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先生と私の恋愛事情  作者: 羽鳥藍那
中学編
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6

 部活の朝練を覗くと、上級生が道着を身に着けて素振りをしていて、その内の七人は女の先輩でした。体育館には、私と同じ様に見学している女子も三人いますが、見学者の一人は真理佳ちゃんだから人数には入らないですね。彼女は、翔真君について来ただけでしょうから。


 男子は紺の道着ばかりだけれど、女子は紺と白とが居て白の方が多いです。少しすると顧問の先生がやってきて、何人かにアドバイスを与えると、男子を含めた見学者に声をかけてきました。

「この部は大会の成績はそれほどよくは無いですが、それは中学に入ってから始めた子が多いからだと思っています。ですから未経験だからと躊躇せずに、興味が有ったら入部届を持ってきてください」

 そうしてチャイムを合図に解散して教室に向かいました。今日から給食も始まるので午後も授業が有りますが、道場に行くのは夕方だからそれも気になりません。それまでは、あの人に会えるこのワクワク感に目一杯浸っていましょう。


 運動をするかもしれないので、学校ジャージに着替えて竹刀を持って、少し早めに道場に着きました。挨拶をして中に入ると、小学生が練習しています。

 まだ小さいから低・中学年のようですが、それでもしっかり声を出して、一生懸命に竹刀を振っていて感心しました。しばらく見学していると私と同じくらいの子達が入って来ますが、皆が道着を着たまま入って来る事から、その格好で自転車を漕いで来るみたいです。

 乗り難くは無いのかと思ってはみたけれど、私は歩いてこれるのだから問題は無いですね。奥には更衣室も有るようですが、そちらは指導者用なのかもしれません。


「早かったね、沙織ちゃん」

 後ろからそう声をかけて来たのは、こちらも学校ジャージ姿の翔真君でした。さすがに真理佳ちゃんは付いて来てはいないけど、代わりに道着を付けた男の子がいます。

「こいつは笹本一馬(ささもとかずま)。小学校が一緒で、ここを紹介してくれたんだ。一馬、この子は橘沙織ちゃん。幼稚園が一緒で真理佳の友達でもある子だよ」

「笹本です。よろしくお願いします」

 笹本君は丁寧に挨拶してくれたものの、私(の胸?)を見て無礼にも「ちっさいな」とつぶやきました。失礼な男です。

「橘沙織です。ちっちゃいのがお嫌でしたら、よろしくしなくても結構ですよ」

「あ、いや、ごめんなさい」

 つい、『これだから同年代の男の子は!』と思って口に出た言葉に、笹本君は素直に謝罪をしてくれました。

 相変わらず気が強いなぁ、などとあきれる翔真君の後ろから井口さんが現れて、二人の頭を軽く小突いて叱ります。

「お前らだって、俺ぐらいで背が止まると言われるからな、ちっこいって言葉は」

 井口さんは言われ慣れているのでしょうか。私に苦笑いを見せると、翔真君の襟首を掴んで奥につれて行きます。擦れ違い際に「橘もだ」と言われたので、後ろをついて進むと休憩所みたいな部屋に入りました。


「さて、まずは注意事項からだな」

 椅子に座るよう促し話を切り出します。私たちは並んで椅子に座り、道場内の説明や注意事項、心構えなどを一時間近く聞かされ事になってしいました。さすがに聞き飽きてきた頃合いで、井口さんが竹刀を二本取り出しますが、一本は赤マジックで印がされていて良く見ると割れている様でした。

「手入れが悪かったりすると、こうやって割れたりする。なので、手入れ方法を……」

 一つ一つの作業を丁寧に説明しながら、竹刀をバラバラにしてしまいます。説明されたけれど元に戻せる自信が正直ないなか、井口さんは道具を取り出して、竹の角を綺麗に削って行きます。

「こうやっておくと、竹同士が上手くズレて割れにくい。まあ、それでも使っていれば割れるけど、割れてしまった竹刀はパーツを組み換えしてやれば使えるようになる」

 結局は割れている竹をそのまま使って組み上げると、私たちに竹刀を出す様に促します。


「あの、携帯で写真を撮っても良いですか」

 どうしても自信の持てなかった私が提案すると、驚いた表情をしつつも「いいよ」と言ってくれます。私が取り出した携帯を見て、「ガラケーか」とほっとした様な顔を見せたので、井口さんもスマホでは無いのかもしれません。

 真理佳ちゃんとはアドレス交換などをしていたので、翔真君も持っているものと思ったけど、「女の子は危険があるからね」との理由で持たされてはいないようでした。

 私は井口さんに携帯を渡して指示通りに分解を始め、その作業を写真に収めてもらうと、差し出された携帯を受け取らずにお願いをしてみます。

「差支えなければ、師範の連絡先を入れて頂けませんか?」

 一瞬戸惑ったように動きを止めはしたけれど、何事も無かったかのようにロッカーに置いてあったバッグから携帯を取出し、赤外線通信でアドレスを移してくれます。

「ワン切りしてくれれば登録しとくよ」

 そう言って返された携帯には、井口さんのフルネームや住所まで入っていて、言われた通りに電話を掛けると、黙って登録を完了させていました。そうか、名前は圭祐(けいすけ)なんだ。


 初日はそんな感じで、竹刀を振る事も無く終わりを迎えて帰路につきました。

『次に会えるのは来週だなぁ』

 そんな事を考えながら夕食を取っていたら、母が思い出したように「武具店から電話が有って、週末には道着が届くそうよ」と言ってきました。実は練習用の道着も買う予定だったけれど、採寸してもらったら取り寄せになってしまったのです。

 母には自転車で取りに行くと言い置いたけれど、試しに井口さんにメールをしてみることにしました。

『週末には道着が届くと連絡が来ました。来週は道着を着て行った方が良いでしょうか? それと、自転車で取りに行くつもりですが、中台の交差点を曲がれば良かったですよね 沙織』

 期待をしていなかったと言えば嘘になるけど、お風呂上りに部屋へ戻ると『日曜の午前中なら空いてるよ』との返信が入っていて嬉しくなります。待ち合わせする時間と場所をメールすると、デートの約束みたいでワクワクしました。


 楽しみにしていたのに、やって来た井口さんの車には翔真君も乗っています。

「お休みの日なのに、ありがとうございます」

 後部座席に座ってお礼を述べると、井口さんは「気にするな」と笑って車を発進させて、翔真君は「真理佳から伝言」と言って紙を差し出してきます。メールではない事に疑問を抱きつつ受け取った紙を開くと、「僕まで巻き込むな!」と書かれていてビックリです。

 どうやら、二人で取りに行くことに不安(?)があった井口さんが、理由を付けて翔真君を連れだしたようで、少し自重した方が良いのでしょうね。

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