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寒稽古の最終日。真理佳ちゃんとの初詣の約束が有ったので、稽古が終わると同時に家に戻ってシャワーを済ませて家を出ます。少し遅れて待ち合わせ場所に着くと、真理佳ちゃんと翔真君に美紀ちゃんが既に揃っています。
「ごめんね、待たせちゃって」
そう声をかけて合流すると、揃って初詣を済ませました。
願い事は当然、「圭祐さんのいる高校に受かりますように」なのは言うまでもないけれど、誰にも言えない秘密でもあるので絵馬には書けません。
実はこの神社、恋愛成就のご利益もあるのです。
当然そちらのお守りもあって買おうか悩みましたけど、真理佳ちゃん達がいるところで買う勇気が無くて、無難に身代わりのお守りにしました。
名前で呼ぶことを許してもらったのに、意気地無しですよね。
近くのファーストフード店で、遅めの朝食を取りながら翔真君に進路の事を尋ねてみると、やはり圭祐さんから誘われていたようです。
真理佳ちゃんと美紀ちゃんは私と同じくらいの成績。翔真君とは掛離れているので、別の高校に行く事になるんでしょうね。それでも念のため、進路をどうするのか聞いてみました。
「私はお兄ちゃんと同じ高校に行けるよう、お兄ちゃんに勉強を教えてもらうの」
「私は塾に通う予定だったんだけど、さっき翔真君がまとめて面倒をみるって言ってくれたから、帰ってから親と相談かなぁ」
「で、沙織ちゃんも一緒に教えようか? どうせなら高校総体で個人男女優勝ってものを狙いたいんだけど」
二人の言葉にはびっくりしましたが、誘い方が翔真君らしくないです。彼は真理佳ちゃんがいじめられない環境が欲しいだけで、勝敗に固執はしないのだから、圭祐さんからそう言って頼まれたのでしょう。
「家庭教師でも頼もうかと思っていたけれど、翔真君が教えてくれるならば安く済みそうね」
「そうだね。幼馴染価格だからジュース代でいいかな」
それでは美紀ちゃんの授業料は、と伺い見ると「お菓子代」と即答されました。場所は公民館の学習スペースなので、飲食は問題ないらしいのです。
帰り道、美紀ちゃん達が家庭科部の買い物話をしている隙に、翔真君に確認です。
「井口師範から、勉強を教えてやってくれって頼まれたの?」
「昨日電話が有ったよ。僕はもう少し上も狙えるけど、真理佳に合わせるつもりでいたから承諾した」
そして私の方を向いて苦笑いを湛え、呆れたように言葉を続ける。
「そしたら『橘も』なんて言いだして、勉強を教えてくれないかと頼まれた。なんだか訳の解らない言い訳を言っていたけど、渡りに船でそっちも受ける事にしたんだ」
「私と同じ高校に行きたいの?」
「友達が一緒に頑張れば、張り合いも出るだろ。真理佳は諦めが早いからさ、周りがやる気を出してくれれば、置いて行かれない様に頑張ってくれるだろうとね」
翔真君は真理佳ちゃんの事を、どう思っているのだろう。やっぱり妹としてしか見ていないのだろうか。それだと、真理佳ちゃんの気持ちは何処に向かうのでしょう。
そして私の圭祐さんを思うこの気持ちも、届いてはいけないものなのでしょうか。
三学期が始まると、土日の午前と水曜日に勉強会が開かれるようになりました。
本来ならば毎日でもと思うのだけれど、道場を休みたくは無いし、圭祐さんを独占したいのでこうしてもらったのです。
まずは進級する前に一年からの二年分を復習する事になって、古い教科書を抱えて集まります。今習っている所も聞けば教えてもらえるけど、やっぱり積み重ねが大事だと基礎から聞く事になります。本当に面倒ですね。
最初の頃は大袋のスナック菓子を持って来ていた美紀ちゃんですが、手が汚れるので注文を付けたら、小袋のお菓子になりました。そうそう、一度だけ丸々の羊羹を持って来た事が有りましたっけ。
「どうやって食べるつもり?」
「皆で順番にかじればいいじゃない」
いえいえ。そんな量はふつう食べれませんし、かじる物じゃないでしょう?
結局は別の物を買いに行く事になったのですが、真理佳ちゃんが涙目で反対したのが最大の理由です。
「お兄ちゃんと間接キスなんて、絶対に許さないんだから」
そう聞こえたのは私だけだったみたいだけど、「真理佳ちゃんが翔真君の前と後にかじったら?」なんて言えていたらどうなっていたでしょうね。
ジュースは大きいのを買ってきて、コップ持参で分けました。
温くなっても良いようにお茶系にしましたけど、ポットに暖かいコーヒーでも良かったかもしれませんね。美紀ちゃんは煮詰まって来ると、急に寝てしまいそうになるんですもの。
そんな感じで学年末テスト前には二年分の復習が終わり、テスト対策もしっかりやってもらったので、三人そろって成績がぐんと伸びました。五段階評価で二が付かなかったのは、入学してから初めての事だったりするのです。
当然ながら教科毎の偏りはあるので、四月からはその辺の対策も考えないといけませんが。




