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翌日、学校では全校集会が行われましたが、部活紹介が主な内容でした。全員が部活に入れと言う事らしいけど、入らなくても咎められることは無いとの事。
運動部も文化部も、顧問の先生と部員数名が舞台に上がって紹介文を読む形で進行されます。剣道部は男女一緒の様で、朝練を見に来てほしいとの話がされましたが、他の運動部とは違って大会の成績などには触れることは無ありませんでした。
翔真君が入学式の日、顧問の先生に挨拶に行っていたらしいけれど、道場との繋がりが有るのでしょうか。それとも上級生に道場に通っている人がいて、挨拶に行くように勧められたのでしょうか。
道場にも通う事にはなりましたが、あまり強くない部活なら安心です。いくらお転婆で男の子とも喧嘩をしていたといえ、誰かに習って運動なんかした事も無いのですから、付いて行けるか心配だったのです。
ちなみに小学校では習字のクラブだったので、字は上手い自信があって賞も貰った事が有るのですよ、これでも。
教室に戻ると早速、入部届が配られました。クラスや名前などを書いて、希望する部活の顧問に提出するのだそうです。
周りの子達はけっこう悩んでいたようですが、私は迷わず書ききってしまいます。すると、後ろの子が私に興味を示してきました。
「橘さんはもう書いたんだ。どこに入るの」
「剣道部に入る事にしたわ。近所に道場が有って前々から興味が有ったの」
「へ〜ぇ。見かけによらず勇ましいのね」
「もともとお転婆だったのよ。これでも」
そう、お転婆を卒業して御淑やかになるつもりでいたけれど、一転強い女を目指す事にしたのです。
近くに集まっていた男の子からは「やべぇな」なんて聞こえて来るけど構うものですか。あの人の近くに居られるなら、同年代の男の子なんて興味は無いのです。
帰りがけ、入部届を提出に職員室へ寄ると、そこには翔真君がいて顧問の先生と話し込んでいました。少し待とうかとも思ったけど、買い揃えるものがあるなら早い方が良いのではと思い直して声をかけます。
「すみません、剣道部の入部希望者なのですが……」
近づいてそう告げると、翔真君が驚いた顔で、先生は嬉しそうな顔でこちらを見てきました。
未経験者だと告げると、防具等は五月くらいに一括購入するので、まずは竹刀と手入れに必要な用品を用意するようにと紙を渡されました。たぶん、翔真君が井口さんに見せていた紙と同じものだと思います。
渡された二枚目は隣町にある武具店のチラシで、おおよその金額が解る様にはなっています。これくらいなら母に言えばすぐに用意してくれるでしょう。
二人して職員室を出ると、あきれ顔の翔真君が声をかけてきました。
「本当に剣道をやるんだ。これから用品を買いに行くけど、なんなら一緒に行くかい」
道に自信が無くて願っても無い申し出で、「よろしくね」と道場の前で待ち合わせる約束をします。でも、翔真君と自転車で買い物なんて、井口さんに誤解されたくないな。最初の日だって「翔真の彼女か」なんて言われてしまったのですから。
真理佳ちゃんが居ないので聞いてみると、木下さんと家庭科部に入るらしくて、まだ二人して教室に居るみたい。これから迎えに行くと言うのでここで別れる事にします。
「それじゃ、私は先に帰るわね。それにしても、過保護ね」
だって、真理佳ちゃんを一人にしたくないから教室において来たのでしょうし、一緒に帰るために教室に戻るのでしょうから。ほんと、シスコンなんだから。
自宅に戻ると、着替えと食事を済ませて自転車で道場へ向かいます。
道場横の駐車場には既に翔真君が待っていたけど、自転車が見当たりません。自転車を押して近づいて行くと、翔真君のすぐ横に停まっていた車のエンジンがかかり、いぶかしむ私に車内から声がかかりました。
「翔真から車を出してくれと頼まれてな。ちっこい車だが、遠慮せずに乗ってくれ」
運転席に座る井口さんを一瞥した翔真君は、呆れ顔のまま黙って助手席に座り、私は自転車を停めに行って後部座席に座ります。
シートベルトをしたところで車が走り出しますが、チラチラとルームミラー越しに目が合う気がします。いえ、後方確認をしているだけかもしれないので、あえて意識しない様に外に目をやってしまいましょう。