象は異世界への転移の代償だって言うのか? んなバカな。
「どうかしましたかな?」
「あぁ……魔力が回復してなくて困惑してる」
「むむ? 寝れば回復するはずじゃが……今までにこんな事は?」
「いや、ない」
「うーむ……今まで無かったのであれば、最近何かがあったからだと思うのじゃが、心当たりは?」
異世界転移しかないな……しかし、前の世界で禁忌となっていた魔法だ。この世界でも禁忌だった場合面倒だから言わないでおこう。
「えっと……ある事にはあるんだが……まあ事情が事情でな。それよりも俺はここで一度魔力を回復してるんだ」
「詳しく聞きましょう」
俺は強力な魔物と戦い、転移魔法で何処かに飛ばされたと言う事にして、異世界の事を伏せながら昨日起きた事をロムさんに伝える。
「ふむ……となると魔力が自然回復しなくなる呪いを受けたと言う可能性が高いかもしれんのう」
「なるほど」
その可能性は見逃していた。しかしそう言う事なのであれば、俺は今後ポーションをがぶ飲みしなければならないと言う、非常に頭の悪い事をする必要がある。
「なんか自然回復以外の回復方法ないか?」
「そうじゃのう……魔力の受け渡しでいいかの?」
「受け渡し? そんなのできるのか?」
「ご存知ないですかの? 魔法の教育で魔力を感じ取るために行う、一番最初にやる事だと思うのじゃが……」
なにそれ知らない。少なくとも俺の世界では無かったぞ。
「うーん……ま、まあそれで頼む」
「うむ……リンを起こすからちょっと待っておれ」
「ん? ロムさんじゃダメなのか?」
ロムさんは元々は冒険者だと言っていた。ならばロムさんでも問題ないはずだ。
「うーん儂でも一応はできるんじゃが、いかんせんこんな老いぼれだと魔力を練るのも大変での? まあついでじゃしリンに練習させようって魂胆じゃよ」
「なるほど……なるほど?」
「まあそう言うわけじゃから……リン! すまんがちょっと起きてくれんか?」
「ん〜もうちょっと〜」
「これリン……お前それで起きてきた事ないじゃろ……起きなさい」
「ん〜」
リンは朝が弱いらしく、なかなか起きてこない。
「すみませんレンさん……お見苦しい所を……」
「いやいや、お気になさらず」
それから10分ほどしてからロムさんが再び起こし、リンはようやく非常に眠そうな顔をしながら起きてきた。
「……なに?」
……めっちゃ不機嫌。そうだよね眠いよね、でもこれは俺の死活問題なのだ。リンには悪いが我慢してもらおう。
「リン。起きて早々ですまんが、レンさんに魔力を分けてやってみてくれんか?」
「……なんで?」
「ちょっとトラブルが発生しておってな」
「……」
リンは俺の方を向き、事情の説明を求めているのかジッと無言で見つめてくる。
「すまん。俺の魔力が自然回復しなくなった。自然回復以外なら回復するかもしれないから確かめたい。朝一で辛いと思うけど頼む、協力してくれないか?」
頭を下げてリンにはお願いする。
リンは俺が頭を素直に下げてくるとは思わなかったのか、面食らった様な顔をする。そして素直に頼みごとをされた事が無いのか、照れているのを隠すかのように俺から視線を外す。
「まあ……いいけど」
「ありがとう!」
「う、うん……」
リンは頬を染めながら俯く。
「じゃあ手だして」
「手?」
「うん。魔力渡すから両手前に出して」
よく分からんがとりあえず従っておこう。
俺が両手を前に出すと、リンがその手を掴み、両手を繋いでいる状態になる。
「へ?」
俺は幼女趣味は無いが、急に手を掴まれたら流石に動揺してしまう。
「じゃ、じゃあやるよ?」
思春期なのだろうか、男の人と手を繋ぐという事に照れた様子で、リンは下を向きながら魔力を渡してくれる。
リンの手からじんわりと不思議な感覚が伝わってくる。これが他人から魔力を受け取る感覚なのだろうか、エリクサーを飲んだ時とは全然違う感覚だ。
エリクサーも外部からの魔力補給なのだが、あれは飲むと体の中心から満たされていくような感覚なのだ。
それに比べると、今回は満たされていくという感覚がない。それどころか、魔力を受け取れば受け取るほど、異物が体に混ざりこんで来るという気味の悪い感覚に襲われていた。
初めて人から貰うしこんなものかな?
気味の悪い違和感は魔力の受け渡しという、慣れない行為の代償だと思い、俺は無視して魔力を受け取り続けた。
しかしある一定の量を超えたあたりから、違和感が不快感に変わり、無視できなくなった。
体の中心が、本来満たされるはずである場所が、受け取った魔力を拒み、外部に出そうとしているからなのか、恐ろしいほどの吐き気や頭痛と言った不快感がが俺を襲う。
「ちょ、ちょっとリン……タンマ……」
「え!? ど、どうしたの!?」
リンは手を離し魔力の供給を中断する。
「ごめんちょっとやばい」
即座に我慢出来ないと判断した俺は、子供の前で胃液をぶちまける訳にもいかないので、駆け足でこの場から離れ、全てをぶちまけた。




